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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


五代目大橋宗桂将棋図式


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五代目大橋宗桂『将棋図式 下』(三木美記、文化七年六月)。詰将棋の本である。その下巻、詰め手順の解答だけが載っている。巻末に《文化七年庚午六月発行》としてあるが、これはあくまで初版の刊記の一部だろう。奥付はどう見ても明治の本だ。

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国会図書館で検索してみると三木美記名義では明治十年から明治三十三年までの刊行物が見つかる。『詩語粋金』など漢詩作法の書物などが多い。それ以前、幕末刊の書もあるにはあるが、それはこの本と同じく無批判に初版の刊記を採録したからであろう。将棋書としては以下の四点八冊所蔵。

 赤池賢齋 將棊圖解2巻 戊戌(天保9)の序
 伊藤宗看 将棊圖選2巻 : 一名木手柏[幕末明治期]
 伊藤宗印 将棋精妙 上・下 明16.8
 福泉藤吉 将棋新選図式 上・下 1883

他に三木書楼として次の本がある。

 福島順棊 將棊絹篩 上・下 1883

三木美記については下記サイトが詳しい。

詰棋書落ち穂ひろい190 赤池賢齋『將棊圖解』

重複するところもあるが『出版・書籍商人物情報大観』(金沢文圃閣、二〇〇八年)から大阪開成館「三木佐助」の項目を部分的に引用しておく。

《三木家の祖は文政八年七月河内屋総本家柳原喜兵衛氏より別家して河内屋佐助と称し赤本の出版と貸本を商ひそれに籐の販売を兼業してゐたが、二代三代に及んで貸本を廃し自宅に板摺場を設けて木版の詩作書、雑書の出版を行ひその傍ら漢籍、唐本、法帖類の販売を行つてゐたが業況は極めて微々たる状態にあつた。然るに四代佐助氏に及んで業況は頓に盛大を極め斯界の大書肆たる礎を築いた。

四代佐助は山城国相楽郡の出身で丁稚奉公から明治二十六年に三木家の養子になったという。書籍だけでなく茶業や楽器輸入も手がける実業家でもあった。心斎橋筋久宝寺町角という住所では現在も三木楽器開成館(大阪市中央区北久宝寺町3-3-4)が営業を続けている。HPには《SINCE 1825》と掲げられている(すなわち文政八年です)。


三月二十一日将棋無双」第八番がやっと解けたという記事を書いた。つづいて同じ『詰むや詰まざるや 将棋無双・将棋図巧』(東洋文庫282、平凡社、一九七六年版)から名作の誉れ高い第二番を解きにかかった。下の図は解答がすぐ横に掲載されているが、もちろん最初から解答を見ずに図面だけ別に書き写して、その図を持ち歩いてヒマを盗んでは考えていた。しかしこれはかなり大仕掛けな作品で容易に解けるものではない。四月、五月とほぼ二ヶ月間は思考の堂々巡りをくり返していた。

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図の解答手順(一部分です。実際はこの図の下へ続いて47手詰め)で二行目の下から二番目に「2六桂」とある、この手がどうしても見えなかった。

パリへ行くときも、きっと移動中は待ち時間が長いだろうからと思って、この図面を持って出かけた。関空まで電車のなかでずっと考えていた。飛行機の中はさすがに映画漬けだったので(六本見ました)詰将棋は忘れていた。そしてパリに到着して宿に落ち着いて、寝る前というか時差ぼけでまともに寝られないのだが、ベッドの上でゴロンと転がって詰将棋でも考えよう、どうせ解けないからちょうどいいや……などと思って図面を思い浮かべると、どうしたわけかとたんに「2六桂」が閃いた。

いくらヘボでも二ヶ月間考え続けた作品だ。盲点だった「2六桂」が見つかったら後はカンタン、龍を捨て馬を捨て桂馬を跳ねる、はははは、詰んでしまった! さすがに収束の手順にもひねりが加えられているが、それはそう難解というわけではなかった。

すると、どうだろう、その夜から寝る前に解く詰め将棋がなくなったじゃないですか。困ってしまった。念のためもう一題写して来るんだったと思っても後の祭り。第二番の詰め手順確認作業でなんとかしのいだが、答が分っているクイズほど面白味のないものはない。それにしても到着早々に天啓があるとは、やはり脳がコーフンしていつもと少し違っていたのだろうか?


by sumus2013 | 2014-07-20 21:23 | 古書日録 | Comments(2)
Commented by akaru at 2014-07-21 11:37 x
若いころならいざ知らず、今ではこの図面見ただけで解こうという気が起きません。sumusさん、偉いですねえ。
Commented by sumus2013 at 2014-07-21 20:15
解いてやるぞ、という気持ちはなく、ひまつぶしです。睡眠導入、いや、ボケ防止といったほうがいいかも。
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