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林哲夫の文画な日々2
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気晴らしの発見

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山村修『気晴らしの発見』(新潮文庫、二〇〇四年三月一日、カバー装画=フルイミエコ)。今現在「日本の古本屋」で山村修と検索した結果、意外なことに(?)もっとも高価な本がこれである。

『日刊ゲンダイ』をほとんど読んだことがないし、後に出た「狐」の書評集もどれとして目を通していないため、ほぼ初めての山村修体験ということになった(いくつかの書評や短いエッセイは読んだ記憶がある)。やはりうまい。引き込まれる。

《眠れぬ夜が明けた朝、私がたいしてあわてなかったのは、まさかそれが不眠の第一夜[3字傍点]だとは思わなかったからだ。しかし、次の夜が第二夜となった。私には意外なことだった。二日つづけて眠れないのはめずらしかった。
 そして次の夜が第三夜となり、私はさすがにまごついた。第四夜が明けたときは胸がしめつけられた。第五夜にはいよいよ狼狽しはじめた。第六夜の明けた朝は全身に手ひどい脱力感を覚えた。
 青ざめた顔を鏡で見ながら、私はいささか平静を失った。》

著者は早朝覚醒になったのだ。夜、三時間ほどしか眠れない日が続く。そんななかで著者は梶井基次郎の「俺はだんだん癒ってゆくぞ」という言葉を思い出し『檸檬』をひもとく。そこから話題はさらに飛躍してゆく。

《梶井基次郎が「檸檬」を発表した一九二五(大正十四)年のある日、プラハの大学の階段教室で、一人の医学生がある重大な発見のきざしに息をのみ、胸をおののかせていた。》

この医学生はハンス・セリエ(Hans Selye)。第二次大戦後、高名な研究者となる。

《ハンス・セリエのとなえる学説は、それまで考えられもしない破格のものであった。セリエが発見した心身のメカニズムは、彼自身、何と名づけたたらよいか迷いに迷った。最前列にフランスの高名な作家たちも居並ぶ講堂で、セリエはフランス語としては新語というべき言葉ーーle stressーーを発音した。》

セリエは一九五六年に『The stress of life』を、七四年に『Stress without distress』を、そして七七年に『The stress of my life』という本を刊行している(とこれは今調べました)。

著者の早朝覚醒は三ヶ月に及んだが、そんなとき著者は多田道太郎の「旅に病む」つづいて「ストレスにかかったネズミ」という傑作エッセイを読む。ストレスからくる不眠に悩まされながら読書によってそれを解決する糸口をつかもうとするのがさすが書評家という感じだ。

ストレスの次はコレステロール。ストレス症状によって血中の総コレステロール値が急激に増えた。著者はコレステロールの本を読む。

《コレステロールは、叩き割られた青白いガラスの破片のような形をしている。さまざまな恰好に砕けたそのガラス片は妙に美しい。》

コレステロールの命名者はフランスの科学者シュブルール(Eugène Chevreul)である。コレステロールそのものは一七五八年にフランソワ・プルティエ・ド・ラ・サルによって発見されていたが、コレステロール(cholestérine)という名前を与えたのはュブルールだった(一八一四年)。古代ギリシャ語で、chole-は「胆汁」、streos は「固体の」。

このシュブルールという人物がまた大変興味深い事蹟を残している。先ずマーガリンと石鹸の製法を開発した。彼がゴブラン織物工場長だったころの研究から著した『色彩の同時対照の法則について De la loi du contraste simultané des couleurs』(1839)はスーラらの新印象派に決定的な影響を与えた。要するに「補色」も彼の創見である(ただしこれ以前にもゲーテらが補色残像という現象に注目していたことはよく知られる)。動物脂肪の研究も手がけ、ステアリン酸、オレイン酸、サタノールなどを分離した。これらの研究によって蠟燭製造業を進歩させた。百二歳まで生きたが、九十歳を過ぎてから老人心理の研究にまで手をつけたというから並外れた科学者だったと言えるだろう。

さて、ここまではだんだん深みに落ち込んで行く最悪の状況が淡々と語られ、読書を通じて関連するさまざまな事象について学ばれて行くのだが、後半は体を実際に動かす、行動することに救いを求める展開になる。正直な話、落ち込んで行く過程の方が面白い。気晴らしを発見して回復に向う(実際に快癒したのかどうかは分らないのだが)過程はやや冗漫か。それはそれとしても久し振りに一気読みした一冊である。


by sumus2013 | 2014-07-24 22:05 | 古書日録 | Comments(0)
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