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神保町の鴉東京滞在中、一時間だけ神保町にいた。どうしてもこの古書店の店頭をもう一度漁っておきたかったのである。後で悔やんだらいやなので。十時開店の直後に到着するはずだったのだが、馴れないせいで地下鉄の乗り換えなどに時間を取られ、五六分ほど過ぎていた。ちょうど店員さんが百円均一にフランス語の本をどっさり放出し、さらにその中から無料箱行きを選んでいた。ここに限らず靖国通り沿いの古書店では店頭の歩道際がちょっとした物置のようになっているが、この店はその一角に無料段ボール箱を置いているのだ。すでに一度放り込んでいたのだろう、なぜなら 黒いコートに大きなリュックを背負った長身の男性が無料箱にのしかかっていたからである。足許には二十冊ほども取り分けてある。アッチャー、遅かった。 一瞬躊躇したが、すぐにこちらも脇から手を出す。黒い男は「何だ?」という感じでギロリと睨む。が、ひとまず全部見終わったらしく均一コーナーの方へ河岸を変えた。あとは独り占め……ではあるが、いくらロハでも旅の空、そんなに何冊も……などと頭では考えていても手の方が勝手に動く。どうやら同じ書斎から出た本らしいので旧蔵者は仏文の教師だったか。巻末の鉛筆書きの値段(もちろんユーロではなくフラン)からしてどの本もフランスで買ったらしい。fnac のシールが貼られているものもあった。 ロートレアモン関連が何冊もまとまっている。MARCEL JEAN et APPAD MEZEL『LES CHANTS DE MALDOROR』(ÉDITIONS DU PAVOIS, 1947)など三冊選ぶ。スイユのロランバルトが二冊。あとグザヴィエール・ゴーティエ『シュルレアリスムとセクシャリテ』(idée nrf, 1971)。みんな無料。状態は良いとは言えないけれど、これは有り難い。そうそう、もう一冊、ラジオ・インタビューでジャン・ポーランが自分史を語った『les incertitudes du langage』(idée nrf, 1970)、これがちょっと読んでみると面白そうなのでかなりボロボロだったが買っておく。 黒い男を追うように均一コーナーへ。男はもう見終わっていた、と思ったら、三度、店員さんが追加投入した無料箱へ走る。アッと思うが、仕方がない。百円均一の箱、こちらもほとんどがフランス書。fata morgana から出たピエール・クロソウスキー(画家バルチュスの実兄)を二冊、パリの古書店 BEAUSSANT LEFÈVRE の目録、都合三冊三百円。 これでもう充分なのだが、もう少しと思って探ると、こんなものが見つかった。一九七九年に南天子画廊で開催された瀧口修造展の絵葉書セット。六枚入。アート紙の封筒に入っている。これは嬉しかった。状態から見てフランス書と同じ旧蔵者であろう。なかなか趣味のいい人だ。 この間十五分も経っていただろうか。神保町のカラスはいずこかへと姿を消した。さしずめ小生はおこぼれ頂戴の京スズメ。それなりに腹を満たしてすずらん通りを流しながらUターンして半蔵門線神保町の駅へと向う(ウィリアムモリスは半蔵門線表参道下車五分ほど)。少々荷物が重くなったが、神保町へ足を伸ばした甲斐があった。
by sumus2013
| 2017-04-09 21:03
| 古書日録
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Comments(4)
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牛津
at 2017-04-09 21:13
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このような本が無料というか、値がつかないというのは
何やらやるせないものです。洋書の凋落ぶりは洋書市などでは 目も当てられない状態です。やはりどこかがおかしいです。
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sumus2013 at 2017-04-10 09:04
まったくその通りですね。フランスではどれもちゃんとした値段、数十ユーロは付いています。これらの本がゴミ同様に扱われるとは……哀しくもあり、嬉しくも(?)あり。
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牛津
at 2017-04-10 21:26
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そうそう、思い出しました。ご主人いわく、あの無料の箱から
すくい上げ、店内に持って入ってきて、それを売るような輩が いるそうです。 また、店内のきちんと値札がはってあるものを箱からだと堂々と 主張する御仁もいるそうです。 古書店は人間模様、多彩です。
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sumus2013 at 2017-04-10 21:51
無料ではなく、せめて五十円でも十円でもつけてはどうかとも思うんですけどねえ……
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