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林哲夫の文画な日々2
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ぼくの創元社覚え書

高橋輝次『ぼくの創元社覚え書』(龜鳴屋、二〇一三年一〇月一〇日、表紙イラスト=グレゴリ青山)読了。高橋さんらしい追記の連続で、おいおい、ちゃんとまとめてから書いて下さいよ、とツッコミたくなるわけだが、それがマイナスではなくプラスに作用しているところが、人柄というのか、ビートたけしのつんのめり芸のような文体になっているから、あら不思議と思うのだ。

高橋さんを直接知らない人たちのなかには、こういうスタイルをうとましく感じる人もいるかもしれない。しかし実際に付き合ってみると、非常に純粋な古本魂を持った人物だということがすぐに分るだろう。そして名もなき作家や編集者を愛おしむことにかけては他に例を見ないほどの熱心さ(無償の愛といっていい)を示す。その態度や目の付け所には小生自身もこれまでいろいろと教えられて来た。黒子である編集者を主人公にしてその観点から出版や文学を語るという手法は、高橋さんの独創とは言えないとしても、それを普及させたという意味では高橋さんの手柄は大きいような気がしている。

《本書は自伝的、仕事史的な内容ではない。あくまで古本を通して見た、創元社の歴史のある側面を私なりにざっとスケッチしたにすぎない。》

《それでも、所々に私的な回想をまじえて書いており、読者には余計なことかも知れない、とおそれている。ただ、ペースメーカーを入れ、七十歳に近づく年齢になってくると、自分が元気で働いていた頃のことが無性に懐かしく思い出される、というのが正直なところである。そのため少々甘い記述になったのは自覚しており、読者にお許しを願おう。》

小生の感想は逆である。もっと回想をしっかり書いて欲しかった。作家たちが書き残した創元社の編集者たちの思い出、そのコレクションも興味深いものがあるし、丸山金治という創元社で働いていた小説家について、その友人の青井辰雄(洲之内徹との関係で小生が興味をもっている人物)、また創元社から飛び出した二人の社員が始めたのが六月社だったこと(六月社は山内金三郎『うまいもん巡礼』などを出しているので、『sumus』あまから洋酒天国特集とも関係してくる)、あるいは日産書房について(青山二郎装幀の小林秀雄『文芸評論』などを出している)などの記述にも大いに啓発された。しかし、それでもやはりもっとセンチメンタルな思い出話が登場してもよかったのかな、と思ったことは正直に書いておく。

《私は今でもときおり憶い出す。大阪市北区樋上町にあった木造二階建ての旧社屋のことを…。当初、正面玄関のすぐ左に営業部があり、その奥に小倉庫があった。横幅のある急傾斜の階段をミシミシ音たてながら登ると、すぐ左側に南側が道路に面した編集部があり、右側には社長室の扉があった。その階段はむろんお客や著者たちが上り下りしたが、私どもは大抵、裏口の倉庫の横から狭い階段を登って編集部へ入ったように思う。しばらくして一部改築され、営業部や制作部も二階へ移った。私の在籍した後半に再度増築され、一部鉄筋の四階建て(?)となり会議室などに使われた。当初の編集部は旧い造りで中央辺に大きな柱があったように覚えている。改築するまで、種々の会議は社長室で、足らない椅子をもちこんでやられていた。隅の本棚には、昔の創元社の文芸書もいろいろ並べられていたが、むろん、じっくり拝見したことはない。》(あとがきに代えて)

こういう細かいところ、これは高橋さんでなければ誰も書き残すことはできない。その点からも名著である大谷晃一『ある出版人の肖像 矢部良策と創元社』を補完する一冊として大切な仕事であろう。

龜鳴屋
http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/

by sumus2013 | 2013-10-28 20:46 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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