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孤島の鬼江戸川乱歩『孤島の鬼』(書肆盛林堂、二〇一六年二月二七日) 久々に江戸川乱歩を堪能した。エロ・グロ・ナンセスとはよく言ったもので昭和が始まったばかりの何とも混沌としたキマエラのような時代にこのようなキメラ小説をものした乱歩の才能を讃えずにはいられない。こんな小説をよくも発表できたものだ(発表どころか戦前に四度=四社から単行本化されている)。 美男美女の恋愛が発端。語り手の愛した女性が心臓ひと突きに殺害される。密室殺人。その捜査を依頼した探偵が海岸で殺される。衆人環視のなか。シチュエーションの対照が妙である。しかしこれはほんのプロローグ……謎を追い続けるうちに主人公たちは思いもかけない地獄図絵をのぞくことになる。通奏低音となっている同性愛のスパイスも利いている。まさにシメール、そしてシメリック(まぼろしの)な悪夢である。 それでいながら作中で語られるおぞましい描写がなぜか現代日本の世相にピッタリと符合しているのに気づいて愕然とする。このネタはついこの間報道されていた幼児虐待ではないか……この意味ではシメリックどころかリアルすぎる発想。やや強引なところ、論理的な補強が弱い部分のなきにしもあらずながらインディジョーンズのようなラストまで息をつかせない。傑作というのとは少し違うかもしれないが、なりふり構わぬ乱歩の力技と言えよう。 本書は《何も足さない何も引かないテキストを得るため》(善渡爾宗衛)に初出雑誌『朝日』(博文館、一九二九年)に最も近い『孤島の鬼』(改造社、一九三〇年)を底本とし旧字旧かな総ルビを採用。これも自ずから異端の雰囲気を高める。今年これまでに読んだ小説ではインパクトNo.1だ。
by sumus2013
| 2016-02-29 20:14
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