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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


倉田啓明綺想作品集

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『わが屍に化粧する―倉田啓明綺想探偵作品集―』(盛林堂ミステリアス文庫、二〇一六年七月二一日)が届いた。倉田といえば『地獄へ堕ちし人々』(春江堂、一九二二年)に驚くような値段が付いているし、龜鳴屋さんでも傑作集を出している(完売)くらい奇特な作家のようだが、むろんどちらも所持せず、名前くらいしか知らなかった。いろいろな顔(作風)を持つ作家のようだということが本書を読んでいて分ったのはたいへんな収穫だ。

わが屍に化粧する―倉田啓明綺想探偵作品集―

目下のところ倉田啓明のウィキにも生年ははっきりと書かれていない。歿年はもちろん不明。ところが本書の解説片倉直弥「本朝ぎさく気質」がなんとも執拗な追求ぶりで、とにもかくにも生年を記した資料を見つけておられる。

《倉田啓明 名は潔[きよし]。明治二十四年九月八日生。立教学院出身。「社会学体系序論」及び小説「地の霊」外五六編の作がある。現住所、日本橋浜町一ノ一七巴館》(『文章世界』大正三年三月十五日号「現代紳士録」)

これだけ分ればたいしたもの。ただ、それでも歿年はまだ不明のまま。

《探し出せた最後の小説は「仇討ち三味線」(『日の出』昭和十二・四)である。その後の消息は、杳として知れない。》

作品の評価についても片倉氏の一文を引いておく。

《倉田啓明が、谷崎潤一郎のような大作家に数えられることは今後も絶対にないだろう。一瞥すれば分るように、彼の作品には普遍的な芸術性というべきもは存在しない。あるのはただ、その場その場のモードに合わせて見繕った、一時的に消費されるだけの消耗品の味わいである。
 もっとも、その振る舞いを彼ほど突きつめたのは稀有な例だろう。生来の器用と無節操とで、明治末のデカダンスから大正の革命思想、昭和初期のモダニズムへと他の追随を許さないほど幾度も変化[へんげ]を繰り返した生涯は、倉田啓明という一人物に留まらず、彼の駆け抜けた時代をも雄弁に示すに至っている。普通は否定的に受け取られる変わり身も、彼の場合は魅力の一つとして特筆すべき域に達しているといえよう。大作家を読むのとはまた違った楽しみが、そこにはあるように思う。》

日本人の変わり身の早さに遅れまいと必死だった……そんな風にも思えて来る。

by sumus2013 | 2016-07-21 21:03 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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