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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


観楓紀行6

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明治二十九年十一月十八日。いよいよ中桐絢海は箕面へ観楓に出かける。午前九時、腕車(人力車)二輪を貸し切って久保墨仙とともに出発。野中村を過ぎ中津川、神崎川を渡り、岡町の茶店で小休した。午前十一時頃、箕面山の麓に到着。大阪より五里余りの路程である。

そこから山を登り始める。紅葉楼で車を降りて楼に上がる。

《楼前ニ巨大ナル老楓ノ今ヲ盛リニ霜酔スルアリ楼後ハ層巒ヲ擁シ夥多ノ紅葉燦爛トシテ霜錦ヲ晒ス楼上人顔宴具相映シテ腥血ニ染ルカ如シ》

ここで昼飯をとり、酒を飲んだ。しかし観光地にありがちのマズくて高い店だった。

《会席料理ナリト云フナレドモ田舎風ニシテ器具亦粗笨箸ヲ下スヘキモノナシ然カモ値頗ル不廉ナリ》

本地蔵堂で如意輪観音を拝観し、瀧安寺へ。弁天社から山道を登って紅葉の艶麗を眺めた。しかし谷風が吹き下ろして肌を刺すようだった。

 風樹経霜葉欲零
 瀑声淅瀝隔雲聴
 渓中日午山嵐冷
 奈此吟人酒易醒

さらに登って滝に到る。その奥の勝尾寺へ行くのは断念する。滝の前に料理屋が幾つかあるが、観光客がひしめいている姿は見苦しい。墨仙と岩に腰掛けてひょうたんの酒を飲んだ。あんな料亭でボラれて馬鹿をみたなあ、ここで弁当でも食べた方がよっぽど良かった、と思っても後悔先に立たず。

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『日本地理辞典』(郁文舎、明治三十九年)より


そこから引き返すと風景写真を売っている店があったが、見るに堪えない。「羽衣」という紅葉の天ぷらを買ってみた。これはうまい。そのそばに唐人石というものがあった。黒っぽい大きな石が斜めに転がっている。寒霞渓の画帖石に似て非なるものだ。紅葉楼の前で紅葉の枝を売っている老婆がいたのでいくつか買い求め帰路についた。

《大阪ニ帰リシハ午後七時ニシテ寒威甚シ直チニ浴ニ投シ「ビール」ヲ煖メテ飲ム》

ビールを温めて飲む……そう言えばホットコーラという飲み物もあった……。日柳三舟から今晩パーティやるから参加しろという手紙が届いていたが、さすがに疲労困憊のため駆けつけられず。墨仙と対酌してそのまま寝てしまった。

つづく




by sumus2013 | 2014-10-06 19:26 | うどん県あれこれ | Comments(0)
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