林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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しょうべんの詩

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『川崎彰彦傑作撰』の「どぶろくの詩」からもう少し旧制中学時代の読書について引いておく。

《ある日、塚本は本棚から創元社刊の『八木重吉詩集』をとりだし、この詩人について、さかんに鼓吹した。重吉はキリスト者であるようだったが、そんなことより、ぼくら田舎の文学少年にとっては重吉の語法の単純平明であることが好ましかったのだ。そのことは重吉以上に、新潟の農村少年詩人・大関松三郎の詩集『山芋』がぼくらの心をとらえ、三人を夢中にさせた事実からもうかがえるだろう。松三郎のなかでは「虫けら」なんて詩が最高だろうと思うが、当時ぼくらを喜ばせたのは「しょんべん」と題する次のような詩だった。
 どてっぱらで しょんべんしたら
 しょんべんが白い頭をして
 によろ によろ
 どてっぱらをおりていった
 へびになって
 にょろにょろ まがっていった》

大関松三郎は昭和十九年南シナ海で載っていた輸送船が撃沈されて戦死した。享年十八。恩師の寒川道夫が昭和二十六年に遺稿詩集として出版したのが『山芋』(百合出版)である。

また、こういうくだりもある。

《そのころ、ぼくは八日市の文英堂書店で大島博光訳『ランボー詩集』を購め、むさぼるように愛読していた。それは国文社刊で、本文紙質は粗末だが、蓑虫の裏皮の張り合わせを連想させるような和紙装、真四角の判型の薄いが瀟洒な一冊だった。そのなかに題名は忘れたが、やはり立ち小便の詩があった。しかも「プーッと一発ヘリオトロープのおまけつきで」などという上品ならざる訳語を伴って、ぼくは次の機会に塚本の部屋にその詩集を持ちこみ、三人でゲラゲラ笑い合った。》

ヘリオトロープが登場するのはランボー詩「夕べの祈り(鈴木創士訳) ORAISON DU SOIR」の最後の連。

 Doux comme le Seigneur du cèdre et des hysopes,
 Je pisse vers les cieux bruns, très haut et très loin,
 Avec l'assentiment des grands héliotropes.

 大きなヒマラヤ杉と小さな柳薄荷[ルビ=ヒソプ]の「主」のように心優しく
 俺は茶色の空に向かって小便する、とても高く、とても遠くに、
 大きなヘリオトロープの同意を得て

鈴木創士訳。ちょっと直訳すぎるかもしれないが、文字面の意味はこれで間違いないのだろうと思う。ビールをたらふく飲んで草原(ハーブ畑か)で放尿した、ということを宗教的な単語をちりばめてコミカルに謳っている。タイトルのオレゾン(祈祷)も、「主 le Seigneur」としてあるのも宗教用語。

例えば金子光晴もランボーを訳している。訳そのものはかなりあやしいのだが、さすが詩人というのか、そこには閃きのようなものが感じられる。この詩(金子訳は「夕ぐれどきのことば」)最後の行はこう訳されていて、なるほどなと思う。

 ーーすばらしいぞ。ヘリオトロープも、大音で助勢しようとは。

川崎の引用している大島訳を持ち合わせないので断言できないが、大島はヘリオトロープを「おなら」と解釈し《同意を得て Avec l'assentiment》をのおまけつきで》というふうに訳した。金子も同じだが、もっと大胆に「大音」としており、ま、これはさすがに誤訳だろうと思うが、このイキの良さは詩人訳ならでは。(大島は金子訳を参考にしたか?)

たぶんごく平凡に文字通り解釈すれば、ランボーから勢いよくほとばしる小便がその足許に生えている大きく育ったヘリオトロープ(時候は夏である)にバシャバシャ降り注いでいる(なにしろ何十杯もビールを飲んでがまんしていたわけだから)、それに対して「同意を得て」が意味をもってくる、そんなところ。

川崎たち文学少年が笑い転げた幸せな時間、それは誤訳のたまものだったのかも知れない(もちろん断定はしませんが)。

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by sumus2013 | 2016-05-07 20:55 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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