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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


脈80号 特集 作家・川崎彰彦

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』80号(脈発行所、二〇一四年五月一〇日)が刊行された。予告しておいたように川崎彰彦特集である。小生、川崎さんとはほとんど交渉はなかったし、作品もよく読んでいる方ではない。が、『ぼくの早稲田時代』を装幀させてもらったことからわずかなつながりをもった。他の執筆者は当銘広子、三輪正道、中尾務、比嘉加津夫、中野朗の各氏なので三月記に目次が出ています)、おそらく中尾さんのご推薦をいただいたのではないかと思う。今日、ある古本屋さんからこんな葉書が届いた。

《ごぶさたしています。昨日、沖縄の同人雑誌『脈』川崎彰彦号の中に林さんを「発見」し、妙にうれしくペンをとった次第です。
 寺島さんのことで川崎さんの名前は知り、『ぼくの早稲田時代』を読んだものの、まだ小説は一篇も通読したことがありません。本がホントに見つからない。先輩の古本屋さんから二、三年前川崎彰彦さんの生原稿を二篇買いもとめました。その一つが「清遊記」。林さんとのフシギな縁をおもったのでした。》

「清遊記」は『夜がらすの記』に収められており、拙文では中心的に紹介した短篇。詳しくは本誌をお求めいただくとして、拙文、マクラのところだけ引用しておく。

 昨年の秋口に神戸北野町の浄福寺で古本市が開かれた。十何人かの本好きたちがお寺の集会場を借り切り、それぞれ数箱分の古本を持ち寄って販売したのである。当日、十時三十分開店のところ、軽い気持ちで十分ほど遅れて会場に到着した。ところがなんと、もうすでに黒山の人だかりではないか。部屋が手狭ということもあるが、おちおち本も見られないほどの鮨詰め状態である。甘く見た。定刻前に来ておくべきだった。肩をぶつけながら割り込んで出品物を一通り点検。何とか雑誌を一冊確保した。『書物』第二年第三冊(三笠書房、一九三四年三月一日)。近江の詩人高祖保に触れた百田宗治の記事が載っている。ちょうど金沢の個人出版社・龜鳴屋から外村彰著『念ふ鳥 詩人高祖保』(二〇〇九年)が届いて読み始めたところだったから、本が本を呼ぶような、こういう小さな発見がたまらなく嬉しい。神戸まで足を運んだ甲斐があった。さらに正午前まで粘ったものの、それ以上のめぼしい獲物はなく、浄福寺から三ノ宮駅までだらだら坂をしょんぼりと下って行った。さんちかビルから地下へ潜り、阪神電車の梅田行き特急に乗る。もうひと踏ん張り、武庫川駅の近くにある古書店街の草を久し振りにのぞいてみようと思い立ったのである。
 西宮で各駅停車に乗り換え、都合三十分足らずで武庫川に着く。昼食がまだだ。街の草近くの中華料理店が暖簾をたたんでからというもの、仕方なく駅前の立ち食いうどんですませていたのだが、午前中の活躍で少々草臥れている、立ち食いはいやだな……と、思い切ってその右隣の小汚いラーメン屋へ入り、ラーメンと半チャンのセットを注文した。昼時も終わろうとしていたためか客はまばら。五十がらみのおばさんが一人でせっせと作っている。ジャーレンの載ったレンジ、背後の壁には油染みがべっとり。ちょっと不安になる。ところが、「おまちどうさん」とカウンター越しに置かれたラーメンは予想外にうまかった。なにかいい本見つかりそうな予感。
 街の草にはいつも何かある。近畿圏ではもっとも自分の好みに合っている古本屋だ。詩集の品揃えが充実しているのは店主が詩人であった、いや、現在も詩人だからだ。店主加納成治の本を見る目には信頼が置ける。商売気のないところも清々しい。ところがさきほどの予感に反して、当方の懐具合のうすら寒さにもよるのだろうが、小一時間ガサゴソやってもこれぞというブツが手に触れてこない。そろそろ引き揚げようかなと思いながら、未練がましく視線を動かしていると、四六判の随筆や小説が並んでいる棚に、川崎彰彦の文字がピカッと光った(ように見えた)。

中尾さんの「雑誌『雑記』について」が面白かった。とくに中尾さんが引用しておられる川崎と同じ八日市高校で同人雑誌『アントロギーオ』の仲間だった野川の詩「不愉快極まる」はケッサクだ(興味ある方はぜひ本誌をお求めください)。中野朗氏の労作年譜によれば野川はこういう青年だった。

《父の野川孟は弟の野川隆とともにダダイズムの詩誌「ゲエ・ギムギガム・プルルル・ギムゲム」を創刊した詩人である。同誌2号からは橋本健吉(北園克衛)が編集にあたり6号まで出した。その誌名と「芸術革命を志向する方法的実験は鮮烈な衝撃を与えた」。野川孟は以降北朝鮮で邦字新聞記者をしていたが、敗戦後、八日市に引き上げ、京都新聞などの支局長の仕事についた。隆は「芸術革命」から「革命芸術」に移行し、ナップに加入し「戦旗」に詩を発表したりしたが、治安維持法で逮捕され昭和19年に獄死同然に亡くなっている。昭和13年に満州で出した「九篇詩集」がある。野川洸はこうした父と叔父を敬愛していたという。


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とにかく『脈』という沖縄の同人誌が川崎彰彦を特集したというところに格別の意義を見出す。比嘉氏の論考によれば高木護氏の周辺から浮上したようだが、川崎さんには金城実が玉城実として登場してえがかれる「吟遊詩人」という小説があるのだから、まったく無縁というわけでもないようだ。金城実という名前を見て思い出した。金城さんの本『民衆を彫る』(解放出版社、二〇〇六年)は小生が装幀したものである。知らない所でつながっている。






by sumus2013 | 2014-05-15 20:42 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)
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