林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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カテゴリ:古書日録( 740 )

勇敢なる兵卒シュベイクの冒険

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『勇敢なる兵卒シュベイクの冒険』上巻(衆人社、一九三〇年)。函付きで1050円だった。安い。しかしながら、安いのには理由があった。奥付が切り取られていたのだ。よって発行日は今直ぐには分らない。この上巻に第一部から第三部まで収められているが、下巻は出なかった。


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作者のヤロスラス・ハシェク(1883-1923)はプラハ生まれ。新聞記者や編集者をやっていた。『ハシェクの生涯』(ヤノーホ、土肥美夫訳、みすず書房、一九七〇年)によれば、ハプスブルグ帝国三百年の支配から脱却するためにロシア帝国の援助を求めようというのがハシェクの立場だったようだ。ところが、第一次大戦が起こり、ロシア革命が起こり、チェコ軍は反革命軍としてロシアへ侵攻する。このときハシェクも従軍し、ロシアで捕虜になった。そこで一転、赤軍に賛同して一九一八年にはロシア共産党に入党した。一九二〇年末、プラハに戻ってシュベイクの執筆を始める。自分自身の戦争体験が色濃く反映していることは間違いないようだ。

《ハシェクの創作人物シュベイクは、世界文学のなかでユニークなイエス・マンである。彼は、自分の個人的な小世界を諸官庁の強力な大世界に従属させないで、大げさなきまり文句で装備された大きな社会機構及び生存機構を零落した犬商人の狭い生活像のなかに組み入れ、上部を下部へ転じ、そのようにして権力の無常と内的空虚さをあらわにする。》(『ハシェクの生涯』)

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シュベイクは犬商人。退役兵なのだが、召集がかかる。進んで従軍しようとするのだがリュウマチなのだ。しかし簡単には許してくれず、絶食や浣腸などの拷問を受ける。そして最終判断のときが来て軍医たちの前で面接を受ける。詐病兵などはどんどん前線へ送られるならわしだった。

《シユベイクは、無邪気な子供だけにしかない神様のやうな静けさを以て、委員連の顔をじつと眺めてゐた。
「やい畜生、貴様は一体何を考へてゐるんだ?」と、委員長が近づいて言つた。
「申し上げます、私は何も考へてゐないのであります」
「こん畜生!」と、委員の一人がサーベルをかちやつかせながら叫んだ「何も考へてゐないだと? やい、シヤムの象、何故貴様は何も考へないんだ?」
「申し上げます、軍隊では兵卒に禁じてゐるから、考へないのであります。私が九十一聯隊に居た頃大尉殿がいつも仰言つたでありますーー『兵卒は自分で考へるもんぢやない。上官の方で考へてやる。自分で考へると禄な……」
「黙れ!」と、委員長が怒つて吐鳴りつけた「貴様は本当の白痴(イヂオート)だと人が信じてくれるものと思つてるんだらう。だが貴様は白痴ぢやないぞ、シユベイク、貴様は何でも心得てゐる抜け目のない奴だ、禄でなしだぞ、道化者だ、破落戸(ごろつき)だ、解つたかーー」
「申し上げます、解つたであります」
「黙れと言つたぢやないか、聞こえなかつたのか?」
申し上げます、黙れと仰言つたのは、聞こえたであります」
「ちえツ、聞えたら黙つとるもんぢや。黙れと命じたら、静にしとるもんだといふ事はよく解つとるぢやらう」
「申し上げます、静にしとるもんだといふ事は解つとるであります」
 軍医連は黙つて互に顔を見合せた、そして特務曹長を呼びつけたーー
「そこに居る奴を」と、委員長はシユベイクを指しながら言つた「事務所へ連れて行つて待たせて置け。こいつは魚のやうにぴんぴんしてゐやがる。何処一つ悪い所もないのに、仮病を遣つて、その上勝手な熱を吹いとる。こら、シユベイク、貴様、衛戍監獄へぶちこんで、戦争といふものは冗談事ぢやないつてことを見せてやるから、さう思へ」》

というふうなトンチンカンな、しかし妙に筋の通ったドタバタが続くのである。シュベイクの思考方法(というかハシェクのギャグ作法)がなじんでくれば、それはそれでなかなか辛辣に苦笑いできる作品である。

挿絵のヨセフ・ラーダについてはこちら。

http://hrusice.pragmatic.cz/pamatnik.html

http://www.lcv.ne.jp/~morinoie/joseflada.html




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by sumus2013 | 2014-01-05 22:01 | 古書日録 | Comments(0)

懐中書画便覧

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石川兼治郎編集兼発行『懐中書画便覧』(精文館書店、一九一一年)。名前の通り、ポケットサイズの新旧画家名鑑である。明治四十四年、どういう画家が一流とみなされていたのか、ということが一目で分かる。折帖なのでパラパラパラっとめくるのがカンタン。前半は名誉大家、近代国画名家、閨秀国画家、近代洋画名家、閨秀洋画家、故人各種名家。

そして後半は名前の下に値段「予価」入り。

《予価は半切形の物を標準としたれば其他の物は之に比して価格の相違あり》《予価の当らざるものあるとも編者其責に任ぜず。》

半切は 545×424mm の大きさ。ざっと見たところ三百円というのが最高レベルのようだ。巨勢金岡、巨勢公忠、春日隆能、春日隆親、土佐行秀、啓書記(祥啓)、狩野元信、円山応挙、田能村竹田、渡辺華山、岩佐又兵衛…以上が三百円〜三百二十円(巨勢公忠)。つづいて雪舟、光琳あたりが二百円。与謝蕪村は百五十円である。明治の画家では橋本雅邦の二百円が目を引く。横山大観の名前はあるが、予価は記されていない。下村観山が五十円、菱田春草が三十円というところ。

洋画家には値段が付いていない。まだ市場は形成されていなかったのだろうか。

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注目は閨秀(女流)洋画家。渡辺文子(後の亀高文子)の名前があった。ここは素直に懐中書画便覧に出るくらい文子は有名だったと思っておきたい。

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亀高文子

さらに亀高文子

文子と並んでいる吉田藤尾と神崎友子については検索してもそれらしいヒットはない。と思っていたら、吉田ふじをについてはさらに亀高文子」に女性画家だけの団体「朱葉会」の創立に参加した仲間だということを文子が書き残しているとあった(汗顔)。

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名家印譜もあるが、まあこれは見返しの模様ていどのしろものである。


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by sumus2013 | 2014-01-03 20:48 | 古書日録 | Comments(0)

槐多の歌へる

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書斎を整理していたら『槐多の歌へる』(アルス、一九二七年二月一七日)が出て来た。年末に恩地孝四郎の装幀がいまひとつだと書いたところである。しかしこれは成功している。文字の扱いもうまくいっている。ということで、今年の一冊目は『槐多の歌へる』。以前も一度取り上げている。

槐多の歌へる
http://sumus.exblog.jp/14794007/



「走る汽車」より

 薄青き一月の晴れたる空に
 たそがれの冷めたくきたる
 岩石の如き常磐樹の群は
 静に黙すか

 ただひとり
 薄紫の道路をかへれば
 わが足はこごえ
 わが心はさびし

 ふとかかる時たくましき君が肉の
 熱さはわが心に再生す
 わが心に思ひ出らる

 黄なるココアの腕のけぶるが如く
 わが心に君の思ひ出は
 美しく立ちのぼるなり。


腕は碗の誤植か。

書斎を整理したのはアームチェアを置きたいという希望があったため。スペースを空けたのである。

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この床面を出すためにどれほど苦労したことか。この書棚を導入したとき以来かもしれない。

http://sumus.exblog.jp/14464968/

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トルコのキリムとザイールの草ビロードを敷いてみる。そして、

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妻の見立てたIDÉEのミニミラーアームチェア(グリーン)をドーンと(というほどの大きさではないですが)。さて、この空間をいつまで空のままで維持できるか、正月早々のやせ我慢に挑戦したいと思っている。





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by sumus2013 | 2014-01-01 14:27 | 古書日録 | Comments(4)

風街ろまん、その他

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大瀧詠一急死に驚く。いつだったか、大瀧がラジオで日本における流行歌の歴史を古い音源を紹介しながら分析してみせたことがあった。これは見事だった。歌手としては、はっぴいえんど二枚目のアルバム「風街ろまん」(URC、一九七一年)に入っている「颱風」が好きだ。いつ聞き直してもしびれる。


***

屋根の上の魚 リチャード・ミドルトン作品集』(南條竹則訳、書肆盛林堂、二〇一三年一二月二五日)読了。盛林堂さんのミステリアス文庫出版は今年の驚くべき収穫のひとつだろう(来年も継続するものと期待しています)。

ミドルトン(Richard Barham Middleton)は一八八二年イギリスのステインズに生まれ、一九一一年にベルギーのブリュッセルで服毒自殺した作家。短い作家生活だったため生前の著書はないが、歿後に五巻の作品集が出た。そのなかの短篇集『幽霊船 The Ghost Ship:And Other Stories』(一九一二)がもっとも良く知られている。

本書は同人誌『放浪児』(南條竹則編集、幻想文学出版局制作)一〜五号(一九八七〜九四年)に掲載されたミドルトン作品(『幽霊船』所収の諸作)南條氏による作品集解題、およびミドルトンに関するエッセイ「偶像の足元」、東雅夫「序」そして小野純一「あとがきにかえて」から成っている。

一読、才気を感じさせる短篇作品が並び、もっと長生きしていたらどうなったろうかと期待させられるものがある。個人的にはやはり「ある本の物語 The Story of a Book」が面白かった。ある一人の本好きが読書に熱中して毒舌の批評をふりまいていた。しかし年齢とともにそれもつまらなくなって、あるとき、そんな気もなかったのについ自ら小説の筆を執ってしまう。

お気に入りの大手出版社にその原稿を送ったところ、会いたいという返事がきて出版社へ出かけて行く。

《かくて本屋の事務所に着いたわれらが作家は、いつになく感じやすくなっていたため、社員のぞんざいな態度には愕然としてしまった。連中は作家をまるで乞食かおもらいのようにあしらい、本を薪の束のように取り扱うことによって、その文学観を表明していた。》

ところが予想に反してあっけにとられるくらい簡単に契約が済んだ。その後、社員がある一室に彼を案内した。

《梱(こり)に入れた本や山積みにした本が端から端まで部屋を占領していた。「この本を御覧なさい!」と信頼厚き社員は、手塩にかけて育てた雉子を見せびらかす猟場番人さながらの微笑を浮かべて、言った。「ずいぶんいっぱいありますね」作家がおずおずと口を開くと、「もちろん、在庫品をここに置いているのじゃありません」と社員は説明した。「これは見本にすぎません」駆け出しの作家には時々思い出させてやらないといけないが、彼らの処女作の出版など、大出版社の悠久の歴史の中では片々たる些事にすぎないのである。その時われらが作家の心の眼に映ったのは、自分の小説が巨大な本のピラミッドのちっぽけな積み石となっている、悲しい光景だった。》

この処女作は五千部刷られ四千部売れたということになっている。それはたいへん良い売れ行きだったそうだ(それでも残部のうち五百を著者が買い取った)。この数字はいろいろと参考になりそう。さて、晴天の霹靂のような成功の後、この作家がどうなるか、は読んでのお楽しみ、ということで。

***

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金沢文圃閣の古書目録『年ふりた……』十七号が届く。ざっと目を通していたら、稲垣足穂の文字が。さて、これは佚文なのだろうか、念のため、紹介しておく。

***

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『すだより』平成二十五年遅呟号(発行・尾崎澄子)が届く。平成十二年の年末から十三年の正月にかけての日誌のような文章を楽しむ(一年遅れですが、同じようなものでしょう)。包装紙レッテルの一覧図には唸りました。

***

ご愛読ありがとうございました。来年もどうぞよろしくおつきあいください。





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by sumus2013 | 2013-12-31 21:18 | 古書日録 | Comments(2)

ロードス通信36号

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『ロードス通信』第36号(ロードス書房、二〇一四年一月)が届いた。サンパルのビルから移転して初めての目録。JR神戸駅近くの新住所は店舗ではないそうだ。いつも抜群に面白い巻末の「ご挨拶」、今回も忌憚がない。

《退店の第二理由(店主の病状)は、以前良くなく、下降線を辿っている。哀しいなぁと夕空を見上げたら雀が過ぎり、眼鏡のレンズが光ったような気がした。が、どうもこの気分は居心地悪く、浸れないと思い巡らすと、尼崎の「街の草」を自分で演じているのを発見した。時には「街の草」のように一人で海を眺めてみたいのか。今の気分は「生きながら針に貫かれし蝶のごと悶えつつなほ飛ばむとぞする」(原阿佐緒)マイナスナルシシズムといったところ。低音部を奏でる不安は、如何ともしがたいが、それなりに人生を楽しんでいる。》

掲載品は三鬼を含む俳句短冊や色紙、俳句書など、専門外と断りながら、かなりのハイレベルだ。他にもあれこれ目に毒の品物が目についた。困った。

ロードス通信のとなりは、小宮山書店の目録第十六号(二〇一二年一〇月)で、これは書店からではなく某氏より頂戴したもの。写真とファッション・ブックの特集号。鬼海弘雄の例の人物シリーズ、オリジナルプリントが四点、これがなかなかよろしい。開いているページは荒木経惟のサイン入りポラロイド各種(ゲージュツです)。


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by sumus2013 | 2013-12-30 17:51 | 古書日録 | Comments(0)

盗跖與孔子問答事

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宇治拾遺物語』(林和泉掾、萬治二年1659、早稲田大学蔵)最終話「盗跖與孔子問答事」の冒頭部分。右ページの上部余白に墨点がふってあるが、ここから最終話がスタートしている(画像は早稲田大学古典籍データベースより)。話の内容は以下のようなもの。引用は中島悦次校注角川文庫版(平成七年三十一版、底本は宮内省図書寮蔵の写本、萬治二年版本と同系統とのこと)による。

舞台は春秋時代の中国。柳下恵という大人物がいた。その弟・盗跖(たうせき)がどうしようもないワルもワル、ワルの大将だった。

《一つの山ふところに住みて、もろもろのあしき物をまねき集て、おのが伴侶として、人の物をば我物とす。ありく時は、このあしき物どもをぐすること二三千人也。道にあふ人をほろぼし、恥をみせ、よからぬ事のかぎりを好みて過す》

柳下恵があるとき路上で孔子に出会った(現代語拙訳はまったくのデタラメと言ってもいい言い換えですので、良い子は原文を参照してくださいね)。

柳「どこへ行くのかね、孔子君?」
孔「あなたの弟が悪いことばっかりしてるの知ってますか、どうして放っておくのです」
柳「心苦しく思うけどね、わしの言うことなんぞ聞く耳もたんやつでな」
孔「いまから出かけて、悪事をやめるように説得しようと思います」
柳「そりゃ、やめときなさい。君の言うことなんか聞くわけないよ。かえって怒らしたらえらいことになるぞ」
孔「正しい道を教え諭してみせますので、見ていてください」

という正義感にあふれた孔子は柳の止めるのも聞かず盗跖に面会を求めた。

盗「なんじゃ、孔子がやってきただと。人を教えるやつだと聞いたが、ごたごたぬかしたらケツの穴から手突っ込ん奥歯ガタガタいわせたる!」

《頭のかみは上ざまにして、みだれたる事蓬のごとし。大目にして見くるべかす。鼻をふきいからし、牙をかみ、ひげをそらしてゐたり》というものすごい形相の盗跖だ。目の前にしてみると、さすがの孔子もタジタジとなって内心びびっていたが、言うことだけは言ってみた。

孔「この社会では法律にのっとってふるまわないといけませんよ。偉い人を敬い、人々に情けをもって接するべきです。ところがどうです、あなたの所業は。やりたい放題やって、今はいいかもしれませんが、ろくな終わり方はしませんよ。悔い改めなさい」

盗「なんじゃこら。偉い人ってな、堯や舜なんざ名君だといってチヤホヤされてたがその子孫を見ろ、わずかな土地も持っておらんかった。それに、第一、お前の弟子ら、まじめにやっていた顔回は早死にしたし子路は殺された。賢いやつほど賢くないんだよ。俺がこれだけ悪事を働いているのになんの災いもふってはこんしな、悪く言われるのも四五日だけさ。だいたいお前だって魯の国をクーデター失敗で二度も追い出されているじゃないか、大きな口がきけるか」

《あしき事もよきことも、ながくほめられ、ながくそしられず。しかれば我このみにしたがひ、ふるまふべきなり。汝又木を折て冠にし、皮をもちて衣とし、世をおそり大やけにおぢたてまつるも、二たび魯にうつされ、あとをゑいにけづらる。などかしこからぬ。汝がいふ所誠におろかなり。すみやかに走り帰りね。一つも用ふべからず》

孔子もこの言葉を聞いて反論もなく、座を立って尻尾を巻いて立ち去った。馬に乗るとき、あんまり慌てたので、くつわを二度取り外し、あぶみを何度も踏み外した。これを世の人は「孔子たふれす」(孔子も失敗する)と言ったとさ。

この話は孔子を笑いのネタにするさかしま、江戸時代なら儒者と僧侶の喧嘩で僧侶が喜んで援用しそうな内容である。たしかに孔子は失敗者であり敗北者であろう。論語を無心で読めばそういう結論になる。この話が巻末にあるということに何か意味があるのかもしれない。

それにしても誰が止めても聞かない盗跖のこのやりたい放題、そしてその言い分、つい最近どこやらで聞いたような気がするなあ……。









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by sumus2013 | 2013-12-29 20:58 | 古書日録 | Comments(0)

GRAMMAR AND COMPOSITION Vo.1

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『GRAMMAR AND COMPOSITION High School English Vo.1』(開隆堂出版、一九五〇年一二月五日再版)。表紙のデザインにひきつけられた。英語の教科書や参考書はボチボチ集めるともなく集めているので、主な過去の記事をリンクしておく(もっとあったと思います)。

『ナシヨナル第二 NEW NATIONAL SECOND READER.』

『SHORTER MIDDLE-SCHOOL LESSONS No.2』

『ガールズ・スタンダード・リーダー』

『小学英語読本 No.2』


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英語教科書を研究しているわけではない。だから内容はどうでもいいのだが、挿絵はどうでもよくない。これなどなかなかのできばえだ。教科書では挿絵を描いた画家の名前が明記されていない場合がほとんど。少々さびしい。

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こちらは同じシリーズの第二巻(Vol.2)の見返し。KIDS OF SENTENCES(センテンスの子どもたち)というタイトル。要するに家族構成で英語の構文を図示している。分かりやすいような、そうでもないような…。

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落書きにもってこいです。





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by sumus2013 | 2013-12-28 21:03 | 古書日録 | Comments(0)

夜の歌

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フランシス・ジャム『夜の歌』(三好達治訳、野田書房、一九三六年一一月二五日)。昨日の恵文社で歩希書房さんの出品より。函があるはずなのだが、欠けているため格安だった。

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組み方がなんとも鷹揚である。余白をたっぷり取っている。野田書房の本は他には『テスト氏』(小林秀雄訳、一九三四年)、瀧井孝作『折柴随筆』の普及版(一九三六年)くらいしか持っていないが、たしかに本好きが作った本という感じのできばえである。『夜の歌』にはこんなに大きな検印紙が貼ってある。

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いま、資料をすぐに取り出せないので、うろ覚えで申し訳ないが、作品社の小野松二のことを調べているとき、三好訳『夜の歌』は作品社から出すことになっていたのに、三好は何の断りもなく野田書房へ持ち込んだ、といったような文章をどこかで読んだ。三好達治は親しい友人(親友と言ってもいい)だった淀野隆三に対しても恩知らずな振る舞いに及んだことがあった。三好ならやりそうなことである。

小野松二は堅実な経営方針だったので条件が気に入らなかったのかもしれない。あるいは作品社からの刊行がはかどらず、野田がもぎ取ったのかもしれないが、作品社の本もだいたい似たようなあっさりした装飾で悪くないにしても、この野田本ほどには凝っていないから、本好きにとっては幸いだったと言えないこともない。

作品社の図書目録
http://sumus.exblog.jp/16076403/



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こちらがエディション・オリジナルの『Les nuits qui me chantent』(Flammarion, 1928)。ジャムはたくさん詩集を出しているので古書価もそれほどではない。詩の内容も個人的にはさほどとは思わないが、昭和十三年に岩波文庫に入り、戦後は人文書院版も出ていて、日本ではよく読まれていると言えるだろう。なおタイトル「夜の歌」について三好は巻末にこう記している。

《書名は「夜が私に歌つて聞かせた……」とでも訳するべきであらう。今仮りに「夜の歌」としておくのは便宜に従つたものである。》

「夜が私に歌つて聞かせた」……正確さということからすればこちらも「?」。やはり「夜の歌」がはるかに心に残るタイトルであろう。詩人の感覚的な正確さというものか。








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by sumus2013 | 2013-12-27 20:53 | 古書日録 | Comments(0)

明治の下谷区

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明治時代の「下谷区」の地図を手に入れた。現在の台東区から文京区にあたる。ただし、周縁部が切り取られているため、発行年等は不明である。不明ではあるが、地図上に書き込まれた施設の沿革を調べてみると、おおよそ何年頃の地図なのかは推測可能だ。

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注目は「教育博物館」(現在は東京芸大の敷地)。明治十年にこの名称となり明治二十二年に閉館している。ということは、二十二年以前の地図だということは確かだろう。多少のズレ(発行時には閉館した後だったとか)はあるとしても、そう大きな違いはないはず。

砲兵工(現在の東京ドーム、旧水戸藩邸)の名称は明治十二年に使われ始め、陸軍病馬厩分厩(現在の御茶ノ水女子大、跡見学園あたり)は明治十三年から二十三年まで存在(以後は大塚陸軍弾薬庫)。博物館(コンドル設計の建物)および動物園は明治十五年に開かれた。中山道鉄道(京浜東北線)は明治十七年に上野・高崎間開通。帝国大学は「帝国大学」という名称では明治十九年に創設された。ということは、それ以上古くないということである。明治19〜22の間。

この地図ではまだ中央線の前身である甲武鉄道が見えない。新宿・牛込間が明治二十七年、飯田橋まで延びたのが翌年だから、当然だと言える。常磐線が土浦鉄道と隅田川鉄道に別れているのも興味深いが、この点については検索してもはっきり分らなかった。

それにしても上野の北から西にかけては土地が空いていたせいでもあろうが(樹木や畑地の多いこと!)、明治前半には新しい建物がどんどんできていたことが分って面白い。明治の小説など読む時にはこの地図を頭に入れておかないといけないのかもしれない。






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by sumus2013 | 2013-12-23 22:09 | 古書日録 | Comments(2)

2013年極狭私的見聞録

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先日コメントいただいたように「2013年極狭私的見聞録」を考える時期となったので、ブログを見直してみた。古本と映画だけだがリストアップしておこう。

◎岡鹿之助の手紙(和泉克雄宛)

◎『三惜書屋初稿』(藤澤黄坡先生華甲祝賀会、一九三六年四月三日)

◎ローラン・トポールの『アントロジィ』(J=J・ポヴェール、一九六一年)

◎天野大虹(隆一)の自筆短冊

◎アルフレッド・ジャリ『ユビュ王 Ubu roi』(Fasquelle, 1921)

◎VOU ANNUAIRE 1954

◎第1回デモクラート美術展目録

◎銅脈先生『太平樂府』(書肆長才房/只見屋調助、大井屋左平次)

◎『ビート詩集』(国文社、一九七〇年七月一五日二版)上の写真

今年は和本や漢詩集をけっこう(といってもたかが知れていますが)買った。自筆ものにも積極的に手を伸ばした。岡鹿之助の手紙はわれながらよく買えたと思うほどいいもので、しかも値段はしごく安価だった、ラッキー。天野大虹の短冊も嬉しかった。このなかで一番高額なのは『VOU ANNUAIRE 1954』(それでも千円単位、ユニクロのツィードジャケットより安いよん)。

読んで面白かったものもほとんどすべてブログに書いているが、ブルース・チャトウィン『ウッツ男爵』、青柳正規『トリマルキオの饗宴』、柳宗悦『蒐集物語』、川崎彰彦『夜がらすの記』、富士川英郎『鴟鵂庵閑話』などが思い浮かぶ。新刊では頂戴したものばかりでどれがどうと陳列するのははばかられるものの、内堀弘『古本の時間』、時里二郎『石目』など今年はいい本が多かった。改めて御礼申し上げます。

映画は100本以上見た(DVDと録画のみ)。映画ノートに「✭✭✭」を付けたのは以下の11作品。

◉トイレット 荻上直子 2010
◉ハロルドとモード ハル・アシュビー 1971
◉96時間 ピエール・モレル 2009
◉舞台よりすてきな生活 マイケル・カレスニコ 2000
◉ル・アーヴルの靴みがき アキ・カウリスマキ 2011
◉最強のふたり トレダノ、ナカシュ 2011
◉幻影師アイゼンハイム ニール・バーガー 2006
◉ラルジャン ロベール・ブレッソン 1986
◉ザ・タウン ベン・アフレック 2010
◉あなたになら言える秘密のこと イザベル・コイシェ 2005
◉バンテージ・ポイント ピート・トラヴィス 2008

96時間」は非常に面白いが「96時間リベンジ」は作らない方がよかった。「バンテージ・ポイント」はややこしい画面展開ながらそれに慣れてきたらあとは結末まで息をつかせない(「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ、2010、と同じ手法だ)。「ハロルドとモード」はカルト的人気らしい。たしかにオススメです。「ラルジャン」はかなり久し振りに見たけれど、やっぱりゾクッとする。「幻影師アイゼンハイム」が拾いもの。

2012年極狭私的見聞録


yfさんの「2013年極狭私的見聞録」も届いたので掲げておく。

* 『吉田秀和追悼ー音楽を心の友と』ontomo mook音楽之友社
* ワルター・バリリ『ウィーンフィルとともに』岡本和子訳、音楽之友社
* 『落語は聴かなくても人生は生きられる』松本尚久編、ちくま文庫
* 江理健輔『長寿社会を生き抜くために』みずのわ出版
* 中井久夫『昭和を送る』みすず書房
* 河野隆『名印百話』芸術新聞社 
* ヘルマンヘッセ『シッダールタへの旅』新潮新書
  高橋健二訳・竹田武史、構成写真
* 富岡多恵子・安藤礼二『折口信夫の青春』ぷねうま舎
* 石井宏『ベートーヴェンとベートホーフェン』七つ森書館
* 長谷川晶一『夏を赦す』廣済堂出版

            * * *

* 2012、12『詩情の風景 大正・昭和の木版画家 川瀬巴水展』京阪百貨店
* 6月『柄沢齊展・銅版画連作「夏の鏡」』ギャルリプチボワ
* 9月『望月通陽展』 阪急百貨店
* 11月『小沢信男 富士正晴の戦争小説を読み返す』講演会
     於、大阪茨木市、富士正晴記念館。
* 11月 『戸田勝久展』ギャルリ プチボワ
* 11月『二見彰一展』県立静岡美術館 23日二見彰一自作を語る。
* 11月 裂絵による『蒼穹譚』絵・柄澤齊/裂・志村洋子
     京都、GALLERY FUKUMI SHIMURA

            * * *

* 4月 さだまさしコンサート フェスティバルホール
* 9 月 映画『風立ちぬ』宮崎駿監督 スタジオ・ジブリ作品
* 10月 NHKHDD録画『東北楽天・被災地に誓った優勝』 
* 11月 NHK HDD録画
  『アスリートの魂、日本一への3419球、楽天 田中将大 』

* * *

* CD『バッハケージ』フランチェスコ・トリスターノ(ピアノ)
  ドイツグラモフォンUCCG-1537
* バーバラ・ボニー『オペレッタを歌う』(DECCA-UCCD-1090)
* 外山みずえ(S)つのだたかし(Lute)『柳の歌』(Paldon TM-6429)
* ファン・エイク『笛の楽園』花岡和生(Recorder)(DCI-17391)
* 『ベートーヴェン 弦楽四重奏曲OP131・135
  バリリ四重奏団(ウエンスミンスター・MVCW-19061モノラル)
* シューベルト『冬の旅』ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Bs)
  マウリツィオ・ポリーニ(P)(ORFEO-C884131B)
   1978年8月ザルツブルグ音楽祭ライブ録音
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by sumus2013 | 2013-12-17 20:56 | 古書日録 | Comments(0)