林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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カテゴリ:古書日録( 776 )

充たされざる者

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ちょっと外出したついでに立ち寄った古本屋にて。右の分厚い本はカズオ・イシグロ『The Unconsoled 充たされざる者』(faber and faber)。話題の人だからつい買ってしまった。ペーパーバック初版は一九九六年だが、それは表紙のデザインが違っている。昔、その別表紙本を買っていたことをフト思い出した(前の引越のときに処分)。

カズオ・イシグロ『The Unconsoled』(faber and faber, 1996)

バスで帰宅したので車中で少し読み始めてみた。あるホテルにやってきた客。受付に誰もいない。暫く待ってやっとチェックイン。ボーイが部屋までエレベーターで案内してくれるが、重い荷物を二つ、床に置かないでずっと手に持っている。置いたらいいのに、どうして?と客は尋ねる。すると年老いたボーイは自分のルーツェルン(スイスの町)での経験を語り始める……その会話がいつ果てるともなく続いて行く(とここまでしか読めなかった)。こりゃ、分厚くなって当り前。ただし英語はきわめて読みやすい。いずれ続きを読んでみたい。下記のブログに紹介がある。


左側のもう一冊は Lesley Reader『Book Lovers' London 愛書家のロンドン』(Metro Publications, 2006)。ロンドンの本好き拠点案内。ロンドンへ行く予定はないけれど、写真を見ているだけでも楽しいね。

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写真は新刊書店「Shipley」70 Charing Cross Road


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「古本屋および古書籍商」の章扉
写真は「Any Amounts of Books」56 Charing Cross Road


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Cecil Court の古本屋街



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by sumus2013 | 2017-10-14 20:40 | 古書日録 | Comments(0)

朝陽閣鑑賞錦繍帖

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『朝陽閣鑑賞錦繍帖 巻下』(藝苑叢書、風俗絵巻図画刊行会、一九二〇年)。下巻のみ均一台にて。

フロイス堂 朝陽閣鑑賞錦繍帖 全2冊

明治16年に大蔵省印刷局(朝陽閣)より刊行された名物裂の図録『朝陽閣鑑賞 錦繍之部』を、中本2冊にして復刊したもの。裂の図版29点は全て多色木版摺で再現されています。

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パッと見た目には、実物の裂(きれ)を貼付けてあるのか、と思うくらいよくできた図版である。この時代にもまだまだ木版画の技術は残っていたようだ。


図書館は文庫本を貸し出さないでほしいと文藝春秋の社長自らが全国図書館大会で訴えたという。気持は分る。小生も本を出している身としては、拙著が図書館で何人待ちだと聞いても、ぜんぜん嬉しくない。ただ、貸出し禁止になったからと言って文春文庫の売り上げが回復するか、どうか、それは分らない、というかほとんど関係ないような気もする。結局、人気が集中するのは売れている本であって、売れていない本は貸出し率も低いのではないか? 創業者である菊池寛(讃岐出身です)の意見が聞けたらさぞ面白いだろうが。

菊池寛『文芸当座帳』(改造社、一九二六年)

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by sumus2013 | 2017-10-13 20:14 | 古書日録 | Comments(0)

博士の本棚

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小川洋子の書評を中心としたエッセイ集『博士の本棚』(新潮社、二〇〇七年七月二五日)。上手なエッセイを書く小説家だ。いろいろ参考になる意見がちりばめられている。例えば、村上春樹と柴田元幸の対談『翻訳夜話』(文藝春秋、二〇〇〇年)を評したくだりで次のように書いている。

カーヴァーの『COLLECTORS』とオースターの『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を、お二人がそれぞれに訳した章は、大きな手掛かりを与えてくれる。同じ小説の二種類の訳を読むと、いかに翻訳者が注意深く自己の息をひそませ、作者の声に耳を澄ませているかが伝わってくる。当然、言葉の選択やつながり、文章の切り返しは違っているのに、決して揺らぐことのない、あらゆる差異にも損なわれることのない共通の響き、つまりはうねりが存在しているのである。》(「翻訳者は妖精だ」初出『波』二〇〇〇年一二月号)

翻訳は可能か? という永年の疑問に対するひとつの答えになり得るかもしれない。また、それは小川自身のフランス語の翻訳者に対して感じた印象につながる。村上春樹の発言から「親密で個人的なトンネル」を引きながらこう書く。

フランス人翻訳者との間に通じた温かみは、たぶんこのトンネルを伝ってきたに違いない。トンネルを堀り、物語を探索した向こう側に、書き手である私がいる。私たちは誰にも邪魔できない、二人だけの秘密の通路を共有し合うことになる。

小川の翻訳に当っているのはローズ・マリー・マキノという女性である。二〇〇〇年の六月、小川はパリの版元アクト・シュッドを訪れたとき彼女との間に《同じ作品を共有する書き手同士である》ことを感じた。これが良き翻訳のカギなのである。

ACTES SUD は先日触れた吉村昭の『La jeune fille suppliciée sur une étagère(少女架刑)』(ACTES SUD, 2002)の版元でもあり、フランスの文学系出版社のなかでは目立った存在。小川はパリのサンジェルマン・デプレ教会の近くにある編集室を訪れてこういう感想を持った。

静かな建物だった。緑の美しい中庭に面した部屋は、どこも本や印刷物が無造作に積み上げられ、壁には雑誌の切り抜きがペタペタと貼られていた。ものを作り出そうとする活気と、文学に対する思索的な雰囲気の、両方にあふれた空間だった。
 仏訳が出版されるたび本を送ってもらい、書評が出ればどんな小さな記事でもコピーを送ってもらい、ACTES SUD とはもう馴染みになっているつもりでいた。ただ日本にいる間は、自分の作品が遠いフランスで本になっているという実感を、どうしても持てなかった。ところが、編集室に一歩足を踏み入れた途端、リアルな安堵感を覚えた。テーブルの端に置き忘れたコーヒーの紙コップや、電気スタンドの笠にクリップで留めた黄色いメモ用紙や、そんな何気ない一つ一つが、私の小説のために人々が真摯に働いてくれている、証拠のように思えた。》(「パリの五日間」初出は『群像』二〇〇〇年九月号)

これも共感ということなのであろう。ただ、デプレ教会の近くにアクト・シュッドなんかあったっけ? と思って、今、調べてみると、パリ編集部(本拠地は南仏のアルル)は同じ六区ながらセギュイエ通り(18, rue Séguier)へ移転しているようだ。

「続・喫茶店の時代」に入れたい回想もある。早稲田大学第一文学部文芸専修に入ったころ。

大学に進んですぐ、文芸関係のサークルに入り、週に一度読書会を開くようになった。その第一回目のテキストが『死者の奢り』だった。高田馬場のルノアールで、七、八人がそれぞれに新潮文庫を持ち、小さな声でも聞き取れるようできるだけ身体を近づけ合って、三時間近く議論した。

新入生としての緊張と、ルノアールの柔らかすぎる椅子のせいで疲れきり、わたしは早く終わらないかとそればかり考えていた。ようやくお開きになる雰囲気が見え始めた時、先輩の女子学生がつぶやいた。
「わたしはもっと、徒労感にこだわりたいのよね。」
 そこからまた延々と読書会は続いていった。おしまいには、文庫本は表紙が汗で反り返っていた。

う〜む、ルノアールも迷惑だったろうなあ……。





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by sumus2013 | 2017-10-10 20:49 | 古書日録 | Comments(0)

ありがとう、立誠小学校

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7、8、9日と元・立誠小学校で「ありがとう、立誠小学校 RISSEI PROM PARTY」が開催されている。これが見納めになるかもしれないと、出かけてみた。中古レコード店の出品が中心だが、古本、新刊書もかなり並んでいて楽しめた。

それにしてもこの建物、うまく使えば、いい感じになると思うのだが……これからどうなるのか、心配だ。

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三階に和室。京都の小学校はどこもみな和室がある。



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by sumus2013 | 2017-10-08 19:26 | 古書日録 | Comments(2)

小説新潮

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『小説新潮』四冊(新潮社、昭和二十七年四月、六月、九月、十月号)を頂戴した。深謝です。いずれにも花森安治の執筆がある。連載「暮しの眼鏡」。

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四月号


「暮らしの眼鏡」は要するに花森流「非常識のすすめ」である。常識にとらわれないものの見方を次々と披露してくれる。

四月号ではまずプレゼントがやり玉に上がっている。プレゼントには役に立つものを贈ること。とくに結婚プレゼントには、生活必需品を友人知人たちが手分けして贈れ。これなどは一時期そういう流行があったように思うが、案外この花森の提案あたりがきっかけだったか。またこうも言う。

 《世帯道具一式の目録に、とかく忘れがちなのは、大工道具。これは、祝ってくれるにせよ、くれぬにせよ。新婚のスタートにはゼヒ調達せねばならぬもの。大工道具というふものは、新婚のときででもなければ、ふしぎに、これがなかなか買へぬもので、そのくせ、思つたより案外これが必要なもの

新婚ではなく倦怠期の家庭には、ナベカマを一通り新しくすることを勧めている。女性が男性にネクタイを贈るときには自分がしめるつもりで選ぶこと。どのガスストーブの栓も右側に付いている不便について(マッチでガスを点火する時代です。右手でマッチを摺るから左手でガス器具の栓をひねる、よって栓は左側にあるべき、という理屈)。椅子の生活に変りつつあるのにちょうどいい椅子が売られていないことについて。

ゆめにも五十年もつ椅子など作らうと思はず、フランスにまけぬデザインを作らうと思はず、分相応、いまの暮しに間に合はせやうといふ、その気持を買ひたいのである。

現実主義だなあ。他には、蛍光灯は料理がまずく見えること、料理屋のおやじが食べ方についてあれこれ客に指図すること、模様のない白い西洋皿が売られていないこと、などに腹を立てている。もっともナリ。

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花森以外では茂田井武の挿絵が嬉しかった。尾崎士郎「風わたる九十九谷」。

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六月号

また、日本各地の美女を写真で紹介する巻頭グラビア「故郷の美」の撮影者を見てビックリ。毎号どこかの県を訪ねて五点ほどの写真を掲載しているが、その撮影がすべて小石清なのだ! やはりひと味違うなあ……。

小石清は大阪生まれの前衛写真家である。
http://sumus.exblog.jp/19040455/

上の六月号は「香川県の巻」の一枚。ここで面白いと思ったのは、巻頭写真に対応する「お国自慢讃岐風土記」という記事。執筆したのは岩田幸雄、その肩書きは「高松市経済部観光課長」。小豆島のオリーブ、丸金(マルキン)醤油と挙げて

高松に船をかへせば、七色のネオンまたゝく丸亀町、南新町、常盤街、片原町等殷賑を極め、特産の漆器、日傘、和紙、郷土玩具、銘菓等が手をひろげてまつてゐる。

讃岐の産物を知り尽くした観光課長による紹介文なのに「うどん」の「う」の字もない。世の中変わるものである。オリーブは今も売り出し中なり。



カズオ・イシグロ、ノーベル賞を受けて、過去の記事にアクセスが集中しているようだ。

日の名残り The Remains of the Day

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by sumus2013 | 2017-10-07 21:07 | 古書日録 | Comments(0)

青い照明

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井上靖『青い照明』(山田書店、一九五四年一〇月二五日、装幀=有井泰)。雨の日、善行堂へ立ち寄ったら、ポンと置いてあった。これはいい感じと思って確かめると装幀は有井泰。お久しぶり。

装幀 有井泰

有井泰ふたたび

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善行堂主人と雑談していると、今度の日曜日(8日16:00〜)に守口駅前で岡崎氏と漫才をやるそうだ(!)。お近くの方はぜひ。

MORIGUCHI BOOK BOND
岡崎武志×山本善行 古本トークショー「ここがわたしたちの守口(再)」

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by sumus2013 | 2017-10-06 20:45 | 古書日録 | Comments(0)

レッテルあれこれ

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某氏よりレッテル便りが届く。まず高野書店。《すでに無い高野書店、ご主人は今は豊島区長、番頭格だった方は、長野の山崎書店主に。


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田村書店の店内では、たぶん10冊も買ってはいない筈。40年以上も、そんな調子のまま。


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紀田順一郎の一連の古本屋探偵シリーズでは、主人公の店があきらかに(笑)小宮山書店ビルのたしか4階にあることになっていました。店内はけっこう前に大きく棚の配置換えをしました

紀田氏といえば、最近その膨大な蔵書を処分されたことで話題になっている。

紀田順一郎『蔵書一代』 日本の古本屋メールマガジン

以下は小生のコレクションより。すでに紹介したものもあるかもしれないが、お楽しみください。

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by sumus2013 | 2017-10-04 19:54 | 古書日録 | Comments(0)

京都まちなか古本市

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初日には所用があってのぞくことができなかった。二日目ともなるとゆったりと見られて、それはそれでいいものだ。古書ダンデライオン(はんのきの中村氏です)とマチマチ書店(山崎書店にいた中島君が独立しました)が組合(京都府古書籍商業協同組合)加入後の初即売会ということで「どれどれ」と棚を見せてもらった。それぞれの持味を出していい感じだ。マチマチ君は山崎さんの丁稚だっただけに美術書がよかったが、それ以外の本にも欲しいものがあった。ダンデライオンでは今ちょっと調べものをしているためそれに必要な資料を発見、出かけた甲斐があった。個人的な好みでは文月書林がいい。全部買い取りたいくらい。その後、ヨゾラ舎をのぞいて馬鹿話をして帰宅。わが青春のミッシェル・ポルナレフ「シェリーに口づけ」(CBS/ソニーレコード, 1971)など。

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by sumus2013 | 2017-09-30 19:49 | 古書日録 | Comments(0)

妙好人伝二篇

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『妙好人傅 二篇巻上』。妙好人(みょうこうにん)とは浄土真宗の在俗の篤信者のこと。『妙好人傅』は全六篇十二冊が刊行され百五十七名の妙好人が紹介されているそうだ。石見国浄泉寺の仰誓が初篇を、西本願寺の僧純が二から五篇を、松前の象王が第六篇を編纂した。本書は刊記を欠いているので版元等も分らないが、見返しに観月と署名された七言絶句が掲げられ、天保十三年(1842)壬寅四月の南渓(豊後満福寺の住職)による序文がある。

第二篇上下二巻は僧純の編纂で、巻頭に天保十三年の南渓の序があり、巻末に同十四年の僧朗の跋を付している。したがって本篇は天保十四年の板行と考えられる。

 氷見の妙好人「おのよ」の伝記とその往生観

本書には跋は見えないが、巻下にあるのかもしれない。

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参考までに『妙好人傅二篇巻上』の一「筑前月女」の内容を簡単に紹介しておく。

筑前国博多津柳町薩摩屋に明月という遊女がいた。いつしか世のはかなさを悟って萬行寺の住僧正海法梁に女人往生について尋ねた。正海がねんごろに弥陀の本願のいわれを語ったところ明月はたちどころに信者となった。毎朝欠かさず萬行寺に詣でる熱心さであった。天正六年(1578)の春、明月は病に伏し、回復の見込みがないと知り、死骸は萬行寺に納めてほしいと言い残してむなしくなった。

萬行寺に葬るに数月をへずして其墓より一茎[ゐちきやう]の蓮[はちす]生じ日を経るにしたがひ花葉地中より生出しに異ならず是を聞つたへ諸方より追々参詣群集す

領主の役人がこれを怪しんで墓を暴いたところ、蓮の根は明月の口から生えていた。このことは世間の噂となって博多記や小石城志にも載せられて伝承されている。きっと普賢菩薩が室の遊君となって衆生を導引してくれたのではないだろうか。ただ、浄土真宗はこういう超常現象を云々することをよしとしないのだが、貴いこととするいわれもなきにしもあらずだ。同じようなことが過去にもあった。

因にしるす古へ讃岐の国に源太夫といふ人あり此人ハ岩の上にて西方に向ひて往生せし時その死骸の口より青蓮花生せしこと日本往生傅に載す又住蓮安楽死刑に臨む時口より蓮花を生ずと古徳傅に見えたり尚又天竺往生傅に蓮花の徴あること数多[あまた]出せる事繁けれバ爰に略す

というような伝記である。讃岐の国にもこんな伝説があったのだ。

なお蓮の実は土中で長期間発芽能力を保持することができるそうだ。千葉の落合遺跡で発掘され発芽に成功した大賀ハスは弥生時代後期のものだと推定されているし、中尊寺金色堂の須弥壇から見つかった蓮の実も八百年ぶりに発芽したという。蓮はインド原産。ヒンドゥー教や仏教においても特徴的なシンボルとなっている。

そういうことを知ってみると、表紙に蓮華がエンボス(浮彫状)であしらわれているのもいっそう意味深く感じられる。


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by sumus2013 | 2017-09-29 21:24 | 古書日録 | Comments(0)

検印紙二題

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きだみのる『氣違ひ部落周游紀行』(吾妻書房、一九四八年一二月二五日四刷)の画像を makino 氏より頂戴した。装幀のクレディットはないそう。また、検印紙の印文がきだみのる(本名山田吉彦)と結びつかないようなのだ。「英久」と読めるが、如何に?

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市立図書館へ行って、嵐山光三郎『漂流怪人・きだみのる』(小学館,2016年2月)など、二三の伝記をざっと見ましたが、雅号などの記載は見つかりませんでした。職員は、県立図書館とも連絡をとって調査して、何かわかったら、後日連絡する、と云っていました。好意謝するに余あれども、「検印」とは何かの説明に一汗かかされるようでは、期待薄です。

さもありなん。若い人たちが、たとえ図書館スタッフでも、検印紙の貼付されている本なんて見た事がない、としても不思議ではないだろう。


もうひとつは少し前に買った矢野朗『肉體の秋』(京北書房、一九四七年一月一八日)。表紙および扉絵のサインは「泰」とだけ。佐藤泰治かとも思ったが、画風が違うようだ。

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この本、問題は表紙画ではなく検印紙。どこかで見たぞ、この図柄! そう南北書園とまったく同じなのである。

堀井梁歩訳『ルバイヤット異本留盃耶土』(南北書園、一九四七年)

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南北書園とまったく同じなのは検印紙だけではない。版元の住所そして電話番号もまったく同じである。発行者は早田眞朗。さすがに会員番号は違っている。そして疑わしいというか、まぎらわしいのはその社名と発行者名がどことなく似ている事。南北書園京北書房、瀧眞次郎と早田眞朗。この一冊だけでは判断できないが、実態は同じ会社なのではないだろうか。

国会図書館で南北書園検索すると昭和十六年から二十四年まで四十九件(同一書を含む、一件は参考文献なので除外)、京北書房の発行物は昭和十七年から二十八年まで二十八件ヒットする。前者は純文学系、後者はエンタテインメイントおよび実用書という大雑把な出版傾向があるように思う。はっきりしたことは何も言えないが、名前を使い分けていた可能性もある。ただ本書はどちらかと言うと純文学に近いように思う。


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by sumus2013 | 2017-09-23 21:15 | 古書日録 | Comments(2)