林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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父の帽子

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森茉莉『父の帽子』(筑摩書房、一九五七年一〇月二五日四版)を某氏より頂戴した。深謝です。筑摩書房の本である。装幀者は明記されていないが、吉岡実だろう。この翌年に出た『靴の音』(筑摩書房)は拙著『文字力100』(みずのわ出版、二〇〇六年)にも選んだくらいだからちゃんと読んだ。ところがなぜかこの本はまだ手にしていなかった。小堀杏奴の回想を取り上げたので姉の本も。ちょうど読みどきである。

茉莉は杏奴より六つ上。よって鴎外に対する印象あるいは観察はかなり異なっている。性格的にも二人はかけ離れた感じを受ける。それぞれの父親(二人とも「パッパ」と呼んでいた。鴎外は茉莉のことを「おまり」、杏奴のことを「アンヌコ」と呼んだ)であり、それぞれの自画像である。

さすが鴎外、読書ばかりしていたとみえる。

《下の部屋部屋はいつも、静かだつた。夏の真昼、蝉の声に囲まれた家の中を歩いて、東の端の部屋へいくと、父が本を読んでゐた。白い縮(ちぢっみ)の襯衣(シヤツ)と、同じ洋袴下(ズボンした)を着た父は膝を揃へて坐り、疊に肱をついてゐる。開いた本の頁の端を象牙色の手が軽く、抑へてゐる。余り深く截(き)らない真白な爪をつけた指が、本の頁を持つてめくる。白い、ザラザラした紙の上には黒いかぶと虫のやうな字が、虫の喰つた跡のやうな模様を白く残してきつちりと並んでゐる。薄緑や薔薇色に光る貝殻の灰皿の上には、白い灰の積つた葉巻が、載つてゐる。襯衣の背中に顔をつけると、洗つたばかりのやうな清潔な皮膚の匂ひがした。》(幼い日々)

家の中だけでなく外でも読書していた。

《或時は私達は植物園にゐた。父は東屋(あづまや)のベンチに膝を曲げて横になり、麦藁帽子の下に半ば顔を見せて、本を読んでゐた。私達は芝生の中の小さな花を摘んだり駆け廻つたりするのに厭きると、黒い木立の底に光つてゐる池の方へ駆け下りたりしてゐた。或時は夏座敷の真中に父は肱を突いて低く坐り、本を読んでゐた。傍に白い大きな茶碗にチョコレエトが半分飲んで置いてあることもある。》(父と私)

白鬚神社(墨田区東向島)の後ろにあった祖父や不律(幼くして死んだ次男)の墓へ詣でるときには蒸気船に乗った。船中で本の行商人に出会う。

《やがて船は、びつくりするやうな大きな音を立てて、水の上を動き出した。少し経つとゴツゴツした地味な着物に、同じやうな羽織を着た男が、何處からか起ち上つて来て通路に立ち、いろいろな本を代り代りに包みから出してはバタバタと、手で敲いたり、二三冊一緒にして、扇のやうに重ねて高く差しあげたりしながら、うるさい声で説明をし始めた。「えゝ」「えゝ」と、間々に挟みながら、二冊で何銭、三冊で何銭と重ねてゆき、十冊位重ねてからポンポンとはたいた。あとからあとから出して来る手品のやうな手つきや、早口な口上を、私はいつも見て居た。石見重太郎狒狒退治、塚原卜伝の鍋蓋試合ひ、又は日本海海戦の何々といふやうな本の名を、勇ましさうに声を張りあげて言つたりする。男は散散怒鳴つたり敲いたりすると、本を片づけ、外へ出て行つた。》(幼い日々)

このくだりはよく書けている。川蒸気に乗り込んだ気分。他にもミュンヘンの大きな書店へ夫山田珠樹とともに入り、そこで父親のことを想う場面(「棘」)もなかなかいいものだ。







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by sumus2013 | 2015-02-13 20:54 | 古書日録 | Comments(0)
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