林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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新月

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タアゴル『新月 幼児詩集』(増野三良訳、東雲堂書店、一九一六年六月一日再版、装幀=富本憲吉)を取り出した。初版は一九一五年(大正四)。増野は他に『園丁 印度新抒情詩集』(東雲堂書店、一九一五年)と『ギタンヂヤリ 印度新詩集』東雲堂書店、一九一六年)を刊行しているが、同時期に加藤朝鳥の訳詩集も出ているから、タゴールの人気のほどがうかがえる。年譜を見ると、一九一三年にアジア人初のノーベル賞(文学賞)を受賞し一六年には来日している。時の人だった。

盛林堂ミステリアス文庫の新刊が届いた。未谷おと編『松村みね子譯詩集 月虹』(書肆盛林堂、二〇一四年九月九日)。そう、ここにタゴールの『新月』から選ばれた十篇の訳詩が掲載されているので東雲堂版を引っぱりだしてみたのである

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なんと松村みね子(片山廣子)は村岡花子の先輩だった。

《「赤毛のアン」で有名な、村岡花子とは、東洋英和女学校の先輩にあたり、柳原白蓮の紹介により信綱門下となった村岡花子に翻訳を勧め、自らの蔵書をきまえよく貸し出したという。そして、翻訳家、村岡花子の決定的な一冊となった「王子と乞食」が、昭和二年一〇月一五日、刊行される。この本は「花子が以前、片山廣子に日本の出版界における《家庭文学》の必要性を語った時に、片山廣子が「是非、これを」と薦めてくれたことがきっかけとなっている。》(本書より、小野塚力「片山廣子/松村みね子、あれこれ」

さて、『新月』の原題は『The Crescent Moon』である。クレセントは三日月。え、三日月は三日目の月だから新月ではないのでは? と思ったら、じつは新月には二つの意味があった。『言海縮刷』(明治三十七年再版)によれば

(1)朔(ツイタチ)ノ月。
(2)月初メノ夜ノ泛称。

である。泛称(ハンショウ)は総称の意。新しい月ということで三日目くらいまでなら新月でもいいようだ。クレセントの語源はラテン語の crescere 増大する。フランス語なら日本人にもおなじみのクロワッサン(croissant 三日月、三日月パン)ということになる。

二冊並べると悪いクセが出て松村みね子訳と増野訳を比較したくなる。あまり長くないもので訳に齟齬がある方が面白いなと思ってめくっていると、ありました。「職業」(松村)と「神命」(増野)。原題は「Vocation」で、どちらの意味も持ち合わせている。まずは増野訳。

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そして松村訳は次の通り。

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解説によれば松村が大正三年に雑誌『心の花』に「新月」を訳出したのが日本での初めての紹介だった。《ただし、翌年にはタゴールが多数翻訳されたため、顧みられることはほとんどなかっただろう》(未谷おと)という。増野訳の日本語としての調子は決して悪くないが、文体だけ比べると松村の方がずっと新しく感じてしまう。

詩のタイトル、これはやはり「職業」であろう。あるいは「天職」くらいの意味だろうか。子供の心理をうまく表現した詩だ。

増野訳で大間違いは二行目「鷹匠」。普通に読んでもヘンでしょう。hawker は商人というか行商人(hawk:go from street to street, house to house, with goods for sale)である。これは増野が松村訳を見ていなかった証拠になるだろう。

bangles は「くるぶしかざり」か「腕環」か? 腕輪が普通だが、意味としては両方あるようだ。くるぶしかざりはアンクレットとも言う。ただ思うに「鷹匠」と訳した以上は踝飾りでなければならないと増野は考えたのかもしれない。

植木屋のところで《誰も叱らない》と《手伝をするものはありません》もまったく違う翻訳だ。

nobody takes him to task if he gets baked in the sun or gets wet.

この take(a person)to task は「責任を問う、叱る、とがめる」という熟語。辞書を引けば出ている。増野の仕事と比べてみると(再版なのに訂正されていないのも納得できないし)、松村みね子の正確な英訳力がはっきり分る。


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by sumus2013 | 2014-09-04 20:20 | 古書日録 | Comments(0)
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