林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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煎茶道

f0307792_19060850.jpg

京都では店先に安い色紙や短冊を積み重ねている書画屋が何軒かある。ときおりざっとめくってみたりするのだが、さすがにいくら安くても買おうとまで思う品物は見つからず、最近はほとんど通り過ぎている(そういう手間を惜しんではいけないと思いつつ)。この色紙は書画屋ではなく古本屋にて。字も絵も文字通りの意味で「上手い」とは言えないが、ひとつのスタイルとして素直な味がある。なんとはなく手放し難い気がして求めることにした。喫茶店のコーヒー一杯よりも安い。

文言は見ての通りで難しいところはないだろう。署名が「煎茶道人」、印は「濤香軒」と「泰山」。検索してみると下記のようなページが見つかった。

煎茶道泰山流のご紹介
http://www.nishide.com/taizanryu/taizanryuu.html

《崩場泰山氏を初代家元とする煎茶道の一流派。泰山氏は1914年に石川県で生まれ、京都に出て働きながら茶道の修行に励み20代半ばにして独立を決意。現在の流派をおこされました。現在は初代の奥様の椿山氏が2代家元を継承されています。》

崩場泰山(一九一四〜九四)の色紙であった。ということでこれ以上語るべき言葉もないため、もう一点、煎茶つながり、中島庸介『煎茶道』(芸艸堂出版部、一九四七年七月二〇日、装幀=松林桂月)を紹介しておこう。

f0307792_19061070.jpg

著者の中島庸介については伯父(叔父?)の城齋が「跋」において以下のように書いている。

《君の家系を繹ぬれば家代々由緒ある甲冑刀剣商にして、殊に祖父與三郎氏は、鑑識力に富み、福井大藩に在りては、同業なきにあらざれども、当時氏と肩を比ぶる程の業者は無かりき。祖父没し、時世推移し、父藤蔵氏が家を嗣ぎたる頃は、世の中全く一変して、刀剣薙刀の如きは良否善悪の差別を失ひ、殆ど世に棄てられ、二束三文とも云ふ時代を見るに至る。之が為め藤蔵氏は蹶然起つて家郷を去り、東京に出て、京橋大鋸町に店舗を開き、専ら骨董品のみを商とし、傍ら自得の鑑定をも為して、他の幾多同業者にも便宜を謀り、共存共栄を以て専ら任じたる結果は、業者同士よりも多大の推重せらるる所となり、隠然乃公株たりしが、中途不治の病症に罹り、齢知名の越せしばかりにて歿せしは今猶ほ知る人は惜しみて止まざる所なり。
 庸介君、父の後を襲ひ、少壮の頃二十年間は家業の恢復容易に成らず、あらゆる困苦欠乏に耐へ、奮闘を重ねたる状態は、血の涙を以てせざれば到底語り尽せぬものあり、去れども君の不撓不屈なる努力は遂に酬いられて今や漸く家業の中興を見るに至り、勢力隆々たるは、父祖に対する一大面目と云ふべきなり。

骨董商(茶道具商か)のようである。しかし内容を読むとかなり茶の文献に通じており勉強家だということが分る。茶の起原から説き起こし、日本の茶道、茶の効用、煎茶と抹茶そして近世の煎茶を愛好した文人たちを並べてあり、簡潔な記述はちょっとした茶道虎の巻の感あり。

いろいろ引用の誘惑にかられるくだりはあるのだが、ここでは抹茶に対して煎茶道の利点を説いた文章を引いておくだけにとどめる。

《煎茶の方は、式も簡素であり、打寛ろぎ、打解けて、これを味ひ楽しみ、抹茶のように一つの道具を拝見するにも思つたことを率直に言ふことを差控えるなどといふ窮屈さがない。これが抹茶より煎茶が喜ばれたわけで、気の合つた人々が寄り集つて、清談を交はし、風流を語りあひ、時には書画を持ち寄つて鑑賞し、或は琴など弾き、碁を囲み、棋を闘はすなど、所謂琴棋書画の清興をそのまゝに行くといふことなど、煎茶でなければ味はへぬところである。

 かうした処から、書画骨董に対する趣味などは、自然深くなり、お互に腹蔵なく思ひのまゝを語り合ふといふ点が、自から鑑賞眼を高めてゆくといふことになる、さりとて煎茶道は、決して富貴有閑の人々に限られて行はれるものではなく、茶器の如きも、高下を論ぜず、茶器でさへあれば、如何なるものを用ひても、その心構へ立派なら、其の真髄を味ひ得るといふ特長がある。この点が文人墨客などに喜ばれて、売茶翁の流れを汲む人々が続々と現はれ、流派と称するものも、今日では二十有余を数ふるに至つたわけである。》

腹蔵なく思ひのまゝを語り合ふ」のに「高下を論ぜず、茶器でさへあれば、如何なるものを用ひても」いいというのは、なかなかに微妙な表現ではある。この後さらに実際に即して煎茶の優れた点を数え上げているが、それは略する。なかなかいい本である。たしか知恩寺で五十円だった。






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by sumus2013 | 2015-03-02 20:36 | 喫茶店の時代 | Comments(0)
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