林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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花咲く乙女たちのかげにII

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高遠弘美訳、プルースト『失われた時を求めて4 第二編「花咲く乙女たちのかげにII」』(光文社古典新訳文庫、二〇一六年一月二〇日)。ひと月半ほどかかって読了。ざっと読み通すことは簡単ながら、ちびりちびりとナイトキャップの楽しみに読んでいた。だから手製のコラージュ・カバーを着けておいた。これなら元カバーが汚れない。

それにしても、毎度感じることだが、この話をここまで引き延ばせる饒舌さ(というのとも少し違うが、基本的には饒舌体と言っていいだろう)には舌を巻く。

海岸のリゾート地へ保養に来た主人公の青年「私」が堤防を散歩する美少女たちを見かけ、知り合いになりたくてやきもきし、やっと友達付き合いができるようになり、そのなかのとびっきりの美少女と仲良くなって彼女から「ジュ・ヴ・ゼム・ビアン Je vous aime bien」とメモをもらうくらいに接近する……筋だけならばほぼこのくらいの話である。この後にちょっとした山場らしい展開はあるが、それは内緒ということで。

主人公とともにリゾート地における貴族やブルジョアなど、また特にこの巻では使用人やホテルなどの従業員らとの関係も前半ではかなり言及されているため、その時代状況を青年の鋭敏すぎる感性で捉えた彼等の織りなす時空を超えた世界にどっぷりと浸れる。小さなピースが組み合わされて大きな世界が描き出されているジグソーパズルのようにひとつひとつの些細な描写がだんだんと意味を持って来るところがプルーストの非凡な構想力であり着眼であろう。むろん文章の巧みさもある。

わざとフランス語で引用した上の「Je vous aime bien」の意味はちょっと注意しておく必要がある。高遠氏の解説を示しておこう。

《原文は、Je vous aime bien。「愛している」「好きである」という動詞の aimer について若干説明しておきたい。まずは英語の you にあたる vous だが、丁寧表現の一種であり、親しければ te(t')となる。まずはこの代名詞だけでも日本語の「愛してる」とは違うことはわかるが、さらに忘れてならないのは、bien という副詞である。英語の well などに相応する単語ということもあって、「好きよ」としている訳もあるが、じつは単に aimer を使うより意味が弱くなる。つまり、この原文は「愛してる」とは違って「あなた、感じがいいわね」「あなたのこと、嫌いじゃないわ」というニュアンスが強まるので、そこを押さえておかないと、この先の展開を理解する際にも影響が出るかも知れない。》(訳註495)

ということで「あなたのこと、嫌いじゃないわ」と訳されている。これはフランス語と少し深く付き合うとすぐ分るニュアンスながら本巻ではキーポイントなのである。それは読んで行くとはっきり分るように設計されている。そのあたりの巧みさには推理小説の伏線のような趣さえある。『失われた時を求めて3』の感想で「ギリギリの感じ」と書いたのはこんなテクニックに対する微妙さも含めてのこと。

本書のタイトル「花咲く乙女たちのかげに」にもそういう感じがつきまとう。本書巻末の詳細な「読書ガイド」で高遠氏は次のようなエピソードを引いておられる。

《一九〇八年にカブールで親しくなったマルセル・プラントヴィーニュ(Marcel Plantevigne)が『マルセル・プルーストとともに』(ニゼ書店。一九六六年)で書いているところによれば、プルーストからこのタイトルを聞いた際プラントヴィーニュは「お針子たちの読む大衆小説(roman feuilleton pour midinettes)みたいですね」という感想をプルーストに伝えたという。》

そういうことなのだ。もちろんお針子ならすぐに投げ出してしまうだろうが、敢えてそんな一見軽薄なタイトルを選ぶのがプルーストなのではないか(「失われた時を求めて」も同様だ)。ただしタイトルの含む真の意味について訳者はさすがに鋭い読みを披露しておられる。そういうふうに説明されるとなるほどそんな深い意味がこめられているのかと納得させられてしまった。

納得ということでは、上記の訳註495 という数字でも分るように(本巻には543までの訳註がある)懇切丁寧な解説がページ毎に施されており(巻末ではなく。フランスのペーパーバックは同じような註の付け方をしている)、とくに図版による実例が多く提示されているため、小説世界が眼前に展開しているかのように錯覚する大きな助けになることは間違いないと思う。

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by sumus2013 | 2016-03-07 21:15 | おすすめ本棚 | Comments(4)
Commented by romitak at 2016-03-08 14:05
林哲夫様。素晴らしい評をお書き頂き,恐縮するとともに、今後も努力を重ねてゆく力を与へて頂いたやうな気がしてをります。伏して御礼を申し上げます。これからも完結に向けて歩んで参ります。どうかよろしくお願ひいたします。
Commented by yf at 2016-03-08 16:39 x
 この光文社古典文庫の表紙を書いて居る男が、湯川書房の仕事をよくした「望月通陽」で「ホンマに本を読んで描いているのかな」と思う時もありますが、彼はこつこつと勉強し、本をよく読んでいることに感心致します。先年、静岡の美術館で小生の敬愛する「二見彰一」さんの全作品展が開かれた時、初めて彼の家を訪れた感激は忘れられません。個人的な事を書きました、お許し下さい。
Commented by sumus2013 at 2016-03-08 19:47
romitak様 もう読み終わってしまったという感じです。しばらく置いて、また読み返したいと思っています。無事完結を心よりお祈りしております。くれぐれも御自愛のほどを。
Commented by sumus2013 at 2016-03-08 19:50
yf様 望月様のこのお仕事、文庫カバーの世界に新風を吹き込んだと思います。気温差のはげしい日日がつづきます。くれぐれもお大事に。
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