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アスタルテ書房誄今年の初め頃に撮らせてもらったアスタルテ書房。結局、最後にお会いしたのはすでに書いたように五月十六日になってしまった。五月八日に泉鏡花記念館で行われた澁澤龍子さんのトーク「澁澤達彦との日々」に金沢まで出掛けたと楽しそうに話しておられた。日本酒が安くてうまかったそうだ。その無理がたたったわけでもないのだろうが、医者からすぐに入院するように言われているとも。ちょっと待って欲しいと入院を延期してもらっている、肺炎が悪化すると命にかかわる……という言葉通り咳き込む回数が多かったのが気になったのだが、まさかこんなに早いとは想像もしていなかった。 昔の切り抜きを探し出した。一九九一年一月二九日付朝日新聞夕刊「現代人物誌 アスタルテ書房佐々木一彌[ささきかずや]さん」(文・黛哲郎、写真・住友惇)。 《大衆文化の洪水の中にあっておよそ「反時代的」に生きる。三十七歳の若さを考えれば、まことに珍しい存在》 《並ぶ書物もなかなかの凝りようで、シュールレアリスム関係を主に、みなひと癖あるものばかり。海の向こうのバタイユ、ブルトン、マンディアルグ、あるいは荷風、露伴、紅葉、鏡花、谷崎、三島……等々と、あるじの好みを映し出す。 亡き文学者の澁澤龍彦が、これらの書物をじっと見て「ひとに売るのは惜しい」といったとか。この一言がアスタルテ書房を説き明かす。》 《「ここへくる前に河原町三条でやっていたんですが、その時は看板もあった。そこである程度の顧客をつかんで、こういうぼくのやり方に賛同してくれることが営業的にもわかったんです」 「お客さんの大体は東京で、地元では生田耕作さん(京大名誉教授)ぐらい。広告は出さないという方針を守っているのは、いちげんでこられても困るから。経験からいえるが、店で中年のおばさんなんかにワイワイ別の話をされたり。精神衛生上もわるい。それなら知ってる人だけでいいじゃないか、と」》 河原町三条の店は広かった。そこではたしか生田耕作肝入りの宇崎純一展なども開催されたはずだ(現在の店舗は当時の住居だった)。小生が伏見区に住んでいた頃で、思い返せばいろいろな出来事があった。「広告は出さない」というものの数え切れないほどの各種媒体の記事に取り上げられてきた。百円均一の文庫本や雑本も少しは並んでいたが、それは若い人が来ても何か買えるものがあった方がいいという配慮だと聞いた。反時代的にして心優しい古書店主だった。
by sumus2013
| 2015-06-18 21:48
| 古書日録
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Comments(2)
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