林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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ポール・クレーの食卓

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吉岡実をもう一冊。『ポール・クレーの食卓』(書肆山田、一九八〇年五月九日)。装画は片山健。装幀は小林一郎氏によれば亜令(書肆山田のスタッフ大泉史世さん)とのこと。西武百貨店の包装紙は田中一光デザイン。

吉岡実の詩の世界 → 吉岡実書誌(小林一郎編)


表題作「ポール・クレーの食卓」の後半を引用しておく。


からの罎は立っている
卓の上に棲みついて独り
だれだって立っているとということがさびしくなる
しぜんにほそいくびになる
招かれないので
朝から晩まで戸口の隅に
つぼまったまま滴をたらしている雨傘
卓のまわりは椅子が寄り
皿や器が集ってくる
そのなかには無益にも食いあらされた皿もある
それにもまして哀しいのは汚れない皿
棚のうえに重なり重なり
そのまま夜はバターの下でひびかない
こころなごむ宴も終りちかく
母のふくらむ腹をした
塩の壺のなかから
声がでてくる
応えがないのでまたもとのところへ戻る
永遠に拭く人の現れぬ食卓
四方から囲む
白いかべはたった今
海をのんだのかひっそりとして


吉岡はクレー作品から直接に触発されたのだろうか。そうであるような、そうでもないような。

タイトルポエムの〈ポール・クレーの食卓〉は、かねてクレーのような詩も書きたいともらしていた吉岡積年の想いの詩篇。》(小林一郎「拾遺詩集《ポール・クレーの食卓》解題」より)

なるほど「クレーのような詩」か! 「のような」は具体的なモチーフを指しているとは無論思えない。しかしなんとなくクレーの作品から食卓を探して見たくなるのが人情。手近に画像検索した結果を以下に掲げておく。また検索していて『クレーの食卓』という料理本があることを初めて知った。

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Um den Fisch, 1926



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Bunte Mahlzeit, 1928



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Mädchen mit Krügen, 1910



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ゲルストホーフェンの思い出, 1918



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クレー(左)とカンディンスキー、デッソウにて



ポール・クレーと英語読み(パウル・クレーが日本では通例)になっているところに何か意味がある……考え過ぎ?



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by sumus2013 | 2016-07-12 21:39 | 古書日録 | Comments(2)
Commented by 小林一郎 at 2016-07-14 23:31 x
「ポール・クレーの食卓」拝読しました。「解題」をご紹介いただきありがとうございます。
出典は昭和24年8月12日の吉岡実日記で、「Mからポール・クレーの絵のある〈みづゑ〉を借りる。原始の素朴な夢と淋しさの底から滲みでる抒情。冷めたい知性を包む幻想の交響曲。仕事のあいま、またねどこの中でポール・クレーの絵をみたり、評伝をよむ。クレーのような詩も書きたいと思った」(現代詩文庫版『吉岡実詩集』、116ページ)です。
日記中の『みづゑ』は1949年3月の通号520号。国会図書館のOPACを見るとクレー特集のようで、以下の3篇が掲載されています。
・江川和彦「ハーバート・リードのポール・クレー論」
・長谷川三郎「ポール・クレー」
・阿部展也「ポール・クレー雑記」
したがって、吉岡の「ポール・クレー」は『みづゑ』の表記を踏襲したものと考えられます。
(同号はかつて国会図書館で閲覧してコピーも取ったはずですが、整理が悪くて今すぐに出て来ません。)
「Bunte Mahlzeit, 1928」も、たしかモノクロ図版で載っていました。吉岡の「ポール・クレーの食卓」が同作品をなぞったものかは微妙ですが、むしろ「Um den Fisch, 1926」が「静物」(夜はいっそう遠巻きにする)に影響しているように思います。
Commented by sumus2013 at 2016-07-15 08:47
昭和24年の『みづゑ』ですか、なるほど。当時は英語表記が優勢だったんですね。いつ頃パウルに変ったのか、興味をもちました。土方定一さんあたりからかな……?
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