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ホシナ大探偵押川春浪『険奇探偵小説 ホシナ大探偵』の元本は大正二年に大学書院から刊行された。ながらく幻とされていたが、国会図書館の未整理本のなかから発見され横田順彌氏によって世に紹介されたのだそうだ。原作はコナン・ドイルの「レディ・フランシス・カーファクスの失踪」(『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』所収)で、人名・地名とも日本のものに置き換えられている。 《「ハハア、京都だな」 疾風(はやかぜ)のホシナと呼ばれた保科大探偵は、何んと思ったか凝乎(じっ)と僕の長靴を見詰めて居たが、唐突(だしぬけ)に此様な質問を発した。恰度(ちょうど)その時、僕は安楽椅子に凭り掛かって、ダラリと脚を投げ出して居たのだが、大探偵は一心に僕の長靴を見詰めて居るので、之はテッキリ長靴の問題だなと思い、少し首を擡げて、 「串戯(じょうだん)じゃないよ、之れでも舶来だぜ、巴里(パリー)で仕込んで来たのだよ」 と、僕が聊(いささ)かムッとして恁(こ)う答えると、保科大探偵は俄かに微笑を唇辺に湛え乍ら 「イヤ君浴(ゆ)の事だよ、京都の上方浴だろと言うんだ、君は何故粋(いなせ)な江戸名物の銭湯に入らずに、贅沢な、ハイカラな上方浴なんぞへ行くのだと聞くのだよ」》 ……なるほど、シャーロックお得意の観察眼の鋭さを示す描写から入っている。小ネタで惹き付けておいて、いざそこから誘拐された令嬢の行方を追う旅が始まるという仕掛け。 もう一篇収録されているのは「武侠探偵小説 大那翁(だいナポレオン)の金冠」。『武侠世界』大正二年一月号から三月号にかけて連載された作品である。こちらもシャーロックの「ボヘミアの醜聞」と「赤毛連盟」の要素を組み合わせて新たなストーリーを作り出した翻案もの。パリで日本人の探偵が活躍するというのだから痛快きわまりない。 《本書は、日本でも有数のシャーロック・ホームズ研究家である北原尚彦氏に「盛林堂ミステリアス文庫でホームズを……」と相談したことから始まった。するとなんと押川春浪によるホームズの翻案があり、しかもそれらは復刊・復刻されておらず読むことが難しい状態にあるという。それでは是非に、と本レーベルからの復刊の運びとなった。》(あとがきにかえて) 正直、二篇ともストーリーや展開には古めかしさが隠せないものの(古すぎて新しいとも言えそうなくらい)、だからこそ、それはある意味、明治から大正にかけての日本人(の少年たち)がどんな物語、どんな野望にワクワクしたのか、ということをハッキリ教えてくれるドキュメントになっていると思う。
by sumus2013
| 2015-03-23 21:06
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