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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


さらば、松本八郎さん

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『sumus』7(二〇〇一年九月三〇日)裏表紙


松本八郎さんが亡くなられた。扉野良人氏より留守電が入っていたが、ばたばたしていたため聞いていなかった。今日、個展会場で岡崎氏のブログに書いてありましたと教えられた。松本さんの体調が思わしくないとは聞いていた。しかしまだ急なことではないだろうと希望的に思い込んでいた。今朝、それとも知らず、古本マルシェ用にとスムース文庫の『加能作次郎 三冊の遺著』(二〇〇五年九月一〇日)を会場へ持参したのも虫の知らせだったか……。(後日、九月十九日午前二時十一分に亡くなられたと中尾氏よりお教えいただいた)

上掲の『sumus』第七号には松本八郎さんへのインタビュー記事が掲載されている。小生と山本善行、扉野良人の三人で生い立ちから学生時代、独立するまでの疾風怒濤時代、そして少々自慢の稀覯本についてうかがった。まるで昨日のことのようだ。二〇〇一年六月二五日の日記を引用する。

《9:10の電車で町中へ。10:00少し前に京都ホテル1Fロビー着。松本氏待っていてくれる。そこへ扉野君来る。15分ほどおくれて山本氏。湯川書房に電話してみたが、さすがにまだ出ていないようなので、結局、山本氏宅へ直行することに。タクシーで1280円。松本氏あらかじめ送ってあった宅急便から「エディトリアルデザイン事始」を取り出し三人にくれる。他に中村屋の月餅のおみやげ。こちらは妻の買ってきた黒七味(一子相伝!)と、細川書店の伊藤整「典子の生きかた」をさしあげる。ちょうどどこか目録でハズレたところだったそうでよろこんでもらえる。扉野君には6号20冊と深尾須磨子詩集(一條書房)、「水平の人」。山本氏には文庫大全用の山本文庫原画、「水平の人」。松本さんの少年時代からの話をうかがう。途中13:00ころにおめんで昼食、午後は松本さんの少々自慢としてダヴズプレスの失楽園、FAUST、ヴァンデヴェルデ装本のECCE HOMO(ニーチェ、インゼル)などを見ながら、あれこれ。16:30ころまで。タクシーで三条河原町まで、山本氏は、もう出ているという岡崎さんのチーズとバターを論じた(初版8千部、発行前に1万部増刷が決定したとのこと!)データハウスの本を探しに。四条で、扉野氏と林は下車、松本氏は京都駅まで行って神戸へ向かう。(戸田氏、須川氏と会うそうだ)》

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山本宅の玄関までのアプローチにて(2001)


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2003年2月23日、明倫小学校の談話室にて。
小野高裕氏がドイツで買い求められた
プライベート・プレスの出版物を見せてもらう集り。
参加者はそれぞれ自慢の一冊を持参することになっていた。


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松本さんの自宅書庫。
ゆうパックの段ボール箱が本の収蔵にピッタリだ
とおっしゃってずらりと並べておられた。
松本さんらしいなあと感嘆したことを覚えている。
この書斎が灰と化してしまったというのは何とも残念でならない。
2003年11月18日にお邪魔した。

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2001年11月28日、高田馬場「ねぎし」にて


《[河上進氏とともに]16:15くらいにEDIへ。松本さん「游牧記」4冊を石神井さんより7万円で買ったといって机の上において待っている。若くして死んだ詩人平井功の編集、遺作の第二詩集コピーを出版する資料として購入したというが、なかなか状態のいいもので松本さんコーフン気味。その他中戸川吉二研究者のコピー原稿などをさかなに談論。岡崎氏より直接ねぎしへ向かうという電話。妻より確認の電話。ひぐらしで買った青磁社の本を差し上げる。松本竣介展(神奈川近美、1991)の図録と「少々自慢〜」を一冊もらう。他にEDI叢書の山下三郎も。

17:30に事務所を出てタクシーで高田馬場へ。白夜書房のビルがあり、今はパチンコ本で売っているとのこと。松本さんところへもパチンコ雑誌の編集の話が来たが、ことわったことなど。車中の話。稲門ビルの前で降りたらちょうど妻が来たところだった。階上のねぎしへ。しばらくして岡崎氏来る。塩タン、大根サラダ、ミニピリカラギョーザ、オックステール、コロッケ、むぎめし、とろろ、生ビール。

席上はほとんど松本さんの独演会。パリへ行った話、アメリカへ留学した息子の話、ムサビ助手時代の話。村上龍、長谷川集平がいたころなので当然、妻がいたとき。村上龍の強制退学に挙手したこと。村上、長谷川、と妻の退学者の名前が貼り出されていたと妻。長谷川堯さんを呼んで学生たちの東京建築案内をたのんだこと。単にファンだったからたのんだそうだ。などなど。21:00ころまで。5人で1万4千円で松本さんが1万円払ってくれる。ねぎしはずっとすいていたが20:00をすぎると少し混み出した。ねぎしの入口で写真とる。解散。》


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一九九八年の七月、松本さんが須川バインダリーを訪ねたときにご一緒させてもらった。このとき、扉野良人氏が見つけた(たしか二百円で)加能作次郎の稀覯本『處女時代』を松本さんに自分が見つけたような顔をして渡し、大いに喜んでもらったのが忘れられない。EDIアルヒーフの「大田英茂」をもらったが、亀山巌が欲しかったんですけど…ともらしたら、後日すぐに送ってくれた。そのとき挟まれていた礼状。

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一九九九年六月の日記を引用する。このとき小生は銀座の空想ガレリアで個展をさせてもらっていた。洲之内徹の現代画廊にいた肥後静江さんの画廊である。六月一日。

《松本八郎さん来廊。保昌正夫さんの「滝井孝作抄」というEDIの新刊と、ムサビ時代の同級生(?)の方の作品集をいただく。いずれもピシッとした装本になっている。兵庫県の製本師の人にたのんでいて、東京ではもうできないし、できても高くつくとのこと。こんど文芸文庫にも入らないような作家の作品を集めて叢書化するという企画を進行中で、まず加能作次郎集(保昌さん解説)を出す、他に紅野敏郎氏の編も考えており、ついてはもっと若い人にも編、年譜、解説をと思っているが、文学研究者は読んでもちっとも面白くない、AREの3K特集みたいなのがいい、という話になって、林さんの方で、どなたかやってもらえませんかと来た。それなら今度sumusを創刊しますから、そのグループで相談してやってみましょうということになる。滞在中、一度、面影橋のEDI事務所をたずねてみることにする。》

そして六月八日の午前中にEDI事務所を訪ねた。豪華なのにビックリ。

《[地下鉄]早稲田で下車、穴八幡のところで岡崎さんを待つ。10:00合流。面影橋のパストラルハイムへ。10分少々の歩き。豪華マンション、段々畑式にすその方が平たくつくってある。601のEDIへ。松本八郎氏の事務所。出版物「結城信一と清宮質文」他いくつかいただく。DOVES PRESS のFAUST(並装、ベラム)とPRADISE LOST(生田耕作氏旧蔵)を見せてもらう。新しい叢書の企画書コピーもらう。リリオムのコピーさしあげる。日本全国の国鉄の駅について調べ上げた2巻本(JTB)を見せてもらう。庄司浅水さんと親しかったことをうかがう。11:30ころ退出。岡崎氏は早稲田古本街をまわるというので別れて銀座へ。》


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二〇〇〇年の四月には梅田でお会いした。四月二三日の日記を引用する。『sumus』第三号から松本さんは同人となる。

《15:48分の電車で梅田へ。梁山泊の100円均一でいくつか掘り出す。17:20ころ、加藤京文堂の前で松本さんと会う。しばらくして戸田勝久氏、小野氏と合流。阪急17番街のビル5Fにあるギャラリーアクシズへ。戸田さん、以前個展したことがあり、加藤京文堂の息子さん加藤雄三氏の経営で、紹介される。そこの画廊の女性に教えてもらったイタリアンレストランへ。日ようなのでほとんど閉っていたが、ここだけ開いて、3000円のコースとグラスワインを注文。松本氏には柳原氏の本を差し上げる。松本氏三人に浦安の海苔持参。戸田氏はウィーンの古本屋で買ったジャムの絵本、空中線書局のパンフレット、など出す。さまざまな本の話、印刷の話、小野氏はプラトン社についていろいろ。デザートはなかったので、場所を近くの喫茶店へ移して1時間ほど。エリック・ギルの話題など。凸版印刷の博物館に松本氏はかかわっているそうだ。21:30ころに解散する。》

ああ、この日のことはよく覚えている。阪急梅田駅のエスカレータを降りたところの飲食街の情景がみょうに暗く侘しかった印象だった。なるほど、それは日曜で休んでいた店が多かったせいだったのだ。よくも本の話ばかりを何時間も続けられたものだが、それでもまだ話足りないような気持ちのたかぶりがあった。松本さんの書物と文学への情熱はとにかく熱かった。




by sumus2013 | 2014-09-23 22:10 | 古書日録 | Comments(8)
Commented at 2014-09-22 19:13 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sumus2013 at 2014-09-22 19:37
そういっていただけるとスムースに加わっていただいた甲斐があります。いつも楽しそうに本のことを語っている姿しか思い出せません。
Commented by Kat at 2014-09-23 14:58 x
林さん、松本さんと梅田のワイン屋で話した夜を思いだしました。
プライベートプレスの活字フォントを熱く語っておられた姿が浮かびます。
Commented by sumus2013 at 2014-09-23 20:57
そうでした、よく覚えております。その日の日記の記述を引用しておきます。
Commented by 岡崎武志 at 2014-09-23 22:26 x
ああ、そうだっだなと、詳細な林さんの記述で、あれこれ思い出されます。生き残った者が置いてけぼりを食ったような気分になるのは、歳のせいでしょうか。なれば、われわれ、じたばたしながら、生きていくしかありません。松本さんは、じつに気持ちのいい人でした。
Commented by sumus2013 at 2014-09-23 22:43
まったく同感です。お互いしぶとくいきましょう。
Commented at 2014-10-13 18:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sumus2013 at 2014-10-13 19:44
こちらこそ御無沙汰いたしております。もちろんリンクしてくださって結構です。いずれまたもう一仕事されるときがきっと来ると思っていたのですが…無念です。
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