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林哲夫の文画な日々2
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路地裏に綴るこえ

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佐野由美(絵・文)『神戸・長田スケッチ 路地裏に綴るこえ』(くとうてん、二〇一四年一〇月二五日)。

くとうてん
http://kutouten.co.jp

佐野さんは巻末の略年譜によれば、一九七五年神戸市長田区生まれ。九五年大阪芸術大学在学中、長田の自宅で阪神・淡路大震災に遭遇。一九九八年四月から一年間NGOの派遣事業に参加しネパール・パタンに滞在。ボランティアで美術教師を務めながら美術家としての活動も行った。帰国直前の九九年四月、交通事故により死去。

本書の内容は大きく二部に別れる。まずは「下町・長田に綴るこえ」として長田の人情風俗を絵と文でスケッチしたもの、これが三分の一、残りはやはりスケッチと文から成る「震災日記」である。

震災から来年でもう十五年になる。早い。しかし、いかに早く時間が過ぎ去ろうとも実際に体験した身には昨日のこととしか思えない。空を覆う噴煙が瞼に浮かび、耳の奥にはヘリの爆音が断続的に響きつづけている。佐野さんの震災絵日記は正直読むのが辛かったのだが、読み始めると、そうだった、そうだった、そういうこともあったな、とうなづく場面ばかりで知らぬ間に読了していた。文章の素直さと、暖かさに包まれた挿絵の魅力もあろうか、貴重な記録になっている。

長田にまつわる思い出スケッチに古本屋が登場する。

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《本棚の上の方にある、分厚くて重そうなハードカバーの古典文学集や、昔の映画などのポスター・パンフレット、アイドルのブロマイドなどを眺めているだけで、とても幸せな気分になった。》

《おばちゃんは「10円まけといたげる、90円でええよ」と本代の釣り銭をまけてくれた。いつ行っても、おばちゃんはテレビを見て、やたら大きな猫といつも寝ている猫に囲まれながら座っていた。古い本の持つ趣と同化するべく、おばちゃんも猫の存在も、古本屋の独特の空間を味わい深く彩っていた。》

西代駅の近くにあるというからこの古本屋は「書房B」であろう(『神戸の古本力』(みずのわ出版、二〇〇六年)を参照してみるとすぐに見当がついた)。これもまた貴重な古本屋の記録になっている。

《思い出は思い出だから美しいのである》と佐野さんは書いておられる。人は醜いものを「思い」から「出」さないのだろうか。巻末に付された「ある魂に寄せて」で季村敏夫さんは小林秀雄の「思い出が、僕等を一種の動物である事から救うのだ」を引用しておられるが、小林ロジックの限界を感じさせるところは措いておいて、人間は「思い出」の皮を被って生きているのかもしれないな、と思ったりもする。

ただ、残された絵や文章は思い出とはひと味違うトゲ、すなわちリアリティがある。それがまた思い出を刺戟し、思い出はさらに微妙に変化するようだ。佐野さんの絵と文を眺めているとそんなつまらぬことを考えてしまうのである。




by sumus2013 | 2014-10-30 21:14 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by 牛津 at 2014-10-31 07:22 x
B書房とはなつかしい書店です。逍遥の講義録を買いました。演劇に強い店でした。ここで古書を求め、近くのお好み屋でぱくつきながら、本に目を通す、至福の時でした。
Commented by sumus2013 at 2014-10-31 13:48
さすが牛津先生! 小生は長田に九年住んでいましたが、もっぱら三宮方面ばかりで西代、板宿あたりはあまり知りません。よくのぞいたのは一栄堂さんとアンデパンダンさんくらいです。
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