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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


若冲筆塚

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伊藤若冲の展墓、そして筆塚の刻文を写してきたのは、旧稿を改訂するためだった。ご存知のように今もって草書を読むのに苦労しているわけだが、何しろ二十年近く前なので、初心者もいいところ、よくこんな原稿を公にしたものだと厚顔無恥にあきれる。このくらいの行書もまともに読めていないのは上掲の校正紙が示す通り。いつか直そうと思ってはいたのだが、好機を某社より頂戴したのである。

森銑三に「若冲小録」という文章があって、そこにこの碑文の引用がある。それが参考になった。昔、知っていればなあ、と思っても後の祭り。ただしその引用文にもいくつか誤りがある。実物とつきくらべてみて分った。


若冲筆塚_f0307792_17594386.jpg

そんなわけでテキストの方はほぼ確定できたが、文意がどうしてもはっきり取れないところがある。例えばこのくだり。

 初置石像肆頭 有来請画者 輙使其出一鋪資 既而厭塵土 剔顛毛

実際には写真のように一文字アキはないが、いちおう切りのいいところでアキを入れた。石像とは五百羅漢そのものか、それに似た若冲の関係した作品であろう。画を注文に来る者があると、そのたびにそれを出させて……一鋪……ひとしく(ひとつ?)敷き(?)資す(?)、すでにして塵土を淮ゐし顛毛をえぐるのに……(無理矢理読んでみました)。使其出一鋪資……ここをどう解すればいいのか。

さっそくに御教示いただいた。まったく見当外れだった。

一鋪の資に出さしむ。すでにして塵土を厭ひ顛毛を剔る

素晴らしい。塵土は世間、顛毛を剔るは「剃髪す」である(!)。厭を壓と同じと読んだのがバカだった(同じ意味もあります、言い訳がましいですが)。絵を求めに来た者に石像を売りつけて店(枡源という八百屋)の経営資金にしたという意味になるのか。剔顛毛(剃髪す)のあとにつづけて《縛菴石峰》(石峰寺に庵を結ぶ)とあるのもそれですんなりと意味がとれる。深謝です。


by sumus2013 | 2016-09-18 18:08 | 雲遅空想美術館 | Comments(2)
Commented at 2016-09-18 23:55 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sumus2013 at 2016-09-19 07:02
ありがとうございます。助かりました!
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