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爐邊子随筆抄随筆ではやはり「游牧記後記」が抜群に面白いが、「グロリエ倶楽部のこと」(『英語と英文学』昭和四年新年号)の書き出しも素敵なので少し引用しておこう。改行を一行空きとした。 《亜剌比亜に、とある深山の洞穴のなかの、魔法の書庫に閉じ込められた哲人の話がある。年に一度だけ洞穴の口が開いて外に出られるのである。この哲人はその山の精に命じて、あらゆる玄秘の秘法書を世界の隅々から思いの儘に持って来させた。そして一年の後、洞穴の口が再び開いた時、あらゆる秘儀に通暁して人間界に帰ったと云うのである。 わたくしはときどき(ときどきである。始終ではない。)この哲人のような目に遭いたいとまじめに思うことがある。一年間閉じこめられて、誰にも会えないでも我慢する。何でも欲しい本をみんな手にすることが出来たらどんな気持ちがするだろう。アルドウス版のヰルギリウス、グロリエの手拓本、ル・ガスコン装釘本、エルゼヰル版本、下ってはヰリアム・モリスがケルムスコット本やロウヂャ・ペイン装釘本、コブディン・サンダスンやヰリアム・マシウズが自装本……まあ、その一年の間にわたくしはどのくらい本を集めて帰るだろう。だが、わたくしはこの哲人のように唯「通暁」しただけでは満足は出来ない。みんな持って帰らなければ承知が出来ないであろう。本も内容だけが問題ならばエヴリマンズでも用はたせるのである。 書籍の内容を別として書籍そのものに興味を感じ得る人にだけこの記事を読んで貰いたい。そう云う人にとっては、この記事も多少は興味を惹き得るかも知れぬ。》 以下ニューヨークで結成された書物愛好団体であるところのグロリエ倶楽部についての説明が開始されるわけだが、どうぞそれは本書で堪能いただきたい。それにしてもこんな庄司浅水さんのような洋書趣味はいったいどうやって手に入れたのだろう。昭和四年というとまだ二十二歳になるかならずである(二十五歳で歿するのだから晩年と言えば言えるが)。 年譜によれば大正十年十四歳頃から西条八十、そして日夏耿之介に師事した。日夏邸では石川道雄、岩佐東一郎、燕石猷(岸野知雄)、矢野目源一、城左門、正岡容らの先輩たちと「恐ろしくませた口ぶり」で対等に渡り合ったそうだ。この名前のなかでは岩佐が二歳、城と正岡は三歳、燕石が六歳、石川が七歳、矢野目が十一歳年上である。日夏は十七歳年長、ということはそれでもまだ三十一にしかならない。 長山氏の解説にはこうある。 《自らの書架にグロリエ・クラブ開版の限定本数十冊を所有していた。神田の某古書肆に執行弘道の旧蔵書が出ていたのを日夏が見つけ、欲しいが自分には手が出ないと話したのを、彼が百五十円ほどで買い入れたのだった。後でそれを聞いた野口米次郎は、倍の値段でも高くないといったという。》 なるほど、ただ平井自身が欲しがっているような書物について実際いったいどれほど通じていたのだろうか? かなり背伸びした感じは残るとは思うが、しかし根拠のない自信こそは何かを成し遂げる最大のエネルギーに他ならない。平井が作った雑誌『游牧記』を見ればそれははっきり理解できるように思う。
by sumus2013
| 2014-11-04 20:43
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