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林哲夫の文画な日々2
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超現実主義宣言

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アンドレ・ブルトン『超現実主義宣言』生田耕作訳(中公文庫、1999年9月18日)を善行堂にて求めた。中公文庫を改装した手製表紙本。背革、ヒラは綿布かと思う。表紙の道化師の絵は(見覚えがあるが、何だったか思い出せない)手書きではないようだ。版画か? 技術的には素人だが、けっこう凝った装幀ではある。その割に表題紙が安直すぎる。


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中世の道化師(jester/fou du roi)は独特な帽子(fool's cap/chapeau du fou)を被り、これまた道化の姿をかたどった笏(bauble, or scepter/sceptre)を持っている。ブルトンへの当てこすりだとすると、なかなかシャレの効いた装幀だと思う。本文中に何か言及があるのだろうか、ざっと目を通した感じでは、見当たらなかった。


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一応シュルレアリスム好きなのだが、この本はなぜか今まで買ったことがなかった。そこそこの値段が付いている思潮社版が、たまさか安く手に入るときにもスルーしてきた。どうやら、ブルトンの読書日記みたいなものだ。その当時、いまだ世間では評価されていなかった隠れた作家たちについて意味不明の形容をもって紹介している。たしかに、そのレパートリーには惹きつけられるものがあるが、その書きぶりは、どうもなじまない。


# by sumus2013 | 2019-08-21 20:49 | 古書日録 | Comments(0)

一九三〇年代モダニズム詩集―矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦

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8月19日、届いた。予想通りというか、予想以上に、表紙タイトル空押しが効いている。光を当て浮かび上がる詩人たち。

本文もカラー図版多数、詩も、論考も、年譜もいい感じ。しおりがまた充実している。しおりの表紙の挿絵は、扉野良人氏がしおりに書いている腕木通信の文字より取った。みずのわ出版、入魂の一冊。

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一九三〇年代モダニズム詩集—矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦


編=季村敏夫

発行=みずのわ出版

装幀=林哲夫

プリンティングディレクション=黒田典孝((株)山田写真製版所)

印刷=(株)山田写真製版所

製本=(株)渋谷文泉閣

四六判(天地188mm×左右127mm) コデックス装 240頁(ノンブル239頁)

表紙 あらじま 白 四六判Y目180kg 表1凹エンボス 表4 K/1°

オビ あらじま 雪 四六判Y目80kg DIC435/1°

本文 b7バルキー 四六判Y目 64.5kg 表版4°/裏版1°

栞 A6変型判(天地148mm×左右100mm)16頁

ファーストヴィンテージ ベージュ 四六判Y目56kg K/1°



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8月の新刊「一九三〇年代モダニズム詩集―矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦」

各位
今年の夏も異常に暑い日が続きますが、お変りありませんでしょうか。
今年二点目の新刊「一九三〇年代モダニズム詩集―矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦」(季村敏夫編)を刊行します。

小社が関わった神戸モダニズム詩史としては、「永田助太郎と戦争と音楽」(編集=季村敏夫・扉野良人、発行=震災・まちのアーカイブ、製作=みずのわ出版、2009年6月)、「山上の蜘蛛―神戸モダニズムと海港都市ノート」(季村敏夫著、2009年9月)、「窓の微風―モダニズム詩断層」(同、2010年8月)の続編に位置付けられます。

戦時下の神戸と姫路に生き、一冊の詩集も遺すことなく消えた三人の詩人の原石といえる詩篇を収録。かれらの関わった同人誌の人脈から総力戦体制下の文芸活動を検証し、治安維持法違反容疑で詩人17名が一斉検挙された神戸詩人事件(1940年3月3日払暁)の背景と今日的課題を明らかにすべく、今回刊行の運びとなりました。刊行の趣旨につきましては、本書「はじめに」全文を転載しますのでご一読願います。

なお、本書は600部の少部数限定出版、いわゆる自費出版物です。高額なれど本書を必要不可欠とする読者の求めやすい価格という編者の要望もあり、仮に全部数を定価で販売しても制作費全額は回収できない、そういった価格設定となっております。編者著者が肚を括らなければまともな本を遺すことができない、そんな時世でもあります。

8月15~25日頃出来予定、です。ご購読のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

フェイスブックとブログに、本文の刷取り画像を掲載しています。
2019年8月5日
みずのわ出版 代表 柳原一徳 拝

一九三〇年代モダニズム詩集―矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦
四六判コデックス装 239頁 図版64点(ほぼ全点カラー)+栞16頁
8%税込2,916円(本体2,700円)ISBN978-4-86426-038-1 C0095
初版第一刷2019年8月15日発行
編=季村敏夫
発行=みずのわ出版
装幀=林哲夫
プリンティングディレクション=黒田典孝((株)山田写真製版所)
印刷=(株)山田写真製版所
製本=(株)渋谷文泉閣

はじめに(本書3~4頁収録)
 かつてあったことは、後に繰り返される。殺戮、破壊、錯誤、懺悔、その重なりのなかで、身体の刻む詩的行為の火、花、火力は現在である。

 上梓のきっかけは、一冊の同人誌と映画との出会いだった。小林武雄編集の『噩神(がくしん)』創刊号で矢向季子を知った。身震いした。映画は、日本統治下の台南の詩人を描く『日曜日の散歩者』(黄亞歴監督)。台湾を襲った地震の映像のあと、同人誌『神戸詩人』が迫ってきた。西脇順三郎らの『馥郁タル火夫ヨ』から引用があり、明るさの戻った部屋で茫然としていた。「現実の世界は脳髄にすぎない」「詩は脳髄を燃焼せしむるものである。こゝに火花として又は火力としての詩がある」、わたしはあらためて、戦時下の詩をたどりはじめていた。

 同人誌と映画との遭遇が、次から次へと出会いを導いてくれた。平坦ではなかったが、みえない数珠のつながる道のり、促されるまま従った。

 かつてあったことは、後に繰り返される。一九三〇年代後半、シュルレアリスムに関わった青年は治安維持法違反容疑で次々と獄舎に送られた。神戸詩人事件はそのひとつだが、現在である。今回編集した矢向季子、隼橋登美子、冬澤弦、初めて知る詩人だが、このラインにも、シュルレアリスムへの目覚め、総力戦、同人誌活動の終焉、モダニストの戦争詩という歴史がある。しかも三人は番外の詩人、一冊の詩集もないまま消えた。

 あるとき、ある場所で、確かに生きていたひと。詩は、息のひびき。声を出して読めば、ひとはよみがえる。生きていた場所、場所の記憶、青空に染まる歓声まで戻ってくる。

 消えてしまった、たましいをよびよせる、この集を編みながら念じていた。

(「がく神」の「がく」の漢字は環境依存文字ゆえ、パソコンによっては正しく表示されない場合があります)

■目次
矢向季子詩集抄/隼橋登美子詩集抄/冬澤弦詩集抄
「夜の声」読後感(矢向季子)/詩をよみはじめた頃(内田豊清)
内田豊清のこと/矢向季子のこと―シュルレアリスムの目覚め/隼橋登美子のこと―神戸詩人事件について/冬澤弦のこと/『神戸詩人』と台南の風車詩社について―石ほどには沈黙を知らず
初出一覧/関連年譜

■栞(16頁)
天使は肉声でうたう 藤原安紀子
遠くに書く―モダニズム詩所感 扉野良人
「しんぼるの森林」に分け入る 高木 彬

■編者
季村敏夫 きむら・としお
一九四八年京都市生まれ。神戸市長田区で育つ。古物古書籍商を経て現在アルミ材料商を営む。著書に詩集『木端微塵』(二〇〇四年、書肆山田、山本健吉文学賞)、『ノミトビヒヨシマルの独言』(二〇一一年、書肆山田、現代詩花椿賞)、共編『生者と死者のほとり――阪神大震災・記憶のための試み』(一九九七年、人文書院)、共著『記憶表現論』(二〇〇九年、昭和堂)、『山上の蜘蛛――神戸モダニズムと海港都市ノート』(二〇〇九年、みずのわ出版、小野十三郎特別賞)、編著『神戸のモダニズムⅡ』(二〇一三年、都市モダニズム詩誌、第二七巻、ゆまに書房)など。


# by sumus2013 | 2019-08-20 19:45 | 装幀=林哲夫 | Comments(0)

ヴィジョネア展

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ファンタスティクアートグループ
ヴィジョネア展
8月20日〜25日
10:00 - 16:00
法然院講堂 http://www.honen-in.jp

臼井信雄
田中 穂
田中照三
山田英伸
上田 寛
林 哲夫

# by sumus2013 | 2019-08-19 07:34 | 画家=林哲夫 | Comments(0)

「芝居とキネマ」臨時増刊

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『「芝居とキネマ」臨時増刊 映画芸術』(大阪毎日新聞社出版部、大正十四年四月十日)。タテ33cmの大判グラフ雑誌。表紙は名越國三郎「仮面」。名越は大毎の学芸部員として挿絵や装幀を担当していたようである。

「人魚の嘆き」挿画考~挿画家の謎

大正末期にどういう俳優や監督、または海外の映画に人気があったのか、写真で見るとやはりよくわかる。阪妻、岡田嘉子、ルドルフ・ヴァレンチノ・・・・驚いたのはこちらの女優さん。誰だかわかる人は、よほどの映画通か、明治生まれ!?

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村田実監督「清作の妻」(日活、一九二四年)のワンシーン。このヒロインを見事に演じ認められた、浦辺粂子。あの、うらべくめこさんである。おばあちゃんアイドルとして一九八〇年代にはよくテレビに出ていたので、その印象しかないが、若き日(二十二歳)の姿を知るとイメージも変わろうというもの。

この臨時増刊は映画の裏側というか具体的にどうやって映画が作られているのかという内容が豊富で、いろいろ見所があるが、おっと思ったのはこちら。

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「冒険撮影」と題されているページの写真。右が神戸商船ビルデイング、左がオリエンタル・ホテル。

《商船ビル頂上の追ッ駆けの場面。この時にも俳優もカメラマンも可なりの冒険を演じてゐます。殊に、撮されてゐる俳優の先に立つてゐるのは、支那少女に扮してゐる松葉文子が懸命の芸当です。》

スタントマンはまだいなかった? わけでもないだろうが、これは本当に命がけである。しかし、写真としては、神戸オリエンタル・ホテルが写っているのに惹きつけられた。こちら側が写っている写真は少ないかも・・・黒っぽいところはアイビーか何かの植物を全面にはわせているようだ。

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こちらは『京都 大阪 神戸 明りの名所』(京都電燈株式会社、昭和八年十月一日)より。

 オリエンタル ホテル
  神戸市神戸区播磨町
 
前の写真からは九年ほど後になるが、ホールの内部がよく分かる。この二点をほぼ同時に見つけたので、オオッと思ったわけです。


『「芝居とキネマ」臨時増刊 映画芸術』は大日本レトロ図版研Q所蔵書


# by sumus2013 | 2019-08-18 21:07 | 古書日録 | Comments(0)

暑い盛りのレッテル便り

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二通矢継ぎ早に届いたので同時に紹介する。左側の四枚。

《4枚のなかでは一草堂が珍しいかもしれません。行った記憶はまったくなく、検索するとどうやら今は同名のビルになっているようです。グーグルのストリートビューが夜の撮影だったのには驚きました。どんな品揃えだったのでしょう。》

一九七三年版『全国古書店地図帖』(図書新聞社)によれば《明治物絶版書、稀書の蒐集》とある。さくら通りの近くには大学時代の友人の実家があって(繁華街の真ん中に!)よく遊びに行っていた。一九七五年頃からだから、おそらく店はあったはずだが、まだそんなに古本世界には足を突っ込んでいなかったので、まったく記憶にない。

右側では

《(おそらく)珍しいのは2枚目、大盛堂というと、渋谷駅前交叉点そばの有名な新刊書店。しかしこのレッテルでは「藤沼」「宮益坂上」とあり、同一の書店かは分かりません。》

上記の地図帖にも宮益坂上に大盛堂はない。正進堂書店、中村書店、玄誠堂書店、タツミ書店のみ。このレッテルの様子からして戦前ではないだろうか。

今後も楽しみにしてます!

# by sumus2013 | 2019-08-17 20:55 | 古書日録 | Comments(0)

好向軒窓

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かなり久しぶりで求めた漢詩のマクリ。絹布にしたためられている。くずし方は慣れている感じだが、それだけになかなか難物。ちょっと読めそうにない。詩句を検索しても類似作はほぼ何も出てこないようだ。七言律詩で脚韻はきちんと踏んでいる。下平声一先、くらいはわかるのだが・・・もう少し無い知恵を絞ってみたい。ご教示歓迎。

 好向軒窓養請
       
       上
       
       景
       
       楽
       
 
最後の行の署名のところ「竹香棟」と読めるので、検索してみたところ、小原竹香だと判明。書家で津山藩士。

《・小原千座 徳守神社祠官、津山を代表する万葉歌人。当時有名な歌人たちと交友があった。
・小原竹香 (文化十二年~明治二十六年)小原千座の長男。勤皇の志を抱き、鞍懸寅二郎等と意気相投。勤皇の士として全国人士と交わり、津山のために貢献した。》

# by sumus2013 | 2019-08-16 21:59 | 雲遅空想美術館 | Comments(0)

本の虫の本

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『みちのく春秋』2019年春号に菅野俊之さんが紹介してくださいました。



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『Pen』2018年11月1日号誌上で紹介されました。



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赤井稚佳イラストより



本を食べる
 聖書には本を食べるという話が二度出ています。まずエゼキエル書第三章。

「我にいひ給ひけるは人の子よわが汝にあたふる此巻物をもて腹をやしなへ膓(はらわた)にみたせよと我すなはち之をくらふに其わが口に甘きこと蜜のごとくなりき」(1)

 有名なのはヨハネ黙示録第一〇章でしょう。

「われ御使のもとに往きて小き巻物を我に与へんことを請ひたれば、彼いふ『これを取りて食ひ尽せ、さらば汝の腹苦くならん、然れど其の口には蜜のごとく甘からん』われ御使の手より小き巻物をとりて食ひ尽したれば、口には蜜のごとく甘かりしが、食ひし後わが腹は苦くなれり。」(1)

 アルブレヒト・デューラーにはこの場面を描いた版画があります。それを見るとヨハネは冊子本を飲み込もうとしています。え? 引用した日本語訳では「巻物」と訳されてますけど……。英語版を当たってみますとエゼキエル書の方は「roll」で黙示録の方は「the little book」です(2)。さらにヴルガータ聖書のラテン語はどうなっているのか調べてみますと、エゼキエル書は「volumen」で黙示録は「librum」です(3)。「volumen」は「巻物」で、そして「librum」はデューラーの描くような書物とみていいのでしょうか?

 ところが、ある方にギリシャ語訳で黙示録の該当箇所は「biblaridion」となっており「a little book」の他に「a little papyrus roll」という意味もあると教えていただきました。そもそも黙示録の成立した時代(紀元後一世紀?)には冊子本はまだ一般的ではなかったはずですから、デューラーの絵が間違っているという可能性が高いように思われます(4)。
 エゼキエルやヨハネとちがって、世俗の王様から本を食へと言われた人もいました。[以下略]

(1)『旧新約聖書』米国聖書協会、一九一四年。
(2)『THE HOLY BIBLE』AMERICAN BIBLE SOCIETY, 1877.
(3)ヴルガータ聖書のサイト(http://www.drbo.org/lvb/)より。
(4)フランス語の聖書ではどちらも「livre」のようですが、「livre」も古くはパピルスでできた巻子の形をも意味したと言います(http://www.cnrtl.fr/definition/livre)。なお、現存最古の冊子本は四世紀に作られたとされるカイロのコプト博物館蔵の聖書『詩篇』。冊子本は一世紀後半から二世紀頃に現れたと考えられているようです。



空飛ぶ本
 芥川龍之介の短篇小説「魔術」をご存知でしょうか? 主人公「私」は、ある時雨の降る晩、印度人ミスラ君に魔術の実演を見せてもらいます。ミスラ君がちょいと指を動かすと、書棚に並んでいた書物が一冊ずつ動き出しました。「夏の夕方に飛び交う蝙蝠のように、ひらひらと宙へ舞上」っては「うす暗いランプの光の中に何冊も自由に飛び廻って、一々行儀よくテエブルの上へピラミッド形に積み上り」すぐに「もとの書棚へ順々に飛び還って行く」ではありませんか。仰天した「私」はミスラ君にぜひとも魔術を教えて欲しいと頼み込みます(1)。

 コウモリのように、いや、まるで鳥のように自由に空を飛び交う本たち、それはウィリアム・ジョイスの短篇アニメ「モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本」(2)にも描かれています。主人公のモリス・レスモアは読書中にいきなり襲ってきた突風に吹き飛ばされ、知らない土地に放り出されます。あてもなくさまよっていると、何冊もの空飛ぶ本に引っぱられて中空に浮かんでいる若い女性に出会います。すると、彼女の手に乗っていた一冊の本が、ピョンピョンとモリスのところへやって来て、彼をある石造りの建物へといざなうのです。そこは羽ばたく本たちの巣なのでした。モリスは本の守り人としてそこで一生を終ります。そして、彼もまた、空飛ぶ本とともに昇天していくのでした。

 アニメの冒頭シーンでは、強烈な風がモリスの持ったノートの文字を空中に吹き散らしてしまいます。これはカルロス・フエンテスの短篇SF「火薬を作った男」を連想させてくれました。フエンテスはもっと深刻にページから文字が消え去ってしまう光景を描き出しています。

「本という本の活字がインクの蛆のようになって床に散らばっていたのだ。あわてて本を何冊かひらいてみたが、どのページもまっ白だった。悲しげな音楽がゆっくりと、別れを告げるようにわたしを包んだ。文字の声を聞き分けようとしたが、その声はすぐにとだえ、灰になってしまった。このことがどんな新しい事態を告げるのかを知りたくて外に出た。空には蝙蝠たちが狂ったように飛びかっていた。そのなかを文字の雲が流れていた。ときどきぶつかりあっては火花を散らし、……《愛》《薔薇》《言葉》と文字は空で一瞬輝くと、涙となって消えた。」(3)

 妖しくも美しい情景です。作者が、紙の本の終りを、空を飛び交う言葉のスパークとして、表現しているとしたら、それは、ひっきりなしに電子データをやり取りする今日の世界を、クラウド(4)という概念にいたるまで、かなり正確に予言しているのではないでしょうか。[下略]

(1)『芥川龍之介全集3』ちくま文庫、一九八六年。明治時代の東京では市内でもふつうに蝙蝠が見られたそうです。
(2)ウィリアム・ジョイス著、おびかゆうこ訳『モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本』徳間書店、二〇一二年。William Joyce『The Fantastic Flying Books of Mr.Morris Lessmore』Atheneum Books for Young Readers, 2012。アニメは短篇アニメ部門でアカデミー賞を受賞しています。
(3)カルロス・フエンテス著、安藤哲行訳『アウラ』エディシオン・アルシーヴ、一九八二年。「火薬を作った男」の初出は短篇集『仮面の日々』(一九五四)。
(4)雲、クラウドコンピューティング(英: cloud computing)とは「コンピューティングリソースの共用プールに対して、便利かつオンデマンドにアクセスでき、最小の管理労力またはサービスプロバイダ間の相互動作によって迅速に提供され利用できるという、モデルのひとつ」(アメリカ国立標準技術研究所)だそうです。

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本の虫の本 単行本 – 2018/8/27




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イラスト=赤井稚佳



ほんのまえがき

 本の虫って、どんな虫でしょう?
 英語ではブックウォームというくらいですから、くねくねと本の上をはいずって回る青虫でしょうか。蛍雪時代なんて言葉もあります。本を照らす薄明かりを放つホタルでしょうか。何をバカなこと言ってるの、本の虫っていうのは紙魚[ルビ:シミ]のことでしょ、と今思った方、あなたはもう立派な本の虫になっていますよ、きっと。本棚の陰に身をひそめると、この上もない幸せを感じませんか? 触覚が生えて肌が銀色につやつやと光りはじめていませんか?
 五匹の本の虫が寄り集まってこの本を書きました。オカザキフルホンコゾウムシ、オギハラフルホングラシムシ、タナカコケカメムシブンコ、ノムラユニークホンヤムシ、ハヤシウンチククサイムシ。それぞれ形態はもちろん、ジャーナリズム、古本屋、新刊書店、装幀など、活動する領域も異なっていますが、単に本が好きとか、本を愛する、というだけでなく、文字通り、本を食べて本とともに暮らしていると言ってもいいくらいのムシたちです。
 本の世界にまつわるテーマを、これらホンノムシレンジャーたちが、自由に取り上げました。項目ごとにひとつの独立した読み物になっています。皆が思い思いに選びながらも、ほとんど重なる話題はありません。調整しようね、と打合せのときには相談していたのですが、調整の必要はありませんでした。ときに、似たテーマを扱っているとしても、ムシそれぞれの捉え方は同じではありません。そのくらいバラバラ、いや、ヴァラエティがありながら、本に対する姿勢には共通するものがしっかりと流れている、この一体感もまた本書の特長です。本の本のブックガイドとしても楽しんでいただけますし、また、元本の風姿を生かしながら自在に躍動するアカイホンカキムシのブック・イラストレーションを眺めるのも贅沢なひとときとなるでしょう。
 草原に棲むナイキホンアミアツメムシの発案からこの本は始まりました。「本の用語集を作りたいんです」と蚊の鳴くような声で相談されたときには、正直、多少の不安を感じました。ところが、虫選が進み、徐々に姿がはっきりしてくるにしたがって、本の虫コロリのアイデアを蜘蛛の糸のように次々と繰り出してくれたのです。この本の仕上がりが読者の皆様に刺激と安らぎを与えられるとしたら、それはもう虫愛ずるナイキムシの読み通りだと言えましょう。
 読み終わったら、いえ、読んでいる最中にも、書店へ出かけたくてたまらなくなります、ぜったい。そして、そこで発見するでしょう、本に対する、本とともに生きている虫たちに対する、見方がすっかり変わっていることを。本を取り巻く空間が、すみずみまで意味をもってイキイキと感じられるようになっているはずです。これであなたも立派な本の虫です。触覚が生えて肌が銀色に……はなりません、たぶん。
   著者虫代表 ウンチククサイムシ


オカザキフルホンコゾウムシ  キンイツ科
Onajihon Nandodemokau Bakadeii
浪花ニ産ス。幼虫時ヨリ漫画ト文学ニ溺レテ生育ス。第三ノ新人、梶井基次郎、庄野潤三、開高健ラヲ好ム。詩ヲ愛シ荒川洋治ニヲ師トス。学生時代ヨリてぃっしゅぼっくす転用ノ文庫本箱ヲ愛用ス。映画、落語、音楽ニモ精通ス。多クノ著名人ニ取材シソノ養分ヲ吸ウ。本ガびっしり詰マッタ地下洞ニ棲ム。多数ノ著書ニ加エ、詩集『風来坊』アリ。

オギハラフルホングラシムシ  キョムシソオ科
Kiokuyori Kirokuninokoru Dokushoseyo
伊勢ニ産ス。小学生デ第三ノ新人ヲ愛読シ、喫茶店デ漫画ヲ貪リ、ラジオ投稿虫トナル。高校生デあなきすとヲ志望ス。古本屋・中古れこーど屋ニ日参スルコトヲ夢ミテ神保町ニ隣接スル大学ニ入ル。高円寺ヲ根城ニらいたートシテ活動ス。辻潤、吉行淳之介、鮎川信夫、男おいどん、野球、将棋、トリワケ昼酒ヲ好ム。巣ニハ窓ヨリモ壁ト廊下ヲ欲スル。

タナカコケカメムシブンコ  リカジョシ科
Gikkurigoshi Yatte Ichininmaeninari
備中ニ産ス。幼虫時ヨリ運動ヲ好マズ学級文庫ニ入リ浸リ、アマリニ同ジ本ヲ繰リ返シ読ムタメ親虫ヲ心配サセル。高校デハ生物部、社会問題研究部ニ属ス。倉敷ニテ古書店「蟲文庫」ヲ開キ固着生活ニ入ル。苔、亀、星、猫、南方熊楠、木山捷平、原民喜ラヲ好ミ、「古本屋の少女」ヲ経テ「ガチの本屋」ヘト変態ス。

ノムラユニークホンヤムシ  ショテンイン科
Miwataseba Honyade Hitorikirigayoi
越前ニ産ス。文学全集・美術全集ニ囲マレテ育ツ。姉虫ノ影響少ナカラズ、学校図書館、近所ノ本屋ニテ座リ読ミス。『ぐりとぐら』ニ衝撃ヲ受ケ、少女漫画、山田風太郎、山田稔ラヲ愛ス。面接ニテ「三月書房が好き」ト書イテ恵文社一乗寺店ニ採用サレル。以来二十年、すぴんトすりっぷニハ過敏ナリ。

ハヤシウンチククサイムシ  カミキリキザミ科
Honwamita Megadaijito Omoitai
讃岐ニ産ス。瀬戸内ノ海ニ面シタ農村デ種々ノ虫トトモニのほほんト成育。幼虫時ヨリ漫画ヲ好ミ、漫画家ヲ夢ミルモ挫折、画家トナル。三十ヲ過ギテ文学ノ世界ヲ知リ同虫雑誌ニ混ザリ、著述、編集、装幀ノ業ヲ覚エル。京ノ都ニ飛来シテヨリ古書ニ塗レテ本ノウルワシサニ目ヲ開カレ、モッパラじゃけ買イニイソシム。


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# by sumus2013 | 2019-08-16 21:57 | 文筆=林哲夫 | Comments(4)

荒地

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エリオット『荒地』(西脇順三郎訳、創元社、昭和二十七年十一月三十日)。下鴨にて。エリオット関連書ばかり十冊くらいまとめて棚に挿してあった。どうも同じ旧蔵者らしく思われた。どれも安かった。ちょっと迷って『荒地』にする。この文字力に魅かれた。装幀者名はない。

吉田健一の『葡萄酒の色』(垂水書房、一九六五年一月三〇日)を取り上げたとき、有名な冒頭の部分を引用しておいた。西脇はどう訳しているのか?

四月は残酷な月



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本書の巻末には原文が掲載されており、そのテキストで見ると書き出しはこうである。

 April is the cruellest month, breeding
 Lilacs out of the dead land. mixing
 Memory and desire, stirring
 Dull roots with spring rain.
 Winter kept us warm, covering
 Earth in forgetful snow, feeding
 A little life with dried tubers.

おや、西脇は「with spring rain」をすっぱりと削っている。なぜ? 吉田健一は次のように訳している。「生き返らせる」が妥当かどうかはおいておいて、こういう風に言いたいところだろうな、という気がする。

 四月は残酷な月で、死んだ土地から
 リラの花を咲かせ、記憶と欲望を
 混ぜこぜにし、鈍った根を
 春雨で生き返らせる

つづく五行目からの「冬は・・・」のところ、これは吉田訳だと少々くだくだしい。西脇訳の方がクッキリ原文の感じを出している。二人の文体はまったく違うものの、一長一短ある感じ。

それにしても二人とも脚韻をまったく無視しているのは解せない。何か少しくらい「ing」の続くリズムを再現する努力があってもいいように思う。

# by sumus2013 | 2019-08-14 22:10 | 古書日録 | Comments(0)

二代の電お光

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下鴨での嬉しい発見はこの二冊だった。榎本法令館の赤本『二代の電お光』上下。ともに明治三十八年二月二十日の発行。だいたい、タイトルが表紙では、見ての通り『二代目電お光』。巻頭内題が『驚くべき近世の女賊/二代の電お光』。そして奥書きのタイトルが『二代の電お光』である。「電お光」は「いなづまおみつ」と読ませる。

法令館/榎本法令館


『いなづまおみつ』は榎本の最初期の出版物だったようだ。本書はその再版か別ヴァージョンであろう。表紙画のサインは「景舟」?と読めるようだが、この号だけでは、誰なのか分からない・・・(ご教示を)。

19050220a 驚くべき近世の女賊 二代の電お光 上編
編輯発行印刷者 榎本松之助 大阪市南区松屋町三十九番邸
法令館本店 大阪市松屋町通末吉橋筋北へ入
法令館支店 東京市下谷区仲徒士町四ノ十二
203mm×145mm 表紙共10pp 

19050220b 驚くべき近世の女賊 二代の電お光 下編
編輯発行印刷者 榎本松之助 大阪市南区松屋町三十九番邸
法令館本店 大阪市松屋町通末吉橋筋北へ入
法令館支店 東京市下谷区仲徒士町四ノ十二
208mm×148mm 表紙共10pp  


# by sumus2013 | 2019-08-13 20:37 | 関西の出版社 | Comments(2)

第32回下鴨納涼古本市

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暑い。午前中から三十度超え。正午ごろには三十六度(最高三十七度)。日差しがきつすぎて、日当たりの本棚は見ていられない。古書研の用意した団扇もあっというまに品切れ。

季村さんと「一九三〇年代モダニズム詩集―矢向季子・隼橋登美子・冬澤弦」の話。予約がかなり入っているそうだ。これは嬉しい。まず、他では読めない詩人たちです。どうして忘れられてしまったのか、女性二人はとくにいい。部数も少ない。お早めに。古書善行堂でも予約受付しています! 矢向(やむかい)と季村さんは仮に読んでおられる。隼橋は「たかはし」。

集中力があったのは最初の一時間くらいだった。口笛・サンコウさんの共同テントでそこそこ買った。他にもいろいろ欲しくなる雑誌など散見されるも、値段にどうしても納得できず、あれこれ手放す。いろいろ探求ポイントはあるのだが、そちらも、そう大きな収穫はなし。幾人かの知人と立ち話。

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トランスポップ・ギャラリーで「うらたじゅん追悼展 なつあきふゆはる」を見る。リング綴じになった絵葉書大の『うらたじゅん作品集』を求める。

善行堂へ。工学部前からの坂が殺人的な苦しさだった。「植草甚一」の新作を納品する(詳しくは善行堂まで)。ヘロヘロになりながら帰宅。暑さも、暑しだが、年齢をひしひし感じる。


# by sumus2013 | 2019-08-11 20:07 | 古書日録 | Comments(0)