林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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触媒のうた

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今村欣史『触媒のうた 宮崎修二朗翁の文学史秘話』(神戸新聞総合出版センター、二〇一七年五月二六日)。面白く読了。出版の経緯などについては著者のブログをご参照いただきたい。

『触媒のうた』と宮崎修二朗翁

宮崎修二朗翁といえば、小生にとっては『神戸文学史夜話』(天秤発行所、一九六四年)の著者として親しい。今架蔵しているのは某氏から頂戴したものだが、二度の転居や数え切れない蔵書処分をくぐりぬけて現在も書棚の一角に収まっている。名著である。

宮崎修二朗『神戸文学史夜話』

その博覧強記の宮崎翁よりさまざまな文学者にまつわる逸話を今村氏は引き出し、さらにその内容を文献および実地調査によって検証した上でまとめられたのが本書ということになる。読者に近い目線から、そのテーマの扱い方も語り口も丁寧で柔らかく、文学そのものにそう深く関心がなくてもつい引き込まれてしまう。

逸話というのは、人があまり語らない事柄で、どちらかといえばマイナス面を示すことが多いわけだが、やはり面白いのは成功よりも失敗(成功者の失敗?)、表より裏だろう。ジャーナリストとして宮崎翁は多くの有名無名の人々の表面も裏面も見てきた、その全部はもちろん語り切れないだろうし、現実問題として語れないことも多かろうが、それでも本書では数々の逸話が披露されている。

例えば竹中郁が原稿料がなかったことに怒った話。宮崎翁は語る。

みんなの前で、『なんでもタダであってはいけない』とおっしゃったんですね。これは当然なんです。けど僕、若かったから、それを人づてに聞いてカーッ! と来てね、もうあいつに会っても二度ともの言わんと心に決め、それから十何年お会いしても知らん顔してました。》(原稿料 I)

竹中らしくない、ような気もするが、これは竹中のプロ意識ということと繋がっているのだろう(本書でもそこはフォローされている)。宮崎翁、けっこうカーッとくるタイプである。

「ぼくは、長崎県の平戸というところのいわゆる三流校の中学校を卒業しました。勉強とはどんなことか誰も教えてくれない野放しで、特に数学はチンプンカンプン。のっけから定理や公理を覚えさせられて、なんでそうなんだ? と聞いても教えてくれない。しつこく聞くもんだからしまいに先生が怒ってしまってね。その教師までも嫌いになってしまい、五年間、テストの時には名前だけ書いて外へ出てました」》(土屋文明の歌)

これは非常に重要な回想である。定理や公理はマル覚えするから利用価値があると思うのだが、それを根問いのように「なんでそうなんだ?」と掘り下げる、納得しないと前に進めない。小生の知人で、茶の作法を習ったとき、所作の一々について「どうしてそうしなければならないのか?」と師匠に問い続けた人がいる。師匠も困ったろうね。何においてもその根源を突き詰めることは深く知るためには必須である。必須ではあっても、それでは仕事が進まないし、ある意味生き難くもあろう。しかしながら何かを成し遂げる人はみなそういう頑固さを持っているに違いない。とにかく、五年間テストをボイコットするなんて誰にでもできることではない。

目下たまたまラジオで柳田國男『故郷七十年』の朗読が放送されている。その名著『故郷七十年』の口述筆記をしたのが宮崎翁だと書かれていて、これにも驚かされた。ところが、それはなかなか難儀な仕事だったらしい。口述筆記の最中に宮崎翁(もちろん若き日の)が言葉を差し挟むと柳田は不快感を露にした。

口述の途中でそのことに触れると露骨に不愉快な顔をされましてね、そっぽを向かれてしまいました。そのようなことが何度もあったんです。ご自分のプライドが少しでも傷つくようなことには敏感に反応して拒否なさいました。まあぼくも当時は生意気でしたし、未熟なそれが顔に出ていたとも思いますがね。》(柳田國男 II)

それだけではない、柳田が触れられたくなかった松岡家の暗部を知ってしまい、決定的に嫌われることになったのだという。暗部がいったい何なのかは本書をご覧あれ。なお柳田の殿様ぶりは佐野眞一『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』(文藝春秋)を読むとよく分る。

暗部と言えば、井伏鱒二の『厄除け詩集』がパクリだったという事実を最初に見つけたのが宮崎翁だったそうだ(!) あの「サヨナラ」ダケガ人生ダ……である。

「昭和60年ごろのことでした。講演で佐用町に行った時にね、ある人から『こんなものがうちにあるのですが』と見せられたのが『臼挽歌』(潜魚庵)という本でした。これを見て驚きました。井伏の『厄除け詩集』とそっくりそのまま拝借の訳詩が並んでいたんですよ」》(厄よけ詩集

宮崎翁は井伏が歿するまで待って、そのコピーを大岡信に送り、寺横武夫(井伏研究家)に送った。これによって厄除け詩集』にタネ本があることが周知の事実となった。なるほどねえ。ただし、漢詩をこのように平易に読み直すことはそう珍しいことでもないように思うし、井伏は『田園記』のなかで種本が存在することを明確に述べているので(むろん本書でも引用されている)これは暗部というほどでもないか。

そういう暗闇を照らす意味でもっとも興味深く読んだのは北山冬一郎のくだりである。『書影でたどる関西の出版100』では熊田司氏がこの詩人を取り上げておられるから、小生もその書影と名前には記憶があった。戦後すぐに詩集『祝婚歌』を出して注目され、そのなかの「ひぐらし」「紫陽花」などに團伊玖磨が曲を付けたことにより、それらは今も歌い継がれているという。ただ作者本人は『小説太宰治』(この本、古茂田守介の装幀とか! 古書価はかなりのもの)の問題などで姿を消し、周辺の人達に迷惑をかけ、いつか忘れ去られてしまった。今もって生死すらハッキリしないらしい。神戸で亡くなったとも。北山冬一郎情報だけでも本書は値打ちものである。

やはり、彼のホントの最後は誰も知らないのだ。
 わたしもこれ以上、彼の戸籍調査はしたくない。幻のままでいいのではないかと思う。
 北山冬一郎は今もどこかの街をかわいいウソをつきながら放浪しているにちがいない。

  日暮れ
  ひぐらし
  ひぐれに哭く
  ひとひ空しく
  むなしく暮れて
  夕焼
  わが掌を
  かなしく染めぬ
  日暮れ
  ひぐらし
  ひぐれに聞く
         (ひぐらし)  》(北山冬一郎 V)

その他、足立巻一、富田砕花についてもかなり詳しく叙述されているし、桑島玄二も登場する。彼らの等身大の姿を彷彿とさせる逸話が貴重この上ないものとなっている。


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by sumus2013 | 2017-07-11 15:47 | おすすめ本棚 | Comments(4)
Commented by Knji今村 at 2017-07-11 22:35 x
ご丁寧な書評をありがとうございます。うれしいです。本にして良かったと心から思います。
Commented by sumus2013 at 2017-07-12 07:24
単行本として読めることが有難いです。宮崎翁のご健勝をお祈りしつつ、まだまだ聞き取りを続けていただきたいと期待しております。
Commented by kinji今村 at 2017-07-13 08:05 x
書評の中に書いてくださっているように、公表できない話もいくつかあります。また、「KOBECCO」にはなじまない話もありました。機会があればまた書いておきたいと思っています。録音はたくさん取らせていただいてますので。
Commented by sumus2013 at 2017-07-13 08:06
それは楽しみです!
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