林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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嬉遊曲

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『嬉遊曲』(発行=嬉遊曲の会、印刷所=世田谷区梅丘一の二四の二 七月堂)という雑誌の1(一九八五年二月七日)、2(一九八六年三月一五日)、3(一九八七年九月一日)を頂戴した。添えられていたメモにはこうあった。

《検索しても、まるで出てきません。雑誌の狙いがもうひとつわからない?印象で、ネット時代直前の、しかしなにか昂った気分はあるようです。七月堂はこの少し前に朝吹亮二、松浦寿輝らの「麒麟」を出していて、たしかユリイカの「詩集の作り方」特集には「ヘンな雑誌は、申し込まれてもやらなかった」と書いてあった筈なので、この「嬉遊曲」は、ヘンな雑誌ではないのでしょうが。》

ヘンな雑誌ではないですね。真面目な雑誌である。同人は岩崎章、梅沢郁雄、大神田丈二、大野多加志(中村三吉)、瀬戸隆文、高遠弘美、橋本克己(水戸紺鳥屋)、泉川清、原田脩子(原田七江)、村岡正明、山本光久……以上1号。2号は泉川清が消えて野田研一、橋本清一が加わる。3号では泉川が戻って、清水明が加わり、梅沢、橋本清一、村岡、山本の名前が消えている。都合十四名の同人を数えたことになろうか【泉川清と橋本清一は同一人物と御教示いただきましたので十三名でしょうか】。

1号は高遠弘美・橋本克己の両氏が編集担当である。たまたま面識のある高遠氏にこの雑誌についてうかがってみた。高遠氏は文字面を四角にまとめた詩作品を発表しておられる。

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《大学院の後輩の橋本克己や大野多加志らと、たまたま始めた雑誌でした。三号雑誌の名前通り、三号で終はつた雑誌でした。他の執筆者は、私たちの何らかの知り合ひでした。》

というお返事をいただいた。じつは3号には担当編集者である大神田氏から野田氏に宛てた手紙(ワープロで書かれているのが何か懐かしい感じ)が挟まれていた。高遠氏によれば《野田さんは、大神田さんの立教の先輩です。しばらく金沢大学の先生をしていました。大神田さんと私は都留文科大学の非常勤講師時代に仲よくなりました。野田さんは今は立教の先生、大神田さんは山梨学院大の先生です。》ということで、手紙の内容は文学への熱い思いが語られている。私信なので引用するのもいかがなものかとは思うが、差し障りのなさそうなそれでいて本質的な文章を引いておきたい。発表を考えずに黙々と書き続けられた作品が後世において昭和文学の位置を決定するという中野好夫の意見を引用した後、こう続けている。

《ぼくらが発表を考えずにものを書けるほどの内容をもっているものかどうか、知らない。が、だとしたら、ぼくらは発表することを考えながら文章を書いてもいいわけだ。例えば個人雑誌を作って、誰にも読まれなくても書きつづける、これの方がよほど健康ではないのか。》

ちょうどTVドラマの「重版出来」を観ていると(漫画雑誌の編集部が舞台)、新人賞はとったもののそれ以後は万年アシスタントで漫画家になれない男性がついに郷里へ帰るという話をやっていた。編集者に自分の作品が理解されなかったためデビューの機会を逃し続けたという設定になっている。しかしこれはメジャー雑誌へのデビューということで、多くの人に受け入れられる作品が前提の世界である。少数の読者に向かって、あるいは自分に向かって書き続けることは可能なのではないだろうか? あるいは未来の読者に向かって。漫画をやめてしまう理由としては納得できないなと思う。

昨夜、高遠氏のFBにこんな記事が投稿された。

《2012年11月2日、私がフランスにゐるときに急逝した若き友人、加藤雅郁さんの最後の仕事がやうやく日の目を見た。『フェティシズム全書』作品社、639ページ。4800円。加藤さん歿後、友人の橋本克己が引き受けてここまで形にしてくれた。加藤さんを偲ぶと共に、橋本の健闘に拍手を送りたい。》

『フェティシズム全書』作品社

同人雑誌仲間というのはやはり特別なものである。

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by sumus2013 | 2016-05-25 20:55 | 古書日録 | Comments(4)
Commented by romitak at 2016-05-27 09:02
旧悪露見といふものかとうなだれてをります。とは申せ、ご紹介して頂いたことはすこぶる有り難く、青春の残り火がちらりと胸を掠めました。御礼を申し上げます。高遠弘美
Commented by sumus2013 at 2016-05-27 17:02
御作における「ことば」へのこだわり、形式と内容の関係をギリギリまで突き詰める詩法には、当然ながら今日のお仕事につながるものを感じました。
Commented by romitak at 2016-05-27 21:00
泡沫雑誌についてあれこれ申し上げるのも気が引けるのですが、念のために。泉川清は橋本清一の当時の、といふより、「嬉遊曲」限定の筆名でした。橋本清一は教養課程の同級生で、英文に進み、大学院では小沼丹ゼミ。青学の先生になりました。
Commented by sumus2013 at 2016-05-28 08:35
御教示ありがとうございます。同人雑誌にはそういうからくり(?)が潜んでいることがしばしばで、そこが古本趣味の輩には醍醐味でもあります。
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