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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


学園

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『学園』第一号(青木嵩山堂、一八九二年九月一五日発兌)。先日立ち寄った善行堂にて。青木嵩山堂が発行する文芸投稿雑誌である。表紙の画家については不明。左下に「中井刀」とのみ。巻頭「発行趣意」にいわく

《目今新聞紙ノ情態ヲ見ルニ或ハ小説ノ淫蕩ナル政党ノ偏頗ナル一向他人ヲ罵リ又ハ悦バセルニ汲々タル者多ク青年文士ノ学術ニ益アル者幾ント希レナリ雑誌類ハ新聞紙ト少シク面目ヲ異ニシ或ハ詩ニ或ハ文ニ後進ヲ誘導スルノ意ニ出デシ者無キニ非ズ然レドモ多クハ衆人ノ詩文ヲ編輯スルニ止ル者ノ如シ弊舗茲ニ感ズル所アリ今般新タニ一雑誌ヲ編輯シ之レヲ学園ト名ケ毎月一回必ラズ之レヲ発行スルコトゝ為シタリ其体タル詩話アリ文談アリ和歌アリ俳句アリ故事ノ門アリ詩文ノ欄アリ記事論説紀行雑話故事質義等ニ至ルマデ凡ソ学術ニ益アル事ハ一切之レヲ罔羅シ》

そして詩文は近藤南州、和歌は中村良顕、俳句は反古庵宗匠が選者となり、優秀作には賞品を提供するのだそうだ。編輯兼発行人は青木恒三郎である。

「青木嵩山堂の出版活動」

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広告料一行(五号活字二十五字詰)金二十銭ともあるが、第一号の広告はすべて青木嵩山堂の出版物で占められており、販売図書目録ともなっている。幸田露伴『尾花集』は《本月下旬出版》である。本文の記事は以下の通り。

作詩園 詩学大意  因是道人
史園  二十一史徴 徐汾武令・原著 南州外史・訳補
詩園        南崧近藤元弘
文園        南州近藤元粋
雑録園
大阪天満神社献詠会、蓼生園月次会
月並発句輯     反古庵雅友宗匠   
博物園       薬剤師・上田貞治郎

近藤元粋は伊予出身の漢学者。近藤元弘は元粋の兄で、正岡子規が入学した当時の松山中学校長。因是道人は葛西因是、大阪生まれの儒者。反古庵雅友については不詳、大阪の俳諧師か。上田貞治郎は先日も書いたように青木恒三郎の兄である。

雑録園」は雑報欄。そこに「逍遥遊社」「優遊社」「菅廟詩会」という定例のグループ活動が紹介されており、当時の文学サークルの一端がうかがえる。「逍遥遊社」は近藤南州と岡田聿山が主唱して藤沢南岳、山本竹渓、田部苔園、五十川訊堂、日柳三舟、横関天籟、山本梅崖らの諸老十余名が七年前に結成した詩会だそうだ。「優遊社」は小野湖山、遠藤松雲、石橋雲来らが毎月行っている。「菅廟詩会」は藤沢南岳を中心に毎月六日菅廟内の連歌所で行われている詩会。菅廟とは大阪天満宮のことであろう。中桐絢海『観楓紀行』に登場した名前も何人がいる。

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裏表紙の広告。青木嵩山堂には図画店もあったらしい。そこでは古美術の複製木版画を販売していたようだ。

青木嵩山堂の嵩山堂について先に東京日本橋の青木嵩山堂の近くに「小林」嵩山堂があった。明治出版の研究者によれば、小林嵩山堂は江戸時代から続いていた老舗らしい》という青木育志氏の文章を引用したが、小林嵩山房(嵩山堂ではなく嵩山房)の本が一冊見つかった。『東江先生書唐詩選』(小林嵩山房、天明四年[1784]甲辰十一月)。東江先生は沢田東江(1732-96)、書家であり漢儒を修め戯作も執筆している多才な人物。唐詩選をテキストにした草書の手本。

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四書五経から詩書、字書、文集あるいは書の手本や画譜まで幅広い出版内容である。


by sumus2013 | 2015-05-09 21:05 | 古書日録 | Comments(0)
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