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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


岡崎桃乞コレクション

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『岡崎桃乞コレクション 宋元画名品図録 付岡崎桃乞油絵』(思文閣出版、一九七八年一二月一日)より「茄子図」(元、絹本着色)。

いつだったか、均一ではなく、例えば五百円とか、そのくらいの値段で買ったように思う。今、探してみると「日本の古本屋」には在庫せず、相当な値段を付けている古書サイトもあったが、そんなに珍しいという本ではないだろう。

桃乞コレクションは怪し気なところもありつつ、それでも財閥などではない一個人でこのくらい宋元画を蒐集したとすれば、それなりに評価すべきと思う。落ち穂拾いの感じも好感が持てる。上の図に思い当たる方もおられるかもしれない。岸田劉生が模写している。模写というか劉生なりに描き直している。

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出来ははっきり劉生の勝ち(?)なのだが、紫の花の可憐さには捨て難いものがあるし、何よりバックグラウンドの時代を経た表情は何ものにも代え難い(本当に元の時代の絵なのかどうかは疑問)

もうひとつ、本図録より章継伯「茄子瓜図」(斉、絹本着色)。

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この茄子に似た絵も劉生はいくつか描いている。そのうち三重県立美術館にある作品「冬瓜茄子之図」(一九二六)が下図。他にも花籠の絵などに桃乞コレクションからインスピレーションを得たと思われるものが幾つもあるようだ。

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コレクションの主・岡崎桃乞(雅号の発音はいちおう漢音としてタウキツと読んでおくが、タウコツでもいいかもしれない、国会図書館はトウコウとしているようだ)は、図録の略伝によれば以下のような人物である。

《本名は義郎、一九〇二年五月岐阜県不破郡十六村に生まれた。十四歳四月大垣中学校に入学し油絵に初めて接した。翌年名古屋に移住し在住の洋画家達と交遊をもち、西洋画に関心を向けた。》

《十七歳上京し本郷絵画研究所へ入ったが、最初は作画に熱が入らず、苦悩と放蕩のうちに過した。二十三歳頃より宋元画の研究に熱中した。この年牛込を引きあげ鎌倉由比ガ浜へ移転、岸田劉生と深い交遊をもったが、油絵よりも宋元画の蒐集に没頭した。一九二八年三月二十七歳の折京都へ転宅したが、祇園先斗町で遊びまわる毎日であったという。二十九歳結婚。三十歳初めての個展を京都寺町アヅマギャラリーで開催したのを手始めに、山口市で俵道陽二と二人展、大阪丸善で椿貞雄と二人展など次々に開催した。

京都寺町アヅマギャラリーというのは一九六九年まで存在していたようだ。俵道陽二は一九二五年に東京美術学校を卒業している。椿貞雄は岸田劉生の弟子として有名。

《三十二歳蒐集の宋元画を芸艸堂より出版するが、この頃より桃乞と名乗っている。三十三歳京都若王子山内の和辻哲郎宅を譲り受け画業に精進し、十一月本郷の研究所時代の先輩西田武雄の厚意により、東京麹町室内社で個展を開催したが、予期に反して大成功であった。

和辻哲郎が住んでいたのは「語庵」である。原三渓の大番頭だった古郷(ふるごう)時侍が古材を使って建てた数寄屋住宅で、桃乞の後は梅原猛が買い取った。(http://h-kishi.sakura.ne.jp/kokoro-203.htm

《戦後は画壇との交渉をたち自由に制作に従事、一九七二年四月七十年の生涯を閉じた。》

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岸田劉生「岡崎義郎氏之肖像」(一九二八)。本図録にも挨拶文を執筆している梅原は『芸術新潮』の一九七八年四月号に桃乞のことに触れてつぎのように述べている。

《全くの奇人で、彼は、頑ななまでに名利を拒絶して、隠者に徹した。美濃の十六村の素封家の出身であるが、子供のときからわがままで、中学一年で退学して絵かきを志した。》

《二十二歳のとき銭瞬挙の絵を見て、彼はここにもっとも高い絵の理想があると思い、宋元画の研究に熱中した。

《彼は絵に対しては、恐ろしくまじめであった。私は前に二、三点、彼の画を見たことがあるが、それはきびしすぎて柔らかさがなかった。どうしてあんなワイ談ばかりしているでたらめな男が、こんな固い絵をかくのか不思議に思ったが、それは見方が甘かった。桃乞という人の中には、きまじめすぎる芸術家と、自由な遊蕩児の二つの人間が矛盾共存していたらしい。》

桃乞の画について言うべき言葉はないが、彼の二面性は「矛盾」ではないような気がする。

思文閣美術館五年の歩み
http://www.nk-net.co.jp/sakyo/tayori/tayori_156.pdf






by sumus2013 | 2014-01-22 21:14 | 関西の出版社 | Comments(0)
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