林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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曖昧な物言い

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ジャン・ポーラン(Jean Paulhan)『les incertitudes du langage』(idée nrf, 1970)を読んでいるのだが(本書には邦訳がないようなので仮に「曖昧な物言い」としておいた。直訳調なら「言語の不確実さ」)、そのなかに現今のきな臭い情況を皮肉るのにぴったりの発言があった。引用しないではいられない。下手な訳文はお許しを。このインタヴューは一九五二年にラジオ・フランセーズで放送された。

聞き手のロベール・マレ(Robert Mallet)が「第三次世界大戦についてどう思われますか?」と尋ねると、ポーランは次のように答えている。彼は基本的に戦争はそれまでの二度のように(第一次と第二次大戦を指す)不条理には勃発しないと考えている。

《ここ何年か、皆が皆、そんなことを言っていますね。でも私はそうは思いません。理由はこうです。
 子供の頃、近所のふたりの男が路上で話しているのを見かけました。一人はもう一人に向って言いました。
「おまえさんは、あれやこれやをやっただろう。下司野郎(mufle)だな」
もう一人は答えました。
「下劣(salaud)なのはおまえさんだよ」
私は思いました、二人はすぐにも決闘するんじゃないかと。それをどうやって見物しようかと馬鹿みたいなことを考えたんです。八日後、二人はまた出会いました。
「おやおや、この哀れな野郎(ce triste personnage)が」
と一人は言いました。
「なんじゃ、アホ(petit imbécile)が」
ともう一人は言いました。さらに十五日後。またもや二人は罵り合いました。
「ばあ〜か(Idiot)!」
「鼻持ちならん奴め!(Paltoquet)」
その頃には鼻持ちならん奴(paltoquet)などと言っていたんですな。一週間が経つと、また同じことが起こりました。私は、あっけにとられたんです。そしてやっと分りました。あの人たちは絶対に殴り合いの喧嘩はしないなと。どうしてなら、毎日のように喧嘩してるからです。それでまったく満足なんですよ。
 ある大使が不注意にも別のある大使の足を踏みつけたという理由で宣戦布告する、今はもう、そういう時代じゃないでしょう。》

非常識で理屈に合わない命令(ordre d'absurdités et de mauvais raisonnements)によって戦争は起きないだろう……そうジャン・ポーランは語っているわけだが、さてそれから六十年以上が経って、必ずしもそうとは言えないような事態が迫っている。何しろ salaud、idiot、paltoquet たちを誰もがその頭にいただいている時代なんだから(人ごとじゃない)。

今宵はとにかくポーランのような常識を多くのフランス人がまだ持ち合わせていることを祈りたい。


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by sumus2013 | 2017-04-23 21:43 | 古書日録 | Comments(2)
Commented by 牛津 at 2017-04-24 15:55 x
「わずか数ポイント差の得票率で明暗が分かれた。上位4候補による
異例の混戦となったフランス大統領選の第1回投票。決選投票に進む
見通しのエマニュエル・マクロン前経済相(39)とマリーヌ・ルペン
右翼・国民戦線(FN)党首(48)は投票日の5月7日に向けて
引き締めを図る。一方、歴史的な敗退が決まった2大政党の支持者
からは落胆の声が漏れた」と、ニュースは伝えています。まだパリから
帰国し1週間もたっていませんが、まさかこのような結果になるとは。

どこへ行ってもカバンのチェックでこの国はどうなっているのだと
思いましたが、世界がこのような情勢になってくるのでしょうか。
Commented by sumus2013 at 2017-04-24 16:32
個人的に思うのですが、第三次世界大戦というのは、テロリズムという形で継続しているのではないかということです。ご無事のご帰国をお慶びいたします。
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