林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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ブゾーニざんまい

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昨夜はかなり久しぶりの演奏会へ。京都府立府民ホール・アルティで開催された「ブゾーニ生誕150周年記念 サラ・デイヴィス・ビュクナー ピアノリサイタル」。チケットを頂戴したのである。サラ・デイヴィス・ビュクナーについてはこの記事が参考になる。

Style: Crossing the Concourse | The New York Times


サラは若き日、フェルッチョ・ブゾーニの教え子たち何人かから、そして義理の娘ハンナからも多くのことを学んだのだそうだ……というようなことを壇上に登場していきなり日本語で話し出したのには驚かされた(いちおうカンペを見ながらです)。ほぼ同じ内容がパンフレットに記されている。それによればサラはベアテ・シロタ・ゴードンとも親しく交わっていた。

《彼女はブゾーニの最も重要な弟子のひとりであったレオ・シロタの娘でした。ベアテはGHQの一員として日本国憲法草案作成に携わり女性の権利を主張し「男女平等」を憲法に盛り込むために尽力した事でも知られます。シロタとミュンツ[ポーランド人ピアニスト]は、東京芸大や桐朋学園の教授として多くの日本人を指導しましたが、彼等がこの日本で抱いた親愛の情は私の日本に対する親愛の想いと重なります。また、ブゾーニには日系女性ヒデと結婚した息子ラファエルとの間にキキという名の日本の血を引く孫もいたのです。今回このプログラムを組んだ時、私はとりわけ日本で演奏したいと思いました。》

そのプログラムは以下の通り。

・ブゾーニ エレジー集
・J.S.バッハ アリアと変奏曲(ゴールドベルク変奏曲)ブゾーニによる自由編曲
・A.カゼッラ ピアノのための6つの練習曲Op.70
・F.リスト パガニーニによる大練習曲 プゾーニによる自由版

「エレジー集」がいきなりぶっとんだ。一九〇六年の作曲らしいが解説にはこうある。

《フェルッチョ・ブゾーニの心髄はロマン主義者であったと私は思います。魅力的かつ調和のある大胆さとその伝統的で驚くべき豊かなスケール、それはつまりバッハからイギリス民謡、そしてリストとスクリアビンへのすべてをその7曲のエレジーに見出すことができます。》

そんなものかなとも思うのだが、絵画になぞらえればフォーヴィスムからキュビスムへ移行している感じ。破壊と建設の音……ようするに「騒音」が大都市の風景を起想させた。アルティは音響効果が素晴らしい。ピアノ(ヤマハグランドピアノCFX)の音が迫って来る。正直驚いたのは、その強烈な音の波動のなか、最前列に座っている観客の何人かがいきなりうつらうつら船を漕ぎ出したこと。会場の室温がやや高かったことにもよるのかもしれないが、人間どんな状況でも寝られるもんだなあと改めて感嘆したしだい。

「ゴールドベルク変奏曲」は熱演だった。カゼッラはブゾーニの弟子だそうだが、まあそんなところか。そしてブゾーニ版のリスト。これも良かった。このへんになると室温も落ち着き、寝ている人はほとんどいなかったように思う(ゼロではなかったかも)。ブゾーニの音に馴れたということもあるかもしれない。アンコールはジュリアードの学生だったサラ(デイヴィス)が作った短い曲を。

楽譜も置かない完璧な演奏(かどうか、素人耳にはそう聞こえた)。ブゾーニ弾きは何人かいるらしいが、機会があれば聞き較べてみたいものだ。演奏もさることながらこのキャラクター、注目していいピアニストである。

なおこの日の演奏はNHKBSプレミアム「クラシック倶楽部」2016年6月10日朝5時から放映されるそうだ(NHKFM「ベストクラシック」でもオンエアされるようだが放送日未定)。会場にはカメラが五台ほども配置されていた(二台はオートマチックだった)。写っているかも……。

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by sumus2013 | 2016-04-02 20:44 | おととこゑ | Comments(0)

初期絵画とペン画

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富士正晴記念館から『富士正晴資料整理報告書第21集 富士正晴記念館所蔵 初期絵画とペン画』(富士正晴記念館、二〇一六年二月二九日)が届いた。本書には初期絵画十五点のカラー図版およびペン画二十三点のモノクロ図版および先日(二月二十日)の講演

筆にきいてんか 画遊人・富士正晴

とほぼ同じ内容の拙文が収録されている。実際にはこの文章を先に書き、それをふくらませて講演をしたので、講演で話したときの方が少し深くはなっているが、全体の論旨は変らない。

拙文の他に中尾務「ポンカ登場まで」と題した詳細な富士正晴の初期絵画についての解題も収められている。「ポンカ Ponca」というのは二十歳前後の富士正晴が使っていたペンネーム(サイン)である。

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参考までに拙文の結論らしき部分を引用しておく。これは講演会ではしゃべらなかった。

『紅楼夢』には賈宝玉という奇矯な少年がメインキャラクターの一人として登場する。玉を啣んで生まれ、腕白がひどく、大変な学問嫌いで、女子どもといっしょにいるのが好き。その豪邸へ従姉妹の仙女のような黛玉がやって来たとき、宝玉は彼女に向かって「お前は玉を持っているか?」と訊ねる。黛玉がそんなものは持っていないと答えると、いきなりヒステリーの発作を起こした。自分の持っている玉をもぎ取り、投げ捨てて、何が珍しい物だい、人の高低もわからぬくせに、通霊だとか不通霊だとか、何いってやがる、などと罵り始める……。このくだりを読んでハッとした。玉を啣みながら、どうしてもそれを受け入れられない、富士正晴とはまさに宝玉その人だったのではないか? 富士がこの作品を好んだ理由もここにあるのではないか。富士の呑み込んだ玉の輝きが初期絵画から放射している、そう思われてならない。

富士正晴記念館

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by sumus2013 | 2016-04-01 16:31 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)