林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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埴原一亟 古本小説集

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山本善行撰『埴原一亟 古本小説集』(夏葉社、二〇一七年八月三〇日)読了。とにかく面白い(文字通り素直に面白い)小説集だった。

私小説のようにも読もうと思えば読めるが、小生の受けた感じでは私小説ではない。作者自身が古本屋をやっていたこともあり(昭和十一年、武蔵野線東長崎駅前通りに古本屋「一千社」開店)、屑屋の世界にも精通していたわけだが、それはあくまで熟知した素材であって、物語そのものはほぼフィクションではないだろうか。

本書のなかで完成度の高いのは「翌檜(あすなろう)」である。ハラハラさせられるのは「生活の出発」で、これは高利貸しの風俗記録としても意義ある作品かと思う。個人的には「かまきりの歌」を興味深く読んだ。一膳めし屋で顔をあわせる浪人中の中学生と初老の男性が仲良くなり、その謎めいた男性の過去が暴かれて行く……と、もうすこし具体的に紹介したいけれど、面白味が半減してしまってもいけないのでここでは詳しく述べない(ぜひ本書で一読を)。そういう意味で「かまきりの歌」はある種の文学ミステリーと呼んでもいいかもしれない。

芥川賞の候補に三度なっていずれも受賞を逃したという。どうして三度も受賞を逃したのか。山本氏の解説によればこういう選評があった。「店員」(デパート勤めから題材を取った作品、本書には収められていない)について。

佐藤春夫が、決して凡作ではないが一抹の自然主義的臭味のなごりがあるという意味のことを述べ、宇野浩二は、面白い所を摑んでいて巧みなところはあるが調子が低いと書いている。私は、その自然主義的臭味が良いと思ったのだが。調子が低いと言われると、一亟の小説全体の特徴かも知れず、さすがに宇野浩二らしい見方だと感心するが、調子が低い小説がすべて悪いということもないだろう。

撰者の気持ちはよく分るが、さすがに宇野浩二だ。洲之内徹の小説を「自分だけを大切にしすぎる」と評しただけのことはある。「調子が低い」というのは芥川賞には向かないというような意味だろうかとも思える。作風というか作柄の方はかなり調子が高いように思う、だから読者は面白く読まされるのである。登場人物などの描き方がときおりつげ義春の漫画を連想させる。ひょっとして、つげは埴原を読んでいた?

ところで作者の名前は「はにはら・いちじょう」と読むそうだが、「亟」の読みは手許の辞書には「キョク、ケキ」(職の去声)か「キ」(寘の入声)としか記されていない。意味は「すみやかに、すみやか、いそがしい」あるいは「度を重ねる、たびたび、しばしば」である。文字としては古く『詩経』や『論語』にも出ているようだ。

ただし『字統』によると、金文まで遡れば「亟」に「速やか」の意味はなく《二は上下の間が狭く、迫窄する空間であることを示し、そこに人を押し入れて、その前には祝禱の器をおき、後ろから手を加えてこれを殴ちこらしめる意》、殛(キョク、ころす)とも呼ばれる処刑法であったそうだ。これは「局」(身を屈している形、屈肢葬)にも通じている。また遠方へ追放することもあって、その地を極という。それが極限であり、そこから「最上」の意に用いられることとなり「速やか」へと発展する。

撰者解説」にも一亟が本名かどうかということについては言及されていないが、言及されていないなら本名と考えていいのだろう。明治四十年十月五日山梨県北巨摩郡白州町に生まれている(現在はウィスキー「白州」の蒸留所がある町として知られる)。父は代書人であったらしい。漢学の先生などだと、難読の漢字を息子の名前に使うという例はしばしばあることだ(読めない文字を名前に使うというのは呪詛を避けるための手段)。「じょう」という読みの典拠があるのか、ないのか、気になるところ。

さっそく読者の方より御教示いただいた。「」の異体字である、と。検索してみると「亟(=丞)」は戸籍統一文字になっている。深謝です。丞は坎中にある人を、左右から引き上げて拯[すく]う形》(字統)。

u4e1e (国際符号化文字集合・ユニコード統合漢字 U+4E1E「丞」) (@2)

撰者はこう書く。

評価の定まった古典ともいうべき作品を読む楽しみはもちろん大きいのだけれど、あまり知られていない作家の良さを発見し、次々と作品を読んでいくのもまた楽しいものだ。埴原一亟は、私にとってまさしくそのような作家で、何作か読み進むうちに、これはもっとたくさんの人に読んでもらいたい書き手だと思うようになった。

まったく同感である。

『埴原一亟 古本小説集』夏葉社

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by sumus2013 | 2017-08-28 21:54 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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