カテゴリ
全体古書日録 もよおしいろいろ おすすめ本棚 画家=林哲夫 装幀=林哲夫 文筆=林哲夫 喫茶店の時代 うどん県あれこれ 雲遅空想美術館 コレクション おととこゑ 京洛さんぽ 巴里アンフェール 関西の出版社 彷書月刊総目次 未分類 以前の記事
2022年 09月2022年 08月 2022年 07月 more... お気に入りブログ
NabeQuest(na...daily-sumus Madame100gの不... 最新のコメント
メモ帳
最新のトラックバック
検索
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
人口の原理マルサス『初版人口の原理』(岩波文庫、一九五〇年四月一日七刷、初版は一九三五年)読了。『本はいつごろから作られたか』のなかに、自然選択説を唱えたアルフレッド・ラッセル・ウォレス、そしてダーウィンに対しても影響を与えた本だと書かれていたので、読んで見たいなと思って、探してみた。 この岩波文庫版はよく目にしてたように思うのだが、経済学の本じゃ……と買ったことはなかった。とにかく、まず、寺町の梁山泊へ足を運んだ。社会科学が専門だし、なにしろこの店は、一階が倉庫、二階が店舗なのだが、二階へ上る階段にズラリと文庫本を並べてある。そのほとんどが岩波文庫。数千冊はあるだろう。ところが、どうしたわけか、そこでは見つからなかった。 こりゃ、少し時間がかかるか、と考えていたところ(もちろんネットで探せばすぐ手に入ります)、数日後、同じ寺町通りでもずっと北にある尚学堂の店頭にポツンと置かれているのを見つけたのである。店頭二百円……ちと高いけど仕方ないなと思ってその他の紙モノといっしょに帳場に持って行ったところ、岩波文庫は百円に計算してくれた。ラッキー。 『本はいつごろから作られたか』にはこう書かれている。 《トマス・ロバート・マルサス(一七六六〜一八三四年)の著した『人口論』(一七九八年)を、ダーウィンは一八三八年十月に読んだが、同じ本がウォレスにたいしても触媒のような作用をすることになった。》(第十二章) 《結果から見れば、マルサスは経済学にも影響を与えている。カール・マルクスも彼に学ぶところがあり、ジョン・メイナード・ケインズは、効果的な需要は不況を回避する一つの方法であるという自論のよってきたるところはマルサスだったと言っている。しかし、マルサスが生物学に影響を与えようとは、まったく予想外であった。ダーウィンは『種の起原』の中で、生存競争とは「マルサスの学説を何倍にも増幅して、動植物界全体にあてはめたものである」と説明した。》(第十二章) 『初版人口の原理』はナニナニ学というよりも人口と経済の関係を考察したエッセイであり、マルサスの主張は簡単明瞭だ。論考の基となる問題は二点だけ。例によって引用文中の旧漢字は改めた。 第一、食物は人類の生存に必要であると云うこと。 第二、両性間の情慾は必要であって、大体いまのまゝ変りがあるまいと云うこと。 食とセックス。欠くべからざるもの。そこから導き出されるひとつの結論がこちら。 《即ち若しも人類が、平等なものであつても、食物の欠乏に基く圧迫が不断に人類を脅かし、それが今この瞬間に始まつて、全地球が菜園の様に耕転せられてしまふまで、如何なる時期に至るも決して熄むときがないであらう。無論地球上の生産物は毎年増加して行くではあらう、それでも人類はそれよりも、もつと早く増加するのである、而してその余分のものは、必ずや、周期的又は恒常的の貧困と悪徳とのために制圧されるのである。》(第八章) 食物の供給スピードより人間のセックス力の方が強い、というわけである。だから、食料の足りる範囲内に人口を抑えておかなければならない。具体的には、貧民を経済的に援助しても子どもを増やすだけだから、産児制限をしろ、ということになる。 フランス革命のすぐ後にゴドヰン(William Godwin)あるいはコンドルセ侯爵(marquis de Condorcet)に対する論駁として発表されているので、本書全体に革命による揺るぎが感じられる。 《この社会より富と貧とを除くことは出来ないけれども、極端な地位にある人間の数を減らし、中流の人間を増加することが出来るやうにする政体を案出するならば、進んでそれを採用するのは、吾等の義務に相違ない。然しながら、樫の木の根や枝を大に減らせれば、やゝもすると幹の樹液の循環を悪くする様に、社会の極端な部分を或る程度以上に減らせると、やゝもすれば、知識の発達に最も都合のいゝ、中層階級全体の活気ある努力を鈍らせる傾向がある。》(第十八章) このくだり、近年ニック・ハノーアーという超富豪がアメリカの富裕層に与えた警告を思い起こさせる。 本書に解説を執筆しているジェームス・ボーナーはこんなことを述べている。 《彼は物理学をケンブリッヂで学んだやうであるが、植物学は之を彼の父に負うたであらう。それが彼をして自然盛に比喩的たらしめ、また少しく誇張し過ぎることを免れしめなかつたのであらう。彼は農業者と共に棲んでゐた人間であつたから、栽培家や牧畜家が何をやつてゐるかをよく知つてゐた。彼は『選択の法則』を発見し、且つレースター羊の品種を改良したベークウェルが(プロテロ『イギリス農業史』)羊についての古い理想(小さい脚と頭)をすて、善い肉が豊かであればよいと云う理想に変つてゐたのを、恐らくはよく知つてゐたのであらう。》(マルサスの第一論文について) なるほど、食料と繁殖の関係を重視する方法論は牧畜から学んだに違いない。人類も結局は家畜なのだ。要するに、ダーウィンに影響を与えたとしても何ら不思議はないのである。
by sumus2013
| 2018-01-10 20:54
| 古書日録
|
Comments(2)
|