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村上華岳自筆墓誌
十一月二日、JR長岡京駅前のバンビオ広場で開催された「天神さんからおでかけ一箱古本市」をのぞいた。なかなかに濃いメンバーなので、粒ぞろいのいい本が多かった。各箱をじっくり見ているとかえって迷ってしまったが、結局はみどり文庫さんから渋いのを三冊ほど頂戴した。そのなかの一冊が足立巻一『石の星座』(編集工房ノア、一九八三年四月二五日、装画=須田剋太)。
この本に惹かれた理由は「村上華岳自筆墓誌」と題された一篇に岸百艸が登場していたからである。 《追谷墓地に村上華岳の墓をたずねた。 岸百艸さんが案内してくれた。百艸さんは若いころは、阪妻のシナリオを書いていて『開化異相』はその作であるが、いまは市井に隠れ住んで、気ままに晩年を送る俳人・郷土史家であり、ことに近年は墓めぐりを一つのたのしみにしている。追谷墓地は家の近くなので、毎日かよっては、おびただしい墓を調べたそうである。》 《この墓地には神戸の歴史が化石になって密集しているように思われ、一つ一つ暇にまかせて洗ってみた。初代神戸市長の鳴滝幸恭から、華岳と関係の深かった四代市長鹿島房次郎、船成金の八代市長勝田銀次郎など歴代市長の墓があるし、鈴木商店の創設者岩次郎や、その大番頭金子直吉一族の墓、あるいは天下の金貸しといわれた乾新兵衛、航空機工業をおこした川西清兵衛、花隈を開発した関戸由義、生田川の流路を変えた加納宗七の墓もここにある。生田神社の社家だった後神(ごこう)家の代々の墓もならんでいる。》 《わたしも百艸さんの案内で、そうした墓を見て回っていたのであるが、とりわけ興味をそそられたのは、清朝末期の南画家胡鉄梅と悦夫人との墓である。》 《それとともに、元町に寺子屋を開いていた間人(はしうど)茶村、写真館を早く開いた市田左右太、牛肉業の先達森谷類造、最初の西洋料理屋外国亭を営んだ鬼塚仁右衛門、早くバナナを輸入した長谷川佐吉などの墓があるのも、いかにも神戸らしく開化の世相をしのばせる。》 《そうして村上華岳の墓の前に立ったのである。村上家の墓は、第十九区という、かなり奥まった高所にあった。雨後の神戸港がよく見えた。突堤には、外国船が並んでいる。》 《この「村上華岳之墓」の文字は、華岳みずから書き残していたものである。没後に遺作・遺稿を整理していると、この揮毫があらわれたので、そのまま墓に用いたと、長男常一朗さんはいわれる。》 《わたしが墓のスケッチをしていると、百艸さんがぼそぼそとした口調で語った。 「三ノ宮の"ブラジレイロ"に、よくコーヒーを飲みに来ていた。日本人ばなれがしていたな。ヨーロッパ人というんではなく、インド人、あるいは南方の外人といった感じだった。顔色は浅黒くて、くすりのせいか、色つやはわるかった。一度も話しかけたことはなかったが……」》 《花隈の華岳邸には、おびただしい蔵書があった。常一朗さんが『神戸新聞』(昭和四十九年一月二十五日)に書かれた文章によると、地理・宗教の本が最も多く、アメリカの東洋学者グリフィスや、ドイツの東洋学者ル・コックの大著述もあり、イタリア中世の宗教画家ジォットーやアンジェリコ、イギリスの詩人・画家ブレークの画集を座右にしていたという。日本人の詩集も多く川路柳虹・千家元麿・日夏耿之介・萩原朔太郎・竹内勝太郎・宮澤賢治などの詩集が目立ち、そのかわり小説類はほとんどなく、あってもほとんど開いてなかったそうである。》 宮澤賢治の詩集があったというのは気になる。華岳の歿年が昭和十四年、賢治は昭和八年歿、生前の詩集は『春と修羅』(一九二四年)だけだから、ほとんど売れなかったというこの詩集を華岳は持っていたのか? 《制作・読書・思索に疲れると、華岳は散歩に出る。花隈の坂を元町のほうへくだって、洋書などを輸入し寿岳文章『ブレイク書誌』などを出版した"ぐろりあ・そさいて"[ママ]に必ず立ち寄り、ロゴス書店や骨董屋をのぞき、画集・宗教書やインド・中近東の工芸品をしきりに買った。そのとき一服するのが元町一丁目に近いコーヒー店"ブラジレイロ"で、常一朗さんもよくつれていってもらったという。百艸さんはそんな日の華岳を見かけたわけである。》 華岳の暮らし振りは理想的ではないか。 岸百艸『百艸句稿 朱泥』 http://sumus.exblog.jp/11588991/ 『書彩』第九号(百艸書屋、一九六〇年五月) http://sumus.exblog.jp/6368808/ 『書彩』3 http://sumus.exblog.jp/11652790/
by sumus2013
| 2013-11-05 20:40
| 関西の出版社
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