林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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職業としての小説家

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パリ、午前九時四十五分頃(日本時間午後五時四十五分頃)、ルーブル美術館のカルーゼル入口の階段のところでリックサックと大型のナイフを持った男が「アラー・アクバル」と叫びながら入館しようとして暴れ警備していた国軍兵士に取り押さえられた。兵士は五発ほど発砲。犯人に重傷を負わせた。リックサックには爆発物は入っていなかった。以上のような内容(多少補足したが)の注意喚起メールが在仏日本国大使館から届いたのが午後七時三十五分(メール登録しているので)。《しばらくの間はルーブル美術館付近に近づかないようお願いします。》……今は近づこうにも近づけませんがね。

村上春樹『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング、二〇一五年九月一七日、カバー写真=荒木経惟、装丁=宮古美智代)をブックオフで見つけた。『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』が面白かったのでつい買ってしまったが、この本は正直たいくつだった。ただ喫茶店蒐集家としてはジャズ喫茶(というかジャズバー)「ピーターキャット」の開業の周辺が語られるくだりには興味をもった。

《そういうわけで、とにかく最初に結婚したんですが(どうして結婚なんかしたのか、説明するとずいぶん長くなるので省きます)、会社に就職するのがいやだったので(どうして就職するのがいやだったのか、これも説明するとずいぶん長くなるので省きます)、自分の店を始めることにしました。ジャズのレコードをかけて、コーヒーやお酒や料理を出す店です。》

《でも学生結婚している身だから、もちろん資本金なんてありません。だから奥さんと二人で、三年ばかり仕事をいくつかかけもちでやって、なにしろ懸命にお金を貯めました。そしてあらゆるところからお金を借りまくった。そうやってかき集めたお金で、国分寺の南口に店を開きました。それが一九七四年のことです。》

おお、小生が武蔵野美術大学に入った年である。国分寺の北側には「でんえん」が南側には「ピーターキャット」があったのだ。その頃は三多摩図書(古本屋さん)しか知らなかった。情けない。

《ありがたいことに、その頃は若い人が一軒の店を開くのに、今みたいに大層なお金はかかりませんでした。だから僕と同じように「会社に就職したくない」「システムに尻尾を振りたくない」みたいな考え方をする人たちが、あちこちに小さな店を開いていました。喫茶店やレストランや雑貨店、書店。うちの店のまわりにも、僕らと同じくらいの世代の人がやっている店がいくつもありました。学生運動崩れ風の血の気の多い連中も、そこらへんにうろうろしていました。》

「今みたいに」と書いているが、今だってお金をかけないで開店している若者はたくさんいると思う。

《僕が昔うちで使っていたアップライト・ピアノを持ってきて、週末にはライブをやりました。武蔵野近辺にはジャズ・ミュージシャンがたくさん住んでいたから、安いギャラでもみんな(たぶん)快く演奏してくれた。》

《銀行に月々返済するお金がどうしても工面できなくて、夫婦でうつむきながら深夜の道を歩いていて、くちゃくちゃになったむき出しのお金を拾ったことがあります。シンクロニシティーと言えばいいのか、何かの導きと言えばいいのか、不思議なことにきっちり必要としている額のお金でした。》

このくだりを読むとどうしても井伏鱒二を思い出してしまう。きっちりって……。村上はそれ以前に《新宿の歌舞伎町で長いあいだ終夜営業のアルバイト》をしており水商売には経験があった。

《仕事をしながら暇を見つけて講義に出て、七年かけてなんとか卒業しました。最後の年、安堂信也先生のラシーヌの講義をとっていたんですが、出席日数が足りず、また単位を落としそうになったので、先生のオフィスまで行って「実はこういう事情で、もう結婚して、毎日仕事をしておりまして、なかなか大学に行くことができず……」と説明したら、わざわざ僕の経営していた国分寺の店まで足を運んでくださって、「君もいろいろ大変だねえ」と言って帰って行かれました。おかげで単位もちゃんともらえました。》

《国分寺南口にあるビルの地下で、三年ばかり営業しました。それなりにお客もついて、借金もいちおう順調に返していけたんですが、ビルの持ち主が急に「建物を増築したいから出て行ってくれ」と言い出して、しょうがないので(というような簡単なことでもなく、いろいろと大変だったのですが、これも話し出すと実にキリがないので……)国分寺を離れ、都内の千駄ヶ谷に移ることになりました。店も前より広くなり、明るくなり、ライブのためのグランド・ピアノも置けるようになって、それはよかったのですが、そのぶんまた新たに借金を抱え込んでしまいました。》

二十代も終りに近づく頃、千駄ヶ谷の店の経営もようやく軌道に乗ってきた。一九七八年四月のよく晴れた日の午後、村上は神宮球場にヤクルトVS広島戦を見に行った。そのとき天啓が村上を襲う。エピファニー(epiphany)という言葉を使っている。「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」……《空から何かがひらひらとゆっくり落ちてきて、それを両手でうまく受け止められたような気分でした》。そして仕事の合間に完成させたのが『風の歌を聴け』だった。

これを写していて気付いた。「話し出すと実にキリがない」ところを書いてくれないからこの本は退屈なんだな。

もうひとつ、これはべつにこの本に限ったことではない。原発について書かれているくだりにこうあった。

《原子力発電は資源を持たない日本にとってどうしても必要なんだという意見には、それなりに一理あるかもしれません。》

日本にエネルギー資源がないなんて刷り込み以外の何物でもない。何より温泉があるじゃないか。火山エネルギーは日本のいたるところで入手可能なものだ。地熱発電ほど効率のいいものはない。海だってあるし(海底には石油やガスが埋蔵されている)、水は豊富だ。反原発というコンテキストでこれは書かなくてよかっただろう。

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これがカバー。タイトルを隠す帯とは、さかしまなアイデアである。

***

宍戸恭一さんが亡くなられたことを知った。心よりご冥福をお祈りしたい。

京都の名物書店前店主死去 三月書房、宍戸恭一さん

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by sumus2013 | 2017-02-03 20:34 | 喫茶店の時代 | Comments(0)
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