林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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古河力作の生涯4

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『舊新約聖書』(米国聖書協会、大正三年一月八日)。このブログでしばしば引用する聖書の文言はほとんどこの本によっている。古い聖書というのは思ったより高価なもので、そのためか、あまり均一では見かけないのである。これはもう四十年ほども前に求めたもの。何度か、創世記から順に読破しようと試みたが、どうしても読み通せず、必要なときに必要な章句だけを参照するにとどまっている。

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古河力作が獄中で読んでいた『新約全書』に関する資料を某氏が送ってくださった。感謝です。『一滴』第八十六号(若州一滴文庫 一滴の会、一九九五年一〇月一〇日)に水上勉が「古河三樹松さんと力作さんの遺品「聖書」のこと」を執筆している。その記事コピーである。若州一滴文庫というのは水上が郷里の福井県おおい町(大飯町)に私財を投じて建設した総合文学館。二〇〇三年よりNPO法人一滴の会が運営している。

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昭和四十六年秋ごろのことだった。三樹松さんは、当時、東京牛込の四谷見附の公設市場のなかにあった書店を経営しておられた。私を三樹松さんに紹介したのは、当時平凡社の太陽編集部におられた吉浜勝利氏である。吉浜さんの依頼で、古河力作さんのことを調べていたのだが、力作さんの実弟であられる方が東京におられる、ときいて、吉浜さんに四谷の市場までつれて行ってもらった。三樹松さんは、大正時代から昭和初期にかけ平凡社の創始者である下中弥三郎氏宅の書生をしておられたので、平凡社と縁が深く、四谷の書店も同社発行の百科事典をはじめ、美術書や歴史書を中心に販売され、開店以前は本をリヤカーにのせて、行商した、とご自分でおっしゃっていたから、書生をやめられて、社会で独立するためには店舗をもたねばならなかったので、その資金をつくるための行商であった、というような話もされた。

いよいよ力作さんに死刑執行がきまって、家族との面会が許された日、幼い弟妹が市ヶ谷刑場で、力作さんに会われた時のことなども、くわしく話して下さった。なんども目頭をうるませておられた。

詳しく聞いていたのだ、それなのに……。

その三樹松さんが平成七年五月十八日に亡くなられた。私は当時二どめの胃の手術で入院直前で病中だったため、お葬式にゆけなかったが、三樹松さんには、五人のお嬢さんがおられ、三女のさゆみさんが、私の住む長野県下に嫁がれていて、ご夫君が長野放送の専務多賀清雄氏だったご縁もあり、このたび、三樹松さんのご遺品のなかから、さゆみさんがご父君からいただかれていた「聖書」を、ごきょうだいご相談の上で、若州一滴文庫におあずけくださることになった。この「聖書」は堺利彦氏が市ヶ谷刑務所に拘禁中だった力作さんに面会した際、差し入れとして贈られたもの。力作さんが、死刑執行の当日までよんでおられたとつたえられる貴重な聖書だった。

堺利彦が差し入れた? すでに引用したように『古河力作の生涯』にはこうある。

残されたものは、堺枯川から、慎一氏に手渡された獄中遺品の小さな聖書であった。これは、前にもふれたようにクリスチャンの花つくり印東熊児氏が、獄中の読書にと差し入れたタバコ箱大くらいの豆聖書である。》(十五章)

差し入れたのは印東である。堺枯川(利彦)から力作の父である慎一に手渡された、というところを勘違いしたのかもしれない(?)。

私は、同郷出身の作家として、また、力作さんご兄弟の故郷に近い大飯町に図書館を建てさせていただいたご縁をもつものである。この館の一隅に、古河力作さんの遺品、獄中の愛読書だった「聖書」の保存をたのまれた光栄をふりかえって感慨ふかいものをおぼえる。

若州一滴文庫-水上文学と竹人形文楽の里-

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by sumus2013 | 2017-08-16 21:11 | 古書日録 | Comments(0)
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