林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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『APIED』vol.23。特集;坂口安吾『桜の森の満開の下』他。

Apied

坂口安吾はあまり熱心には読んでいないが、感心したのは「二流の人」と「古都」である。後者はとくに自分自身が伏見稲荷に住んだことがあり、かつ安吾の描く舞台そのものが生活圏にあったのでなおさら印象深い。

《京阪電車の稲荷駅を出た所に、弁当仕出の看板がでゝゐる。手の指す方へ露路を這入ると、まづ石段を降りるやうになり、溝が年中溢れ、陽の目を見ないやうな暗い家がたてこんでゐる。露路は袋小路で、突き当つて曲ると、弁当仕出屋と曖昧旅館が並び、それが、どんづまりになつてゐる。こんな汚い暗い露路へ客がくることがあるのだらうか。家はいくらか傾いた感じで、壁はくづれ、羽目板ははげて、家の中はまつくらだ。客ばかりではない。人が一人迷ひこむことすら有り得ないやうな所であつた。》(古都

小生が住んでいた頃にはまさかこんな雰囲気ではなかったものの、まだまだ込み入った感じのする路地の狭い街並が運河沿いに続いていた。この「古都」について文学散歩を挙行した紀志崇「稲荷前町二十二」を興味深く読んだ。昨年末に伏見稲荷界隈を歩いたそうだ。

《しかし地図には稲荷前町がない
いつも溢れて悪臭の立ちこめる溝などない、おそらく暗渠になって、その上は遊具のある児童公園になっている
「曖昧旅館」はなく、「弁当仕出」の店もない、伏見稲荷大社鳥居の前はコンビニだ、七十六年も経っている》

《ならば稲荷前町二十二の中尾経理士事務所二階「八畳と四畳半で七円」は鳥居前町と疎水沿いの祓川町の間辺り、伏見稲荷前の上田食堂は疎水と京阪稲荷駅西側の一之坪町との間辺りか》

小生も以前、紀志氏と似たような散策をしたことがあるが、この記述を読んでみょうに懐かしい思いにとらわれる。三十年が過ぎ去ったのだから当たり前と言えば当たり前か。


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矢部登『田端抄 其漆』(書肆なたや、二〇一四年一〇月)。今号も田端界隈を舞台に数々の文士や画家たちがいきいきと甦る。心地よく読み進めて裏表紙の刊記とともに

《吾故里田端界隈をめぐる思いはつきぬ。が、宵曲翁へよせる根岸残香にはじまり、柴田宵曲一面が書けたところで、三年間にわたる田端抄の筆を投じる。》

とあるのに気付いて「ああ、もったいない!」と思わずつぶやいた。まだまだ続けていただくか、増補して一本にまとめていただけると有り難いなと思うしだいである。

冒頭、芥川龍之介の「沼地」について触れてこう書かれている。かつて daily-sumus にこの作品を取り上げたことがある。

芥川龍之介『地獄変』
http://sumus.exblog.jp/12405975/

《この大正八年四月作の小品は、じっさいの体験を書いたものかどうかわからぬが、むかし、田端にあった沼を起想させる。
 芥川龍之介旧居跡から切通しの崖みちを駅の方へすこしあるくと東台橋がある。下を自転車がはしる。橋を渡った右側にはアスカタワーと田端文士村記念館があり、崖と江戸坂にかこまれたこのあたりいったいは、いぜん、鉄道病院だった。その建物はおぼえているが、鉄道病院のできるまえは沼地であったという。》

なるほど、芥川はこの沼地をしばしば眺め、自らの文筆で絵を描いたのかもしれない。気が違った画家というのは芥川龍之介自身のことだったのかも知れない。


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『瀬戸内作文連盟』vol.14(瀬戸内作文連盟事務局=香川県高松市西宝町二丁目一〇番地二・一三号、二〇一四年九月二〇日)。

daily-sumus をブログ化したのが二〇〇六年四月。現在、最古の投稿は四月一九日の「花筏かへりみすれど影もなし」(当時はタイトルを拙作俳句で埋めていた!)でこの『瀬戸内作文連盟』vol.1〜3号を蟲文庫さんより頂戴したという話題である。早いもので以来八年と半分が過ぎ去って『瀬戸内作文連盟』は十周年十四号を迎えた。この中途半端な数字は九ヶ月毎の発行という中途半端なインターバルによる。ところが、これは中途半端どころか、毎号発行する季節が変って行くように仕組まれた計算の上で決定されているのだ。そういうこだわりは本の造作の変化を感じさせない変化や、綴じ込み図版における工夫、そして執筆メンバーの選び方によく現れている。出版人出海氏のセンスの良さがそのまま出ていると言えるだろう。

今号の執筆は蟲文庫・田中美穂、出海博史、菊池恵子、白居幸二、能邨陽子の各氏。蟲文庫さんは開店二十年になるそうだ。そうなんだ、もうかなりベテランになってきましたねえ。でも驚いたのは能邨さんが十五年勤めた恵文社一乗寺店を辞めたとあったこと。そう言えば、しばらく行ってないなあ。人生なにごともハロー・グッバイなのである。








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by sumus2013 | 2014-10-01 20:28 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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