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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


盗跖與孔子問答事

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宇治拾遺物語』(林和泉掾、萬治二年1659、早稲田大学蔵)最終話「盗跖與孔子問答事」の冒頭部分。右ページの上部余白に墨点がふってあるが、ここから最終話がスタートしている(画像は早稲田大学古典籍データベースより)。話の内容は以下のようなもの。引用は中島悦次校注角川文庫版(平成七年三十一版、底本は宮内省図書寮蔵の写本、萬治二年版本と同系統とのこと)による。

舞台は春秋時代の中国。柳下恵という大人物がいた。その弟・盗跖(たうせき)がどうしようもないワルもワル、ワルの大将だった。

《一つの山ふところに住みて、もろもろのあしき物をまねき集て、おのが伴侶として、人の物をば我物とす。ありく時は、このあしき物どもをぐすること二三千人也。道にあふ人をほろぼし、恥をみせ、よからぬ事のかぎりを好みて過す》

柳下恵があるとき路上で孔子に出会った(現代語拙訳はまったくのデタラメと言ってもいい言い換えですので、良い子は原文を参照してくださいね)。

柳「どこへ行くのかね、孔子君?」
孔「あなたの弟が悪いことばっかりしてるの知ってますか、どうして放っておくのです」
柳「心苦しく思うけどね、わしの言うことなんぞ聞く耳もたんやつでな」
孔「いまから出かけて、悪事をやめるように説得しようと思います」
柳「そりゃ、やめときなさい。君の言うことなんか聞くわけないよ。かえって怒らしたらえらいことになるぞ」
孔「正しい道を教え諭してみせますので、見ていてください」

という正義感にあふれた孔子は柳の止めるのも聞かず盗跖に面会を求めた。

盗「なんじゃ、孔子がやってきただと。人を教えるやつだと聞いたが、ごたごたぬかしたらケツの穴から手突っ込ん奥歯ガタガタいわせたる!」

《頭のかみは上ざまにして、みだれたる事蓬のごとし。大目にして見くるべかす。鼻をふきいからし、牙をかみ、ひげをそらしてゐたり》というものすごい形相の盗跖だ。目の前にしてみると、さすがの孔子もタジタジとなって内心びびっていたが、言うことだけは言ってみた。

孔「この社会では法律にのっとってふるまわないといけませんよ。偉い人を敬い、人々に情けをもって接するべきです。ところがどうです、あなたの所業は。やりたい放題やって、今はいいかもしれませんが、ろくな終わり方はしませんよ。悔い改めなさい」

盗「なんじゃこら。偉い人ってな、堯や舜なんざ名君だといってチヤホヤされてたがその子孫を見ろ、わずかな土地も持っておらんかった。それに、第一、お前の弟子ら、まじめにやっていた顔回は早死にしたし子路は殺された。賢いやつほど賢くないんだよ。俺がこれだけ悪事を働いているのになんの災いもふってはこんしな、悪く言われるのも四五日だけさ。だいたいお前だって魯の国をクーデター失敗で二度も追い出されているじゃないか、大きな口がきけるか」

《あしき事もよきことも、ながくほめられ、ながくそしられず。しかれば我このみにしたがひ、ふるまふべきなり。汝又木を折て冠にし、皮をもちて衣とし、世をおそり大やけにおぢたてまつるも、二たび魯にうつされ、あとをゑいにけづらる。などかしこからぬ。汝がいふ所誠におろかなり。すみやかに走り帰りね。一つも用ふべからず》

孔子もこの言葉を聞いて反論もなく、座を立って尻尾を巻いて立ち去った。馬に乗るとき、あんまり慌てたので、くつわを二度取り外し、あぶみを何度も踏み外した。これを世の人は「孔子たふれす」(孔子も失敗する)と言ったとさ。

この話は孔子を笑いのネタにするさかしま、江戸時代なら儒者と僧侶の喧嘩で僧侶が喜んで援用しそうな内容である。たしかに孔子は失敗者であり敗北者であろう。論語を無心で読めばそういう結論になる。この話が巻末にあるということに何か意味があるのかもしれない。

それにしても誰が止めても聞かない盗跖のこのやりたい放題、そしてその言い分、つい最近どこやらで聞いたような気がするなあ……。









by sumus2013 | 2013-12-29 20:58 | 古書日録 | Comments(0)
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