林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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芸術の意味

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ハーバート・リード『The Meaning of Art』(Pelican Book, Penguin Books, 1964)と同書の和訳『芸術の意味』(瀧口修造訳、みすず・ぶっくす、一九五九年三月二五日)。原著の初版は一九三一年にフェーバー&フェーバー刊。ペリカン叢書初版は一九四九年。瀧口訳に先立って足立重訳『芸術の意味』(伊藤書店、一九三九年)がある。

BBC放送局の週刊誌『リスナー』に連載された美術論というだけあって、一般にも分りやすいように書かれている。ただ元号で言えば昭和六年の本である、古さは覆い難い。ウィリアム・ブレークはほとんど無名だったそうだし、シュルレアリスムが一般に認められておらず真面目に受け取られていないダリの作品をヒエロニムス・ボッシュと比較しながら擁護しているところには苦心がうかがえる。

90項目あるうちの88「芸術と社会」より

《ここでもまた、ギリシア人はわれわれより賢明であった。われわれには逆説のように思われるが、美は道徳的な善である、という彼らの信念は本当に単純な心理なのである。唯一の罪悪は醜であり、そしてもしわれわれがこのことを全人生について信ずるならば、人間の他の精神活動のすべてはおのずから処理されるだろう。これが経済学よりも哲学よりも芸術の方をはるかに意義があると私が信ずる理由なのである。芸術は人間の精神的なヴィジョンの直接の尺度である。そのヴィジョンが公共的なものであれば、それは宗教となる。》

あるいは89「造形の意志」より

《芸術家は共同社会に依存するーー調子、テンポ、激しさなど、いずれも自分の属している社会から求められる。しかし芸術家の仕事の個人的な性格はそれ以上のものに負うている。それは芸術家の個性の反映である明確な「造形の意志」によるものであって、この創造的な意志の活動なくして意義ある芸術は存在しない。》

これだけでもだいたいリードの芸術観は理解できそうだ。「訳者のノート」によれば

《もっとも大きな影響をうけたのはフロイトの精神分析の学説であり、特にユングの集団的な無意識、超自我の仮設であったことはいうまでもない。こうしてリードのいわゆる発生的批評の立場が生まれているのであるが、そこからまた芸術の本質を本能的で自律的なものとし、芸術を現実的で合理的なすべての統制に対して優先させようとする絶対主義にみちびき、社会政治思想としては一種のアナーキズムに結びついているようである。》

とのことで、二十世紀の後半にも引き継がれる考え方であろう。上の訳文、僭越ながら、よく訳せていると感心するのだが、「ヴィジョン」という単語をそのまま使っているのに「?」と思ったところ「訳者のノート」に訳語についての断り書きが添えてあった。

《その他、ヴィジョンなども訳しにくい言葉の一つであろう。ここでは視覚と訳したり、まれに幻像と訳した場合もあるが、そのまま用いた場合もある。》

たしかにここのヴィジョンは訳しにくい。また

《ここで「芸術」と訳されている art という言葉は、一般に造形芸術ないしは視覚芸術の意味に用いられている。つまり日本語の美術にあたるわけであるが、この美術に相当するファイン・アート(フランス語のボー・ザール)は今日ではほとんど用いられていないのである。「美術」といえばそれに対応する「応用美術」がすぐ連想されるからであるし、また美という既成の観念を絶対的なものとする前提のもとに使いふるされたこの言葉はいかにもアカデミックな用語として排除されるようになったからである。》

とも書かれているけれど、これもまた時代を感じさせる語釈であろう。「美術」といえばそれに対応する「応用美術」がすぐ連想される》ことはないだろうし、またアーティスト(とくに現代美術作家)を「美術家」と呼ぶ風潮が二十世紀末頃から一般的になったように思うからだ。リードは本書においてほぼ絵画と彫刻しか取り上げていないのだから『芸術の意味』ではそれこそ意味が違っているかもしれない。


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by sumus2013 | 2015-09-08 21:39 | 古書日録 | Comments(2)
Commented by 牛津 at 2015-09-08 23:34 x
増野正衛先生から何冊かのリードの本をいただいて、駸々堂へ駆け込んだのはもう何年前だろうか。先生は「リードは残らないね」とこともなげに言われた。リードを数冊訳されている先生にしては意外な言葉であったので、真意を聞くと「モームほど面白くないもの」という応え。新潮社のモーム全集を手掛けられていた先生は心のなかでいつもリードとモームを比べていたのか?
 古書から言うと先生の予言は当たっていなくもない。谷町古書会でリードの訳書が1冊100円でほぼすべて出ていたが、誰も触れようともしない。モームはすぐに売れた。全集の古書価も高いようだ。
Commented by sumus2013 at 2015-09-09 08:37
21世紀の現在からすると内容は物足りないですね。古書価は正直だと思います。
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