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林哲夫の文画な日々2
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新編 左川ちか詩集 前奏曲

新編 左川ちか詩集 前奏曲_f0307792_16091883.jpg

『新編 左川ちか詩集 前奏曲』読了。まえがきを全文、はしがきを一部引用する。

ここには、生きている左川ちかの姿がある。
 昭森社の『左川ちか詩集』は、彼女の死後に出版されたものである。『新編 左川ちか詩集 前奏曲』におさめられた詩のほとんどは、彼女がじかに目をとおし、閲したものばかりだ。付録につけた『室樂』については、生前に出版した唯一の本であるが、これにも初出雑誌があり、鏤刻を経て単行本として完成したものの初々しい原形をおさめてある。
 今回、『前奏曲』とつけたのは、昭森社の左川ちか詩集』という金字塔へ結実するという意味あいをふくんでいる。此処には、Overture がある。こゝには、はじまりがある。みじかいがつよく焔のように生きたあかしとして、うたが黒曜石うえに墓碑銘として深々と刻まれている。》(紫門あさを)

今回の新編 左川ちか詩集 前奏曲』においては、昭森社版『左川ちか詩集』や、森開社版左川ちか全詩集』とは、いささか収録内容にちがいがある。それは極力初出での収録をめざしたということだ。》(はしがき)

これは、可能なかぎり「左川ちか」の全詩、全散文、全翻訳のあらゆるヴァリアントまでを雑誌初出で網羅することをめざした『左川ちか資料集成』の製作過程でできたちいさなちいさな副産物にすぎない。》(同)

左川ちか、これまで断片的にしか読んでいなかった。既刊の詩集二冊はちょっと手が出しにくい古書価になってしまっているから、本書は願ってもない出版だ。モダニズムの文法といったものが着々と自分自身の言葉になっていく過程が手に取るように分る。

新編 左川ちか詩集 前奏曲
著 者:左川 ちか
編 纂:紫門 あさを
装 幀:小山力也(乾坤グラフィック)
発 兌:えでぃしおん うみのほし
発 行:東都我刊我書房
予 価:4,000円
刊行:2017年6月30日


付録『室樂』はジョイスの詩集。三十六篇の恋愛詩から成る。初版はエルキン・マシューズ(Elkin Mathews)から一九〇七年五月に出版された。本書付記によれば左川ちかは『室楽』第三版(エゴイストプレス、一九二三年)をテキストとして翻訳を行ったそうだ。参考までに第一の詩の左川訳と原文を掲げておく。


地と空中の弦は美しい音楽をつくり出す。
川のそばの柳の会うところの弦は。

川に沿うて音楽が生まれる。恋人がそこをさまよ
っているので。彼のマントの上の青ざめた花。
彼の髪の上の暗い葉。

総ては静かに弾いている。音楽のする方に頭を
曲げて、そして楽器の上を指がさまよい。


I

Strings in the earth and air
   Make music sweet;
Strings by the river where
   The willows meet.

There's music along the river
   For Love wanders there,
Pale flowers on his mantle,
   Dark leaves on his hair.

All softly playing,
   With head to the music bent,
And fingers straying
   Upon an instrument.


左川訳は原文の行分けを無視して散文に近い形である。左川自身も《原詩の韻を放棄し、比較的正しい散文調たらしめるようにつとめた》と書いている。ここに詩の翻訳の悩ましい問題がある。韻を放棄してしまうと原詩の要素のうちの半分は捨てるようなものである。しかし、ではどうすればいいかというと、どうしようもないのだから仕方がない。全体に左川の苦心がうかがえる訳文である。

新編 左川ちか詩集 前奏曲_f0307792_17235138.jpg
これがエゴイストプレス版『室楽』(The Egoist Press, 1923. "THIRD EDITION.")の書影。次に掲げたのは初版の扉と表紙。初版は上述したように Elkin Mathews、1907 で第二版が同じ版元から一九一八年に出ている。また一九一八年にはアメリカで最初の海賊版(The Cornhill Company)が登場し、二七年にはエゴイストプレス版をそのまま再版した第二版の二刷が Jonathan Cape から出ているようだ。いずれの版も発行部数はかなり少ない。

新編 左川ちか詩集 前奏曲_f0307792_17245158.jpg
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『室楽』(Chamber Music)というタイトルはリチャード・エルマン(Richard Ellman、一九四九年のエヴァ・ジョイスとの対話から)によれば、ジョイスがオリヴァー・ゴガーティ(Oliver Gogarty)とともにジェニィ(Jenny)という若い未亡人のもとを訪れたとき、一九〇四年の五月だった、三人は酔っぱらって、ジョイスがこれらの詩のいつくかを大声で読み上げると、やおらジェニィはカーテンの後ろで溲瓶(chamber pot)を使い始めた。ゴガーティは「こりゃ、君に対するジェニィの批評だな!」とつぶやいた。ジョイスが後に弟スタニスラス(Stanislaus)にこの話をすると「そりゃ、いい兆しだ」と言って「室楽」というタイトルを示唆したらしい(以上 wiki より)。Chamber Music というのはジェニィが奏でるうるわしい(?)音色だったということになる。

by sumus2013 | 2017-07-08 19:37 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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