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剣の舞Salim Jay『Merci Roland Topor』(Fayard, 2014)読み終わる。著者は晩年のトポールと交遊があったようで、トポールの息子、妹らの他、多くの著名人や市井の人々からトポールについての思い出を引き出している。印象に残った文章を少し引用しておきたい。 《サヴォワ、一九四三年頃、エレーヌとローランは葡萄を摘んでいた。「おにいちゃん、父さんと母さんのために神様にお祈りしましょう」と妹が言った。無駄だよと兄は答えた。「ばかだなあ、神様なんていないんだよ。今朝のミサのとき僕は神様にクソ喰らえって言ったんだぜ、もし神様がいるなら、とっくに罰を受けてるよ! なんともないってことは、神様はいないんだ」》 トポール兄妹はナチに捕まらないようにパリを出てフランスの地方を転々としていた。一九四三年ならトポールは五歳だ。父アブラムは強制収容所へ送られたが、かろうじて脱出に成功したそうだ。パリの四区、五区、六区あたりにはユダヤ人の犠牲者たちを追悼するモニュメントがあちこちに見られる。七十年たったから忘れる、というようなものではない。 《『方法序説』の削除によるトポール流の解体は不条理と同じくらい絶対的な過激さによる行為だった。だが、不条理はおそらくトポールが信じた絶対唯一のものである。》 トポール、不条理(absurde)を信じる、ゆえにトポールあり。 《ーーあなたはコレクションへの情熱をお持ちですか? いや、実際、私が執着しているのは父親の絵と友人たちの絵だけだよ。》 《人生の最初の段階では、好きな本、レコード、絵などに取り囲まれたテリトリーを自分のまわりに作るものだが、それについては三万六千通りの言い訳ができるのさ。》 トポールはポーランド語で「斧」の意味だそうだ。トポールの父アブラムは画家を目指してワルシャワからパリへやってきた。しかし、生活のために絵に専念することはできなかった。晩年にいたってナイーフな(アンリ・ルッソーにやや似た)風景画を数多く残し、回顧展も開催されている。トポールは父の絵を非常に愛したようである。 サン・ポールからメトロに乗ってシャトレで乗り換えた。シャトレは多数の路線が交差する広い駅である。そのなかでも地下通路が交差し、売店がある、ここの場所を通ると、たいてい誰かが演奏をしている。今日は小編成のオーケストラがハチャトリアンの「剣の舞」をやっていた。なかなか堂に入った演奏で(CDも出しているくらい)通行人の多くが足を止めていた。「剣の舞」というのはクルド人の戦いの舞いだという。
by sumus2013
| 2015-10-30 04:23
| 古書日録
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