林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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風が起る!

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村上菊一郎編『仏蘭西詩集』(青磁社、一九四三年一月二〇日、普及版)。青柳瑞穂訳マルドロオルの歌』を取り上げたとき、文芸文庫版のマルドロオルの歌』を引き合いに出した。そのとき紹介しようと思いつつ長くなるので止めたのが同書に収められている塚本邦雄の随想に見える次のくだりである。塚本は昭和二十三年に青磁社の青柳訳マルドロオルの歌』(文庫版)に出会ったことを叙してこう続ける。

《青磁社の本は他にもなお手許にある。昭和十八年一月二十日刊、村上菊一郎編、定価二円五十銭也の『仏蘭西詩集』、同年同月同日同値で発行された、菱山修三編のやや頁数の多い、B6判『続仏蘭西詩集』、これらはすべて戦中戦後の、私の有つて無い「青春」の形見に他ならぬ。》(「マルドロールのマルグリット」)

ということでこの本がその青春の形見なのである。本書にはもうひとつひっかかりがあった。というか以前堀辰雄『聖家族』を取り上げたときに「風立ちぬ」の原文と訳文を掲げておいた。

ヴァレリーの「海辺の墓地」
http://sumus.exblog.jp/20092039/

訳文は桑島玄二の文章から引いたのだが、《桑島は菱山修三訳『海辺の墓地』(椎の木社)を古本屋で見つけ、いつも小脇に抱えていたそうだから、そこからの引用だろうか(?)》と疑問符を付けておいた。その菱山訳「海辺の墓地」が本書に収録されている。その長い詩の最後の一連に「風立ちぬ」の原文に相当するフレーズがある。

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 風が起る!……今こそ強く生きなければならぬ!

とこれが菱山訳である。《今こそ強く》などという副詞は原文にはない。だから桑島は単に《生きなければならぬ!》とした。ということは桑島の引用した訳文は菱山訳を元にした桑島訳だったと見ていいだろう(だから出典の記載がなかったのだ)。上の写真の次の頁に続く末尾の二行はこうである。

 破れ、波濤よ! 打ち破れ、踊り立つ波がしらで
 すなどりの帆舟の行きかふこのしづかな甍を!

 Rompez, vagues! Rompez d'eaux réjouies
 Ce toit tranquille où picoraient des focs!

踊り立つ波がしら》とは思い切った意訳ではないか。堀口大學といい、この時代の人達は忠実に言葉を移すよりも日本語の感覚を大事にして翻訳した、それは理解できる。しかし、ここまでくると誤訳としか思えない。réjouies は「陽気な」で eaux は「水(海)」であって「波」ではないだろう。桑島も《打ち破れ、歓喜の水で、》としている。「すなどり」についてはすでに言及したのでくり返さない。

中味はとにかくとして、この詩集は昭和十八年に刊行されたものとしてはかなり気張った造本である。組版も余白をゆったりと取って読みやすい。印刷そのもはやや荒れた紙質に影響されて上出来とは言えないが、それでもかなり頑張っている。

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継ぎ表紙(背と平とが別の紙になっている)で平の墨流しも効果的である。表4に壺のマークが空押しされている。これも贅沢。

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定価は五円だ。塚本所蔵本と版が違うのだろうか? 五円はかなり高価だろう(ボオドレエル素描集ほどではないが)。巻末「編纂者の言葉」で斎藤は次のように書いている。

《訳詩は厳密な意味では恐らく不可能な仕事に相違ない。しかし、さうかといつて、意味だけを汲んだ安易な訳詩が許されていい道理はない。原著に対する親近の情と詩精神への熱愛の念とが、能く原詩の格調を見事な日本語に移して、本然の詩の姿にまで還元させ得るのである。生来の詩人でなければ出来ないところに訳詩の大きな秘鑰がある。》

たしかに、その兼ね合いが難しい。この後書は昭和十六年夏の日付だ。調べてみると特装版が昭和十六年に刊行されていた。

***

そうそう、遅まきながら宮崎アニメ「風立ちぬ」を観た。う〜ん、どんなものだろう。いいとも悪いとも言えない歯痒い感じが残る。





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by sumus2013 | 2014-11-15 21:43 | 古書日録 | Comments(2)
Commented by 牛津 at 2014-11-15 22:07 x
「風起こる…生きる試みをこそ!」と中井久夫先生は訳されています。そして最後は「砕け、高波、昂まる喜びの水で/三角の帆がついばむ静かな屋根を!」と結ばれています。
Commented by sumus2013 at 2014-11-15 22:17
中井先生、さすがです。
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