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林哲夫の文画な日々2
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莢 vol.6

莢 vol.6_f0307792_20493975.jpg

『莢(saya) キトラ文庫通信』第六号(キトラ文庫、二〇一四年一月一日)。

キトラ文庫さんの古書目録だが、巻末にエッセイ「一夜千字」が三篇、阿部哲王「秋山駿の白熱教室」そして安田有の詩「じぇじぇじぇ」が掲載されている。『coto』がなくなってちょうど三年になる。安田さん、そろそろムズムズしているのでしょうか。

小生も「一夜千字」の一篇として「滓を集める」というエッセイを書かせてもらった。

キトラ文庫
630-0256 奈良県生駒市本町6−2
kitora(アット)shikasenbey.or.jp


滓を集める  林哲夫


 正直あまり大声で言いたくはないのだが、近頃、日本人の「漢詩集」を集めている。日本人という他には特段の決まり事は設けていない。値段が安いこと。縛りがあるとすればそれだけである。安ければ何でもいいのか? そうです。だから古本まつりの和本均一箱などはじっくりと時間をかけて吟味する。今時、漢詩など誰も読まないだろうとたかをくくっていたところ、ある一部の人々には強く求められていると見え、著名人の詩集は相当に高額である。そうすると必然的に、当方の手が届くのは、無名作者の状態の悪い詩集に限られてくる。
 集め始めて二年足らず。それでも『丙辰蕪稿』『忘形集』『餔糟集』『明理詩集』『幼詩雑記』『推敲』『詩稿』などと題された和綴本が机の脇に積み上っている。幕末から明治の初め頃に成ったものばかり。全て自筆本、全て千円以内である。著者名が判っているものもあるが、少々ネット検索したくらいで引っ掛かるような人物はいない。例外的によく知られたタイトル、例えば中島棕隠『鴨東四時雑詞』や頼山陽『薔薇園小稿』(附菅茶山詩抄)も架蔵している。ただしこれらもオリジナルな版本から無名人が書写した草稿であって、明治写しの前者が一二〇〇円(さすがに千円を超えた)、天保十年写しの後者はたった四〇〇円だった。
 閑に任せて、それら写本の薄い和紙の頁を繰ってゆく。丹念きわまりない筆致、あるいは難読の草筆で認められた漢字模様を漫然と眺める。朱筆で何度となく推敲された原稿もある。詩を読むというのとは少し違う。読もうにも、学のない哀しさ、読めない文字が多すぎるし、何より詩そのものはいずれも型通りに退屈なものだ。試みに著者不明『推敲』(明治七年頃)より七言絶句一首を引いてみる。

  自逃盛世愛閑居
  日々頑然臥草蘆
  閉戸留神雖散帙
  読残牀上両三書

 「自逃盛世」の傍らには「避喧辞世」と追記されているが、まあどちらでもよろしい。そう大した違いはないだろう。
 読むことが目的ではないとしたら、では何故に殊更つまらない漢詩集を蒐集するのか。それは活字本からは窺えない生々しい息づかいが感じられるからだ。彼らはどうしてここまで漢詩の創作に熱中できたのか? 維新前後の根底から世の中がひっくり返っているような時代に。不可解な情熱を映し出す反故同然の写本。文学の滓としか思えない。だが、それがいかにも愛おしいのである。



by sumus2013 | 2013-12-26 20:59 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)
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