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風が起る!とこれが菱山訳である。《今こそ強く》などという副詞は原文にはない。だから桑島は単に《生きなければならぬ!》とした。ということは桑島の引用した訳文は菱山訳を元にした桑島訳だったと見ていいだろう(だから出典の記載がなかったのだ)。上の写真の次の頁に続く末尾の二行はこうである。 破れ、波濤よ! 打ち破れ、踊り立つ波がしらで すなどりの帆舟の行きかふこのしづかな甍を! Rompez, vagues! Rompez d'eaux réjouies Ce toit tranquille où picoraient des focs! 《踊り立つ波がしら》とは思い切った意訳ではないか。堀口大學といい、この時代の人達は忠実に言葉を移すよりも日本語の感覚を大事にして翻訳した、それは理解できる。しかし、ここまでくると誤訳としか思えない。réjouies は「陽気な」で eaux は「水(海)」であって「波」ではないだろう。桑島も《打ち破れ、歓喜の水で、》としている。「すなどり」についてはすでに言及したのでくり返さない。 中味はとにかくとして、この詩集は昭和十八年に刊行されたものとしてはかなり気張った造本である。組版も余白をゆったりと取って読みやすい。印刷そのもはやや荒れた紙質に影響されて上出来とは言えないが、それでもかなり頑張っている。 《訳詩は厳密な意味では恐らく不可能な仕事に相違ない。しかし、さうかといつて、意味だけを汲んだ安易な訳詩が許されていい道理はない。原著に対する親近の情と詩精神への熱愛の念とが、能く原詩の格調を見事な日本語に移して、本然の詩の姿にまで還元させ得るのである。生来の詩人でなければ出来ないところに訳詩の大きな秘鑰がある。》 たしかに、その兼ね合いが難しい。この後書は昭和十六年夏の日付だ。調べてみると特装版が昭和十六年に刊行されていた。 *** そうそう、遅まきながら宮崎アニメ「風立ちぬ」を観た。う〜ん、どんなものだろう。いいとも悪いとも言えない歯痒い感じが残る。
by sumus2013
| 2014-11-15 21:43
| 古書日録
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Comments(2)
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