林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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失われてゆく、……

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マーティン・J・ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』(山本太郎訳、みすず書房、二〇一五年七月一日)読了。めずらしく医学もの。あまりに身近すぎて知っているようで知らない細菌の世界。

《私たちは、裸眼で見るには小さすぎる微生物の惑星に暮らしている。三〇億年にわたって、細菌は地球上における唯一の生物だった。彼らは、陸地、空、水の隅々までを専有し、化学反応を駆動し、多細胞生物進化のための道を整えていった。私たちが呼吸する酸素や耕す土地、海を支える書物連鎖の網を作り出した。ゆっくりと、しかし、とどまるところを知らない試行錯誤を通して、細菌は複雑で堅固なフィードバック・システムを発明した。それは今日にいたるまで、地球上のすべての生命を支える基本システムとなっている。》

《ヒトの体は三〇兆個の細胞よりなる。一方、ヒトは、ヒトとともに進化してきた一〇〇兆個もの細菌や真菌の住処でもある。

《すべての細菌を合わせると、一人あたり約三ポンド、つまり脳に匹敵する重量の細菌がヒトに常在し、その種は一万に及ぶ。一〇〇〇種以上の動物を有する動物園はアメリカにはない。ヒトの身体の内外に棲む目に見えない「細菌動物園」は、より多様で複雑である。》

う〜ん……正直、そこまでヒトが細菌を飼っているとは、思いも寄らなかった。そして話は歴史的なペニシリンの発見へ。ロンドンの聖メアリー病院で働くスコットランド人アレクサンダー・フレミングの登場である。

《一九二八年八月、フレミングは休暇をとってフランスに出かけた。九月初旬にイギリスに帰ってきたとき、捨て忘れていたペトリ皿が何枚か残っているのを見つけた。ブドウ球菌が接種されたまま、それらの培養皿はフレミングが不在の間放置されていたのだった。フレミングがそれらを破棄しようとしたとき、一枚のペトリ皿が彼の目を引いた。そこには青緑のワタ埃のようなものがまばらに生えていた。パンによく生えるカビの一種、ペニシリウムである。フレミングは、培養皿に密集しているブドウ球菌の菌叢が、そのカビの周囲で消えていることに気づいた。カビの周囲にはある種の環形の細菌不在地ができていた。まるでそこに、ブドウ球菌の増殖を防ぐ何かによって線が引かれたかのように。
 フレミングの訓練された目は、何が起こったかを一瞬にして理解した。カビは、やはりアガロースを好む真菌の一種で、アガロースのなかに広がってブドウ球菌を殺す「物質」を産生していた。この物質は最初に発見された正真正銘の抗生物質であった。

フレミングは実用化には成功しなかった。しかし第二次大戦の勃発とともに殺菌効果を持つ薬剤を開発することが急務となり、その結果ペニシリンに注目が集まる。ペニシリンを産出するカビの収集が熱心に行われた。

《一人の主婦が持ち込んだカビの生えたカンタロープ〔メロンの一種〕が歴史を変えた。このカビは、一ミリリットルあたりペニシリン産生量が二五〇単位にも達した。さらにその変異株のひとつは、一ミリリットルあたり五万単位もの産生量を達成した。今日ペニシリンを産生するすべての株は、この一九四三年のカビの子孫である。》

《私たちヒトにとって、抗生物質は原子爆弾を手に入れたようなものだった。光景は根本的に変った。興味深いことに、両者は同時にもたらされた。一九二〇年代から三〇年代の科学の進歩が、四〇年代の展開をもたらしたのだ。》

《原子爆弾にしても抗生物質にしても、それは道具(手段)であり、人間同士の、あるいはヒトと細菌の間の戦争の根本的な原因はなくなってはいなかったのだ。》

《二〇世紀後半から今日まで続く医学上の偉大な進歩の大半は、抗生物質の開発によって触媒されてきた。その使用が害を及ぼすことなどありえない。少なくともそう見えた。不都合な影響が現れるのは、後のことである。》

不都合な影響……著者は帝王切開のときに用いられる抗生物質が新生児に与える影響、あるいはピロリ菌の功罪について語る。

《ピロリ菌保有率が低下すれば、胃がんの割合は低下するだろう。一方、食道腺がんの割合は上昇する。古典的な意味でのアンフィバイオーシスである。》

また細菌を殲滅する不利益についてこう述べている。

《悪いことには、私たちは「抗生物質の冬」に向かっているのかもしれない。レイチェル。カーソンの『沈黙の春』からの演繹である。そこで彼女は、鳥たちが殺虫剤によって絶滅しうると予測した。私たち人類も今、同じ道をたどろうとしているのだろうか。》

では、どうすればいいのか、今世紀に入ってからフランス政府がとった政策がひとつの示唆となるようだ。それはどんなものか?……ということは本書をお読みいただきたい。




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by sumus2013 | 2016-05-05 17:42 | 古書日録 | Comments(0)
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