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林哲夫の文画な日々2
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古本はこんなに面白い



中野智之『古本はこんなに面白い 「お喋りカタログ」番外編』(日本古書通信社、二〇一五年三月一八日)および『THANK YOU トモさん』(THANK YOU トモさん実行委員会)が届く。いずれも中野書店・中野智之さんの遺文集である。どこを開いても中野さんの語る声が聞こえるようで(ちょっと鼻にかかったようなソフトな声質だった)あらためて逝去が惜しまれる。後者はフルカラーの豪華版。先日のお別れ会のために作成されたようだ。文集の他に「トモさん写真館」として珍しい写真がたくさん収められており、晩年の一時期しか知らない小生にとっては、たいへん楽しいアルバムだ。どの写真を見てもたいていカメラ目線でニッコリしているのがサービス精神旺盛な中野さんらしいと思う。

『古本はこんなに面白い』から一篇紹介しておこう。題して「吾輩ハ我輩デハナイ」。中野さんは市場で夏目漱石の画讃「我輩はおさきまつくらの(猫)である 漱石戯(朱印)」を買った。(猫)のところに紙袋をかぶった猫が踊っているような絵がある。立派な二重箱に入っており表には「漱石画讃」、裏には「楽天珍蔵」と書かれている。おまけに金259円也という昭和九年の落札ふだまで付いていた。今なら百万円くらい。

《しかしながら、いけません。これは漱石の筆跡じゃない。いかにもそれらしいけれど、漱石がこんな戯れ句をつくった記録もない。》

《なら、何でそんなもの買ったんだといわれそうです。なんででしょう。むろんその時の買値はイケナイ品に相応しい値段でした。古書の市場ではいい加減な安札をヨタ札といいますが、つまりはそういう値段。売手も買手も、みんなペケと判断したわけです。
 でもこれ、面白くありません? 真偽は別にして洒落た画讃です。が、まずひっかかったのは「我輩」でした。ちゃんとした(?)偽物を作るならば「吾輩」でしょう。》

《洒落とか遊びの感覚でしょう。ついそんなところに惹かれてしまった。でも売立て会の札は本物みたい。このときこの値段で売買されたのは事実らしい。だとすれば罪な話ですが、いまさら致し方ありません。》

以上が前段。ニセだけど面白い、既成概念はそれとしてモノそのものを評価しようとする姿勢がいい。これに続く後段は、十年以上昔、とある古書市で漱石の一行書を落札したと語り始められる。署名がなく「漱石山房」印だけ。ちょっと不安もあったので同業者Aさんに見てもらった。

《「だめだよ、あんなの買っちゃ」
「なぜ? 筆跡は良いように見えたんだけど」
 実は彼、その漱石の一行書の複製を持っているのだと。そしてそれには落款が「漱石(朱印)」と入っていると。
 つまり私が買った品は複製を真似て書いた偽物だというわけです。》

ともかく見比べてみようという話になって、店でふたつを並べてみた。

《「ほうらね、複製は漱石の署名があるだろう……」と言いはじめたAさんの言葉がつまる。しばらく二人して幅を重ねるように、透かすように見比べる。やがて、ぽつりとAさん。
 「これ本物だ……」》

中野さんの買ったオリジナルを元に複製するとき、署名がないのが寂しいので別の作品から署名を流用したのだろうという。要するに自慢話なのだが、まったくイヤミなくさらりと語られている。これが人徳というもの。中野さんご夫妻のやっておられる演劇集団「ガザビ」ではトモさんが脚本担当だったそうだ。なるほど、その筆致がエッセイにも生かされている。

実は「ガザビ」の公演、一度だけ観たことがある。終った後で「正直な感想を言ってくださいね」と中野さんがおっしゃるので、正直な感想をずけずけと述べさせてもらった。いつもニコニコの中野さん、そのときには表情が硬くなり、やや憮然としておられた。穏やかな外面に包み隠した熱く負けず嫌いの性格を見たような気がしたのである。それだけ演劇に対しても本気だったという証拠だ。むろん小生も少々大人気なかった。お茶を濁しておけばよかったのだろうが、今となっては忘れ難い思い出である。

『古本はこんなに面白い』日本古書通信社から発売されている(1500円+税)。初版500部だよ!






by sumus2013 | 2015-03-26 21:17 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by 牛津 at 2015-03-27 07:46 x
久しぶりにいい文章を読ませていただきました。感謝します。少数部でもいいから、活字にしておくべきですね。すぐに
購入します。
Commented by sumus2013 at 2015-03-27 10:44
どのエッセイも経験、知識、ユウモアでうまくまとめておられます。本当に、もっと活躍し続けて欲しかったです。
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