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林哲夫の文画な日々2
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四月は残酷な月

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吉田健一『葡萄酒の色』(垂水書房、一九六五年一月三〇日)。三月の初めに必要があって吉田健一の本を何冊か買い求めたうちの一冊。訳詩集である。なかにT・S・エリオット『荒地』の訳があり、その冒頭の詩篇「死人の埋葬」がよく知られる「四月は(もっとも or きわめて)残酷な月」から始まっているので、本日取り上げてみた。

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垂水書房だけあって渋い造本である。むろん活版(印刷者=山田一雄、精興社)。こういう本はもうほとんど見なくなってしまった。嘆くつもりはないけれど少し寂しい。吉田健一訳を原文と付き合わせてみると、いくつか首をかしげる部分がある。

T.S. Eliot (1888–1965). The Waste Land. 1922.
http://www.bartleby.com/201/1.html

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冒頭の the cruellest を単に《残酷な》としたのも何か考えがあってのことだと思ってはみるもののやはり最上級には意味があると見なければならないのではないか。またこの詩の二頁目の最初の行《この赤い岩の下に蔭があり、》は少なくとも小生が参照した一九二二年版には該当する文章はないように思う。別のヴァージョンがあるのかもしれない。他にも細かいひっかかりはあるが、それでも全体の調子は格調高く正直に移した凡庸な訳詩よりもずっといい。そもそも吉田は正確な翻訳というよりも意訳に近い表現を好んだようだ。

もうひとつ残念なのは「死人の埋葬」にはドイツ語とフランス語が織り交ぜられており、しかもかなり重要な役割を果たしているにもかかわらず、和訳ではそれが全く分らない。どうすればいいのかは難しい問題だが、何とか工夫して欲しかった。

先日紹介した『江藤淳と大江健三郎』を読んでいたら大江は深瀬基寛訳のエリオットに深く動かされたということが書いてあった。たしかに『荒地』を読んでみると(恥ずかしながら流し読みでなくじっくり向き合ったのは本日が初めて)その意味が分らなくもない(と言っても大江作品もそんなに沢山は読んでいないのですが)。

思いつきひとつ。「死人の埋葬」を俳句にすれば、この一句?

  さまざまの事おもひ出す櫻かな  桃青

要するに「櫻の樹の下には屍體が埋まつてゐる!」ということである。


by sumus2013 | 2015-04-01 20:43 | 古書日録 | Comments(0)
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