林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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北野恒富展

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2017年8月5日〜9月18日

島根県立石見美術館
http://www.grandtoit.jp/museum/



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2017年6月6日〜7月17日
あべのハルカス美術館


あべのハルカスの大阪芸術大学スカイキャンパスで開催された「大正イマジュリィ学会40回ジンポジウム 大正イマジュリィをもとめてII 北野恒富とその芸術ーー本画、ポスター、挿絵、そして大阪」(七月九日)を聴講した。なかなか興味深い発表ばかりで参考になった。とくに岩絵具についての荒井経氏のお話は絵具や描画法からの図像分析で非常に面白く感じた。

むろん北野恒富の作品展示もじっくり見てきた。やはり腕の立つ絵描きである(滋賀県美外で十数年前に回顧展があったが、大阪での大回顧展は初めて)。単なる美人画家、いや単なる絵師というよりも東西の美術事情・デザイン潮流に敏感な綜合的美術家と見るべき逸材である。ライバルだった鏑木清方よりもよほど幅広いレパートリーを持つ。たぶんあまりに器用なのでかえって歿後の評価が上がらなかったのかもしれない。しかし今後は大阪画壇だけでなく日本近代美術史を語る上では決して欠かせない画家・デザイナーの一人として認識されるはずである。必見の展覧会であろう。

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# by sumus2013 | 2017-07-12 16:24 | 雲遅空想美術館 | Comments(0)

大吉にて

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七月十一日、水雀忌。寺町通り二条下がるの「大吉」にて。この写真は二〇〇二年一〇月一六日に撮られたもの。このとき小生は夷川通りの湯川書房で個展中だった(一〇月一四日〜一九日)。大吉のご主人杉本氏とその息子さんがこの日会場に来てくださったから、午後五時前に閉店にして、湯川さんと、池坊美術館で表具の展覧会を見て来られた戸田勝久さんと三人でおじゃましたのだった。杉本氏撮影と思う。息子さんの淹れてくれた珈琲が美味だった。

吉岡実『神秘的な時代の詩』(湯川書房、一九七四年)


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# by sumus2013 | 2017-07-11 15:48 | 古書日録 | Comments(3)

触媒のうた

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今村欣史『触媒のうた 宮崎修二朗翁の文学史秘話』(神戸新聞総合出版センター、二〇一七年五月二六日)。面白く読了。出版の経緯などについては著者のブログをご参照いただきたい。

『触媒のうた』と宮崎修二朗翁

宮崎修二朗翁といえば、小生にとっては『神戸文学史夜話』(天秤発行所、一九六四年)の著者として親しい。今架蔵しているのは某氏から頂戴したものだが、二度の転居や数え切れない蔵書処分をくぐりぬけて現在も書棚の一角に収まっている。名著である。

宮崎修二朗『神戸文学史夜話』

その博覧強記の宮崎翁よりさまざまな文学者にまつわる逸話を今村氏は引き出し、さらにその内容を文献および実地調査によって検証した上でまとめられたのが本書ということになる。読者に近い目線から、そのテーマの扱い方も語り口も丁寧で柔らかく、文学そのものにそう深く関心がなくてもつい引き込まれてしまう。

逸話というのは、人があまり語らない事柄で、どちらかといえばマイナス面を示すことが多いわけだが、やはり面白いのは成功よりも失敗(成功者の失敗?)、表より裏だろう。ジャーナリストとして宮崎翁は多くの有名無名の人々の表面も裏面も見てきた、その全部はもちろん語り切れないだろうし、現実問題として語れないことも多かろうが、それでも本書では数々の逸話が披露されている。

例えば竹中郁が原稿料がなかったことに怒った話。宮崎翁は語る。

みんなの前で、『なんでもタダであってはいけない』とおっしゃったんですね。これは当然なんです。けど僕、若かったから、それを人づてに聞いてカーッ! と来てね、もうあいつに会っても二度ともの言わんと心に決め、それから十何年お会いしても知らん顔してました。》(原稿料 I)

竹中らしくない、ような気もするが、これは竹中のプロ意識ということと繋がっているのだろう(本書でもそこはフォローされている)。宮崎翁、けっこうカーッとくるタイプである。

「ぼくは、長崎県の平戸というところのいわゆる三流校の中学校を卒業しました。勉強とはどんなことか誰も教えてくれない野放しで、特に数学はチンプンカンプン。のっけから定理や公理を覚えさせられて、なんでそうなんだ? と聞いても教えてくれない。しつこく聞くもんだからしまいに先生が怒ってしまってね。その教師までも嫌いになってしまい、五年間、テストの時には名前だけ書いて外へ出てました」》(土屋文明の歌)

これは非常に重要な回想である。定理や公理はマル覚えするから利用価値があると思うのだが、それを根問いのように「なんでそうなんだ?」と掘り下げる、納得しないと前に進めない。小生の知人で、茶の作法を習ったとき、所作の一々について「どうしてそうしなければならないのか?」と師匠に問い続けた人がいる。師匠も困ったろうね。何においてもその根源を突き詰めることは深く知るためには必須である。必須ではあっても、それでは仕事が進まないし、ある意味生き難くもあろう。しかしながら何かを成し遂げる人はみなそういう頑固さを持っているに違いない。とにかく、五年間テストをボイコットするなんて誰にでもできることではない。

目下たまたまラジオで柳田國男『故郷七十年』の朗読が放送されている。その名著『故郷七十年』の口述筆記をしたのが宮崎翁だと書かれていて、これにも驚かされた。ところが、それはなかなか難儀な仕事だったらしい。口述筆記の最中に宮崎翁(もちろん若き日の)が言葉を差し挟むと柳田は不快感を露にした。

口述の途中でそのことに触れると露骨に不愉快な顔をされましてね、そっぽを向かれてしまいました。そのようなことが何度もあったんです。ご自分のプライドが少しでも傷つくようなことには敏感に反応して拒否なさいました。まあぼくも当時は生意気でしたし、未熟なそれが顔に出ていたとも思いますがね。》(柳田國男 II)

それだけではない、柳田が触れられたくなかった松岡家の暗部を知ってしまい、決定的に嫌われることになったのだという。暗部がいったい何なのかは本書をご覧あれ。なお柳田の殿様ぶりは佐野眞一『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』(文藝春秋)を読むとよく分る。

暗部と言えば、井伏鱒二の『厄除け詩集』がパクリだったという事実を最初に見つけたのが宮崎翁だったそうだ(!) あの「サヨナラ」ダケガ人生ダ……である。

「昭和60年ごろのことでした。講演で佐用町に行った時にね、ある人から『こんなものがうちにあるのですが』と見せられたのが『臼挽歌』(潜魚庵)という本でした。これを見て驚きました。井伏の『厄除け詩集』とそっくりそのまま拝借の訳詩が並んでいたんですよ」》(厄よけ詩集

宮崎翁は井伏が歿するまで待って、そのコピーを大岡信に送り、寺横武夫(井伏研究家)に送った。これによって厄除け詩集』にタネ本があることが周知の事実となった。なるほどねえ。ただし、漢詩をこのように平易に読み直すことはそう珍しいことでもないように思うし、井伏は『田園記』のなかで種本が存在することを明確に述べているので(むろん本書でも引用されている)これは暗部というほどでもないか。

そういう暗闇を照らす意味でもっとも興味深く読んだのは北山冬一郎のくだりである。『書影でたどる関西の出版100』では熊田司氏がこの詩人を取り上げておられるから、小生もその書影と名前には記憶があった。戦後すぐに詩集『祝婚歌』を出して注目され、そのなかの「ひぐらし」「紫陽花」などに團伊玖磨が曲を付けたことにより、それらは今も歌い継がれているという。ただ作者本人は『小説太宰治』(この本、古茂田守介の装幀とか! 古書価はかなりのもの)の問題などで姿を消し、周辺の人達に迷惑をかけ、いつか忘れ去られてしまった。今もって生死すらハッキリしないらしい。神戸で亡くなったとも。北山冬一郎情報だけでも本書は値打ちものである。

やはり、彼のホントの最後は誰も知らないのだ。
 わたしもこれ以上、彼の戸籍調査はしたくない。幻のままでいいのではないかと思う。
 北山冬一郎は今もどこかの街をかわいいウソをつきながら放浪しているにちがいない。

  日暮れ
  ひぐらし
  ひぐれに哭く
  ひとひ空しく
  むなしく暮れて
  夕焼
  わが掌を
  かなしく染めぬ
  日暮れ
  ひぐらし
  ひぐれに聞く
         (ひぐらし)  》(北山冬一郎 V)

その他、足立巻一、富田砕花についてもかなり詳しく叙述されているし、桑島玄二も登場する。彼らの等身大の姿を彷彿とさせる逸話が貴重この上ないものとなっている。


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# by sumus2013 | 2017-07-11 15:47 | おすすめ本棚 | Comments(4)

ホックニーとエヴァンス

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六月中旬のパリは連日30度を越える暑さだった。38度の日も二日ほど続き、例年のパリでは想像もつかない異常気象だった(38度の日は24時間の気温としては1945年以来の最高記録だったそうだ)。あまりに暑いのでどうにかしのぐ方法はないかと考えた。できるだけお金を消費せずに。午前中は公園の木蔭で涼むというのもあるのだが、午後になると木蔭でも汗が吹き出るくらいムッとしていた。結局、冷房の効いた百貨店でぶらぶらするか(しかしこれにも限度がある、日本と違って百貨店には休憩用の椅子がわずかしかないのだ)、ポンピドゥーセンターの一階、無料ゾーンのソファーで長居するか、そのくらいしか方策を思いつかなかった(すぐ隣のブランクーシ・アトリエにも空調があってベンチもあって入場無料である、ただし午後二時から)。

ところがポンピドゥーのカフェが悪くないことをこの暑さのおかげで知ることになった。かなり広くて、セルフサービスなので、コーヒー一杯で何時間でも粘れる。ブラック・アメリカン・コーヒーが2.5ユーロ。パリのカフェで「アン・キャフェ」(コーヒー一杯)と注文するとエスプレッソが出てくる。パリでコーヒーと言えばエスプレッソのこと。日本のようなコーヒーはカフェ・アロンジェ(薄めたコーヒー)と言うようだが、それは文字通りエスプレッソを薄めただけである。しかしポンピドゥーのカフェは、外国人観光客が多いせいもあるのか、アメリカン・コーヒーを用意している。涼みがてら、何時間もずっと座って周囲の人間を観察していると、席だけ占領して何も注文せず、しばらく休憩して去る人たちも少なくない。ジュース一杯でズーッとPCを使っている男女だとか、オフィス代わりに利用しているらしい人もいた。

しかし、せっかくだから展示も見ようということで、どうしても見たかったというわけではないが、ちょうど二十一日に始まったデヴィッド・ホックニー展と四月からやっているウォーカー・エヴァンス展を見た(特別展のチケットは14ユーロで全ての展示が見られる)。

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これが意外にどちらも見応えがあった。ホックニーは八十歳。最近は野原にキャンヴァスを立てて写生をやっているらしい(そんなDVDを見た)。まさに回顧展とはこういうものだろう。ホックニーの生きてきた軌跡が部屋ごとに作品として訴えて来る。初期の英国時代、ニューヨーク時代、西海岸の時代……。特別に絵がうまいというのではないのだが、センスというのか、絵のツボを押さえている。細い線描のデッサンなんか最高に良かった。しかし強く思ったのは、最初の部屋、一九五四年から五六年に描かれたかなり写実的な四点が並べられていた、が全てだな、ということ。街景と川沿いの風景、父の肖像と自画像。とくに父の像は何とも言えずいい作品だった。マイナーポエットの感じだが、この回顧展でどれか一枚もらっていいのなら、小生は迷わずこの父の絵を選ぶ。

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ウォーカー・エヴァンスといえば農夫とか田舎の建物がまず目に浮かぶ。しかしこの大回顧展ではその全体像を見られることで彼がまさにモダニストとして生きたことがはっきり分る。その被写体の選び方からしてシュルレアリストの一員だと断定してもいいだろう。とにかくこれには驚かされた。また、このカタログがいい出来なのだ。そんなに高くはない(たしか49.5? ユーロだったか)、ただし分厚い。すでに買ったトポールのカタログも分厚い。残念だが諦めた。

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ポンピドゥーは開館四十周年になるという。早いものだ。小生は一九七六年に初めてパリの土を踏んだのだが、そのときここはまだ巨大な工事現場だった。元はレアールという築地のような市場だった。それが移転した跡地の一角に建ったのである。まだ工事中のような珍妙な外観も話題になった。ポンピドゥー以後、美術館の建物は奇抜さを競うようになったような気がする。もう四十年とは早いものだ。

そうそうチケットのもぎり(実際はQRコードを確認するだけですが)に日本人の男性がいた。数年前にルシアン・フロイド展を見たときにも日本人スタッフを見かけたが、同じ人なのかどうか。日本人が働いているのはレストランやブーランジュリーやパティスリーだけではないようである。けっこうなことだ。

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こちらはポンピドゥーの南側にあるビルの壁。ダリ?


Home – Centre Pompidou

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# by sumus2013 | 2017-07-10 21:24 | 巴里アンフェール | Comments(0)

新編 左川ちか詩集 前奏曲

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『新編 左川ちか詩集 前奏曲』読了。まえがきを全文、はしがきを一部引用する。

ここには、生きている左川ちかの姿がある。
 昭森社の『左川ちか詩集』は、彼女の死後に出版されたものである。『新編 左川ちか詩集 前奏曲』におさめられた詩のほとんどは、彼女がじかに目をとおし、閲したものばかりだ。付録につけた『室樂』については、生前に出版した唯一の本であるが、これにも初出雑誌があり、鏤刻を経て単行本として完成したものの初々しい原形をおさめてある。
 今回、『前奏曲』とつけたのは、昭森社の左川ちか詩集』という金字塔へ結実するという意味あいをふくんでいる。此処には、Overture がある。こゝには、はじまりがある。みじかいがつよく焔のように生きたあかしとして、うたが黒曜石うえに墓碑銘として深々と刻まれている。》(柴門あさを)

今回の新編 左川ちか詩集 前奏曲』においては、昭森社版『左川ちか詩集』や、森開社版左川ちか全詩集』とは、いささか収録内容にちがいがある。それは極力初出での収録をめざしたということだ。》(はしがき)

これは、可能なかぎり「左川ちか」の全詩、全散文、全翻訳のあらゆるヴァリアントまでを雑誌初出で網羅することをめざした『左川ちか資料集成』の製作過程でできたちいさなちいさな副産物にすぎない。》(同)

左川ちか、これまで断片的にしか読んでいなかった。既刊の詩集二冊はちょっと手が出しにくい古書価になってしまっているから、本書は願ってもない出版だ。モダニズムの文法といったものが着々と自分自身の言葉になっていく過程が手に取るように分る。

新編 左川ちか詩集 前奏曲
著 者:左川 ちか
編 纂:紫門 あさを
装 幀:小山力也(乾坤グラフィック)
発 兌:えでぃしおん うみのほし
発 行:東都我刊我書房
予 価:4,000円
刊行:2017年6月30日


付録『室樂』はジョイスの詩集。三十六篇の恋愛詩から成る。初版はエルキン・マシューズ(Elkin Mathews)から一九〇七年五月に出版された。本書付記によれば左川ちかは『室楽』第三版(エゴイストプレス、一九二三年)をテキストとして翻訳を行ったそうだ。参考までに第一の詩の左川訳と原文を掲げておく。


地と空中の弦は美しい音楽をつくり出す。
川のそばの柳の会うところの弦は。

川に沿うて音楽が生まれる。恋人がそこをさまよ
っているので。彼のマントの上の青ざめた花。
彼の髪の上の暗い葉。

総ては静かに弾いている。音楽のする方に頭を
曲げて、そして楽器の上を指がさまよい。


I

Strings in the earth and air
   Make music sweet;
Strings by the river where
   The willows meet.

There's music along the river
   For Love wanders there,
Pale flowers on his mantle,
   Dark leaves on his hair.

All softly playing,
   With head to the music bent,
And fingers straying
   Upon an instrument.


左川訳は原文の行分けを無視して散文に近い形である。左川自身も《原詩の韻を放棄し、比較的正しい散文調たらしめるようにつとめた》と書いている。ここに詩の翻訳の悩ましい問題がある。韻を放棄してしまうと原詩の要素のうちの半分は捨てるようなものである。しかし、ではどうすればいいかというと、どうしようもないのだから仕方がない。全体に左川の苦心がうかがえる訳文である。

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これがエゴイストプレス版『室楽』(The Egoist Press, 1923. "THIRD EDITION.")の書影。次に掲げたのは初版の扉と表紙。初版は上述したように Elkin Mathews、1907 で第二版が同じ版元から一九一八年に出ている。また一九一八年にはアメリカで最初の海賊版(The Cornhill Company)が登場し、二七年にはエゴイストプレス版をそのまま再版した第二版の二刷が Jonathan Cape から出ているようだ。いずれの版も発行部数はかなり少ない。

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『室楽』(Chamber Music)というタイトルはリチャード・エルマン(Richard Ellman、一九四九年のエヴァ・ジョイスとの対話から)によれば、ジョイスがオリヴァー・ゴガーティ(Oliver Gogarty)とともにジェニィ(Jenny)という若い未亡人のもとを訪れたとき、一九〇四年の五月だった、三人は酔っぱらって、ジョイスがこれらの詩のいつくかを大声で読み上げると、やおらジェニィはカーテンの後ろで溲瓶(chamber pot)を使い始めた。ゴガーティは「こりゃ、君に対するジェニィの批評だな!」とつぶやいた。ジョイスが後に弟スタニスラス(Stanislaus)にこの話をすると「そりゃ、いい兆しだ」と言って「室楽」というタイトルを示唆したらしい(以上 wiki より)。Chamber Music というのはジェニィが奏でるうるわしい(?)音色だったということになる。

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# by sumus2013 | 2017-07-08 19:37 | おすすめ本棚 | Comments(0)

栄枯盛衰

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モンパルナス、ヴァヴァンのラーム・エ・ル・レーヴ書店(Librairie L'Ame et le Rêve)が閉店するらしい。まだ看板はかかっていたものの、本はきれいさっぱり片付けられており、部屋の隅に段ボール箱が積み上げてあった。シュルレアリスムが専門でいつも気になる本があったのだが(といってもガラス越しに涎を垂らしていただけです)、パリで路面店を維持するのはなかなか難しいのかも知れない。おそらくネットだけの営業になるのだろう。

ラーム・エ・ル・レーヴ書店

それからもう一ヶ所、狭き門書店(La Porte Etroite)。これはすでに前回のとき閉店が予告されていたので驚きはなかったものの、現実に別の店舗になっているのを目の当たりにすると、ショックはショックである。向って右隣のギャラリーが展示場として借りたようだ。

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この店は油絵でも水彩でも何点も描かせてもらった。ありがとう、狭き門書店。

「ラ・ポルト・エトロワット書店」

狭き門書店(La Porte Etroite)

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# by sumus2013 | 2017-07-07 19:54 | 巴里アンフェール | Comments(0)

七夕目録

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平成29年第52回明治古典会七夕古書大入札会』目録を某氏より頂戴した。スタート価格十万円からのようなのでこちらとしては何も心配する必要はない。ただ洲之内徹の原稿「雨の多い春」九十三枚が十で出ているのが気になるくらい。漱石の子規宛書簡三通だとか、堀辰雄の原稿だとか立原道造の手作り詩集だとか稲垣足穂関係資料一括だとか河田誠一資料一括だとか「ホッホー」とため息をつきながら眺めていたが、なかではやはり上に掲げた中原中也書簡には驚かされた。

大正十五年十一月は十九歳の中也がアテネ・フランセに通い始めた頃である。前年三月、京都で出会った長谷川泰子とともに上京。四月に小林秀雄と知り合っている。ところが十一月には泰子が秀雄のもとへ走る。十五年四月、中也は日本大学に入ったがすぐに退学、その秋、アテネ・フランセへという流れだが、泰子と別れて一年、小林との間にわだかまりはもう全くないようにも読める文面だ。ディクテがあるから授業に出ないというのは翻訳のためだけにフランス語を学んでいたということだろう。

金澤行き、藤村の悪口などもそうだが、「先日は失敬」ではじまり「失敬」で終わっているのも妙に興味深く感じられる。

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# by sumus2013 | 2017-07-07 19:24 | 古書日録 | Comments(0)

シャロンヌ教会の古本市

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『モモイトリ』2017年春闌号(古書西荻モンガ堂、二〇一七年五月一日、表紙=保光敏将)。特集:極めてます! ちょっとだけ極めてます!。いい雑誌だなあ、と思いながら目次を見ていると「ジュテーム・パリ」という題名が目に飛び込んできた。筆者は藤川江良氏。これはまず読まなくちゃと思って開いてみたら、その見出しがまた「ジョルジュ・ブラッサンス公園の古本市」「トラム三番線」「サン・ブレーズ地区」とあまりにこちらの趣味にピッタリなので驚いた。

ブラッサンス公園は《一年滞在していたころはそれこそ毎週土日のどちらか(主に日曜。理由は後述)には行っていて、思いで深い出来事も多々ある》とか。《ちなみのお勧めの時間帯は日曜日の午下がり。古本市の店主は皆マイペースで、土曜日だと午後になっても品出しが完了していない、なんてことがざらになるので、品出しが完了している日曜日の方がじっくり品定めできる。》・・・まさにおっしゃる通り。

トラム三番線はブラッサンス公園へ行くためにいつも利用しているし、そしてサン・ブレーズのサンジェルマン・ド・シャロンヌ教会(L'église Saint-Germain de Charonne)、ここは小生も今回はじめて訪れた。この教会が主催する古本市が教会の向かいの建物で開かれていると知人が教えてくれたのである。この教会は20区、ペール・ラシェーズ墓地のさらに東にある。メトロのガンベッタ駅で下車し十分ほど歩いた。

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パリでは珍しい姿の教会である。佐伯祐三の絵「モランの寺」(サン・ジェルマン・シュル・モラン教会)に似ているし、サンジェルマン・デ・プレ教会(一番下の写真)にも少し似ている(サンジェルマン系の建築様式というのがあるのだろうか、よく知らないが)。一部の遺構は七世紀に遡るそうだ。五世紀にこの場所でまだ役人だったサン・ジェルマンと少女だったサン・ジュヌヴィエーヴ(パリの守護聖人)が出会ったという言い伝えがある。会堂の背後に墓地があり、現在ではパリ市内で墓地を持つ教会はここともうひとつ(サン・ピエール・ド・モンマルトル教会)だけだとか。


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「Bourse aux livres(本の共同センター)」、これは本を寄贈してもらい、それを売って教会運営費に充てるというようなことだろうと思う。定期的に開かれているようだ。建物の中の三部屋に本が並べられ、教会関係書・レコード・CD・DVD、子供の本、ミステリーを中心とした一般書というふうに分けられている。一般書の部屋でだいぶ粘ったが、さほどのものはなく、ただ吉村昭の『La jeune fille suppliciée sur une étagère(少女架刑)』(ACTES SUD, 2002)を見つけたので買っておいた(この本は新刊書店にもまだ並んでいる)。値段は書かれていない。担当のお兄さんが「え〜と」という感じで値付けをしてくれる。ペパーバックはすべて1ユーロらしい。ハードカバーでも2ユーロくらいではないかと思う。

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他に子供の本の部屋で一冊おもしろいものを見つけた。それは後日紹介する予定。まったく期待していなかったのだが、三冊買って4ユーロ。まずまずの収穫だった。シャロンヌあたりは観光都市パリとしてみれば、面白味のない庶民の生活圏だが、そのためかえって飾らない素顔のパリの一面を感じられるのも確かである。

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サンジェルマン・デ・プレ教会



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# by sumus2013 | 2017-07-05 21:25 | 巴里アンフェール | Comments(0)

ぶらぶらブラッサンス

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パリでいちばん楽しみな古本遊びはジョルジュ・ブラッサンス公園。この古本市については何度も書いて来た。今年は、聞く所によると、三十年ほど前(一九八七)にこの古本市を始め、これまで中心的に運営してきた人物が引退したそうで、その後継問題で何やらガタガタしているらしい。部外者としてはこの雰囲気でつづけて行ってもらえれば何も言うことはないのだが。


上の写真、遠景に見えているのが古本市会場(毎週土日開催)。すぐ横に薔薇園がある。下の写真は薔薇園側から少し離れて会場を眺めたところ。

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会場には鉄格子があり、土曜日の夜は見張り番が付くとのこと。それ以外の日には備品や在庫は会場の隅にある倉庫に収められる。

午前九時〜午後六時。ただし午前中からしゃっきり開いている店は少ない。正午前くらいにようやく出そろう感じだろうか。また、午後一時になると店番たちは食事に出かける。出かけないでテーブルを出して飲み食いしている人もいるが、出かける人は自分の平台の上にビニールシートをかぶせたりして臨時に店を閉める。だいたい一時間半くらいは戻ってこないようだ。だから、いい本があると思って目星をつけ(即座に買うほどではないが、他に何もなければ欲しいな、というくらいの本)、他の店を物色してからその店に戻ってみると昼休み中ということはしばしばある。そういう意味では午後二時以降に出かけるくらいがちょうどいいのかもしれない。

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今回の古本テーマはふたたびローラン・トポール。何かないかと目を皿にして捜し歩いていると一冊だけ見つかった。もっとあってもいいはずなのだが、ないときにはないものだ。しかもこの一冊がそこそこの値段だった。かなり迷いに迷った末に購入。

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『ANTHOLOGIE DE L'HUMOUR NOIR / MANIFESTE JEUNE LITTERATURE』(Editions L. KLOTZ, 1964)。表紙画がトポールである。ストラスブールの版元らしい。扉に七号と書いてあるものの他の号が出たのかどうか? ブラック・ユーモアの文や詩、写真、漫画を集めたアンソロジー。上の図では表紙のタテがヨコになっているように見えるが、じつは本文は横長に組んである(すなわち綴じは短辺)。本文の方向に合わせた。初期のトポールらしい画風が好ましく貴重だ。トポール展に出品されていなかったのも買いの決め手になった。

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# by sumus2013 | 2017-07-03 18:14 | 巴里アンフェール | Comments(0)

古本こぼれ話

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高橋輝次『古本こぼれ話〈巻外追記集〉』(書肆艀、二〇一七年六月三〇日)。

先に親しくなった書友、小野原道雄氏から、秋の京都の古本祭りでこの加古川に住む古本の猛者、清水裕也君を紹介してもらった。それ以来、私も時々あちこちの古本展でお会いしては、楽しく古本談義を交わす間柄となっている。

清水氏はこのブログでも紹介した『古本屋にて、』を刊行した青年である。

これを拝見して、私も刺激を受け、自分も小冊子でこんな本が造れないか、と思いつき、まず清水君に相談してみたのである。清水君もそのアイデアに共感してくれた。それからトントン拍子に話が進み、彼自身が私の読みにくい手書き原稿を活字化してくれ、小さな本にしてくれることになったのである。せっかくの機会なので、それまでに書いていた原稿に加筆したり、今度の『編集者の生きた空間』の巻外、"追記"に当るエッセイも四篇、急遽書下ろしてみた。その打合せの時間はなかなか楽しいものであった。文章の中身はともかく、活字の組み方や本の出来栄えには満足しており、清水君の努力にとても感謝している。

新しい展開の本造りとして、高橋ファンとしては絶対入手しておかなければならない一冊になっている。なお、古書善行堂(京都)、たられば書店(茨木)、一〇〇三(神戸)、本は人生のおやつ(大阪)、ますく堂(東京)では店頭販売されているとのこと。直売は下記へ。

頒価600円(送料1冊の場合は140円)

高橋輝次
560-0002 大阪府豊中市緑丘5−2−3
FAX 06−6854−0867

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# by sumus2013 | 2017-07-03 18:03 | おすすめ本棚 | Comments(0)