林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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北園克衛「古本」

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中村書店主中村三千夫のエッセイ「古本屋から見た文学」に《詩人の北園克衛さんが「自分たちが苦労して費用をかけて造つた本を中村書店ごとき古本屋が途方もない高い値をつけて売りさばいている」という趣旨のことをお書きになり》とあったことを先日紹介した(http://sumus2013.exblog.jp/24121714/)。ある方よりその北園の発言の出典と思われる『古書月報』(一九六一年九月号)のコピーを頂戴したので紹介しておく。

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「古本」というタイトルである。二頁にわたっているが、一頁目だけを出しておく。北園は最近、新刊もあまり読まなくなり、古本もほとんど探しまわることがなくなったと始めている。しかし月々寄贈されてくる詩集はたまる一方で、その重さで戸や障子が歪んでしまう。決心してそれらを売り払うことにした。

《しかし、考えてみると、僕のところで塵にまみれさせて置くよりも、古本屋の店頭に置いた方が、出版者の主旨に沿うものかもしれないのだ。》

古本屋で献辞を切り取った詩集に出会うことがあるが、あれは感心しない。

《そういうわけで、僕が詩集を古本屋に売る時には、献辞はそのままにして、売ることにしている。これが詩集の著者に対するせめてもの礼儀のつもりである。》

まったく同感である。たしか中原中也が古本屋で佐藤春夫宛に献呈した自分の詩集を見つける話があったと思うが、明らかに本よりも献辞の方が貴重なのである。

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《古本屋の店先によく、十円、二十円の捨て値の本が置いてあるが、僕はそういう本を漁るのが好きだ。敗戦前後に出版されたセンカ紙の本のなかには珍重すべき内容のものがすくなくないが、そういう本がただ同様の値段で手にはいることがある。絶版の文庫本、訳者のちゃんとした珍書、奇書など、僕にとってあの均一本の山は魅力に充ちた漁場である。》

北園はかなりの古書通だった。「敗戦」とはっきり書いているところも気に入った。

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《僕はこれまでに丁度二十冊の詩集を出したことになるが、一冊も印税をもらったことがない。そしてその部数といえば百部から三百部止りのものであるが、売れるのはその半分にも充たないようである。にもかかはらず造本好きの出版屋の主人たちは二冊三冊と希望通りの詩集を出版してくれた。そういうわけで僕はこれまで、自分の詩集を自費で出したものは「鯤」という詩集が一冊あるだけである。これは詩人にとっては最上の幸運といってよいことかもしれない。そういうわけでボン書店、昭森社、国文社などにすくなからぬ損害をかけてきたわけである。》

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《今日僕の古い詩集を買をうとすると、十倍が百倍でも簡単に手に入らないそうである。そういうことを聞くとおかしくなったり、気の毒になったりもするが、商品にならない詩集を気前よく出版してくれた人々に対して少しばかり義理を済ませたような気がしないでもない。だが大いに儲けているのは中村書店くらいのもので新しい詩集を出してくれた人々ではないということは何とも皮肉な話である。》

図版として挿入したハヤカワ・ミステリ文庫のカバーは北園克衛のデザインである。金澤一志氏によれば

ハヤカワ・ミステリー文庫が創刊された1976年4月、クイーンの『十日間の不思議』『緋文字』『最後の女』またロアルド・ダール『あなたに似た人』ハリイ・ケメルマン『金曜日ラビは寝坊した』などのカバーがデザインされてから、以後亡くなるまでシリーズの多くを北園が手がけた。病床で最後まで作業していたのがハヤカワの仕事だったという。》(『SD』431号、二〇〇〇年八月号)

最近はブックオフでもほとんど見かけなくなったように思うが、北園克衛のもっともポピュラーな仕事であろう。発行部数も刷数も詩集とは比較にならない……改めて記すのもおこがましいか。

『EQMM』の北園克衛

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by sumus2013 | 2015-06-22 20:32 | 古書日録 | Comments(1)
Commented by 岩田 at 2015-06-23 08:05 x
興味深い逸話でありました。
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